表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/134

戦いの後で (其の三)

それからまた数週間が経過し、ここへ来てひと月近くたった頃。

ようやく食事も自分で取れるようになり、声も元通り。

リハビリを経て、ベッドから起き上がれるまで回復すると、うーんと体を伸ばした。


「エドウィン、色々ありがとう。情けない主でごめんね」


「ううん、主様が元気になってよかった。俺は主様の傍に居られるだけで幸せ」


彼はニッコリ嬉しそうにほほ笑むと、甘えるように額をスリスリと擦る。

プラチナの髪を優しく撫でていると、寂しさがよぎった。


「エドウィン、私はそろそろ王都へ帰るよ。せっかく仲良くなれたのにごめんね。こうやってエドウィンの頭を撫でられるのもあと少し……」


透き通る髪を一房指へ絡ませると、エドウィンがパッと顔を上げた。


「何言ってんの?俺も王都へ行くよ」


「へぇっ!?王都には簡単に入れないし、入ったとしても街には人間がいっぱいだよ?それに人狼たちは来られない。仲間や友人と会えなくなるんだよ?」


「構わない。主様に触れて変身すれば人間と変わらないから大丈夫。主様を見つけた人狼は、その人と共に歩むんだ。それが俺たちの習わしだから。王都へ入るのはピーターがやってくる。そこで俺ピーターに剣術を教えてもらうんだ。主様を守れるよう、強くなりたい」


確固たる意志を宿した金色の瞳。

頭をなでる手が止まり、唖然としていると、グレッグ先生がやってきた。


「調子はどうだい?大分回復したようで嬉しいよ。だけどあまり動き回らないようにね。激しい運動は厳禁だよ。最初は本当にどうなる事かと思ったけれど、本当によかった。丁度明後日には王都から来られたお医者さまや関係者、騎士の方が帰られるみたいだから、そこで一緒に帰れそうだね」


グレッグ先生は私の傍へやってくると、手にしていた小鉢を傾け薬包紙へ分ける。

小さく折り布団の脇へ置くと、コップを用意し水を汲み始めた。


「あなた方はどうするのですか?エドウィンは私についてくると言ってますが……」


「あぁ、それは皆が分かっているだろう。主を見つけた人狼は主と共に居ることを望むからね。私たちはそうだね……盗賊の残党が残っている以上、ここにはいられないだろう。だが移動できるほどの備蓄もなく、遠くへは行けない。近場で探しているが、まだ見つかっていないんだ。騎士達も手伝ってくれていてね、辺りを探しているんだが、なかなか良い場所がないんだ」


困った様子で、弱弱しく笑みを浮かべたグレッグの姿に、何かモヤッとした感情が浮かぶ。


人間から隠れ続ける生活なんて、本当に可能なのだろうか。

今はいいとしても、これから先……人間の人口は必ず増えていく。

そうなれば経済がどんどん発達していくだろう。

利益、利便性が優先され、山や川が開拓され、彼らの住処が奪われていく。

これは前世で学んだこと。

世界が変わったとしても、人間の本質は変わらない。


人狼と人間……人種は違えど、同じ地に住まう者同士。

意思疎通も出来るし、手を取り合えないわけではない。

現に今こうして人間と人狼の関りを見て、出来ない未来ではないのだ。

だがそのためには、彼らが定住するための土地が必要になる。


「はい、食後にこの薬を飲むんだよ。数十年ぶりに人間たちと関わったが、なかなかいいものだった。さてと……」


人狼に土地を与えるような国はないよね。

あっ……そうだ!

明暗を閃くと、私は慌ててグレッグ先生を引き留める。


「待ってください。移動場所がなければ、私の国へ来ませんか?壁の中にある王都は難しいですが……壁の外の土地なら、用意出来るかもしれません」


先生は目を丸くすると、体をこちらへ向けた。


「土地を……?君は騎士だろう?土地を用意するなんてどうやるつもりなんだい?それに大抵の人間たちは自分たちと違う者を忌み嫌う。ここへ来ている人間たちが珍しいだけだよ。どうにかしようとしてくれる、その気持ちはとても有難いけれどね……」


寂しそうに笑うグレッグの姿に、私は首を横へ振ると裾を掴んだ。


「そんなことありません!すぐにとはいきませんが……お互いがお互いを知れば、人狼と人間が暮らせる街がきっとできます。逃げ続ける生活も限界がある。なので一度私の提案を皆さんに話して頂けませんか?移住先のあてはあるんです、信じて下さい」


私は彼の目を真っすぐ見て、必死に説得する。

すると先生はしばし考え込むと、わかったよとつぶやき、部屋を出て行った。


★おまけ(ピーター視点)★


頭領を騎士へ引き渡し、村で尋問が始まった。

俺も尋問に加わると、頭領が俺を見て嘲笑う。


「よぉ、お前か~あの嬢ちゃんはどうした?死んだか?大分痛めつけてやったからなぁ~。腕を折ったときあの顔。恐怖と苦痛が混じったあの目、思い出すだけでゾクゾクするぜ。けどなそれでも歯向かってきたんだ、それをねじ伏せる快感、最高だったなぁ~」


「てめぇ!ぶっ殺してやる!」


聞くに堪えない言葉に、頭領を足蹴りすると仲間が慌てて止めに入る。


「落ち着け、挑発にのるな」


止めに入った仲間を睨み付けると、不承不承で一歩下がる。

頭領はいてぇっと呟くと、またあの目を俺へ向けた。


「ガハハ、そうか、あの女、お前の女だったんだな。悪いことしちまったなぁ~、あんまりいい女だから食っちまったよ。美味かったぜ」


ゲスな笑い声に怒りで目の前が赤く染まると、俺は拳をふるいあげていた。


「おい、ピーター、やめろ。もう出ていけ」


ガッチリ体ごと止められ身動きが取れない。

俺はそのまま追い出されると、拳を地面に叩き付けた。


食ったってどういうことだよ。

あいつまさか……。

ドロドロとどす黒い感情が胸に渦巻く。

だがあいつは貴重な証人、手は出せない。

リリーがあの男に何かされたのかと考えると、正気じゃいられなかった。


友人が傷つけられた感情とは違う。

ライバルが傷つけられた、そんな感情も違う。

只々許せなくて、あの男を殺したい、この強い感情の正体は……?


その正体は、元気になったリリーに会ってようやくわかった。

俺はリリーを好きなのだと——————————————

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ