戦いの後で (其の一)
診断書は無事に王都へ届き、城の医師がすぐに薬と道具を用意してくれた。
それを持ってエドウィンとピーターが村へ帰ってくる。
それは彼らが村を出て一日も経っていなかった。
ノア王子は念のため医者も手配してくれたようだが、ここまで到達するには時間がかかるだろう。
エドウィンの背中に乗せるわけにもいかず、馬車で整備されていない山道を通ってくるのだから、最低でも3日間はかかる。
この話を聞いた時のは、村に医者が来た後だけどね。
あの日の事は熱で魘されあまり覚えていない。
意識が朦朧としながらも、浅く呼吸を繰り返すだけで精一杯。
体中が痛くて、苦しくて……。
正直何度も三途の川が見えたのは秘密。
向こう岸へ渡ろうとするたびに、ピーターの声が響いた。
あの言葉がなければ、きっとここまで持ちこたえられなかったかもしれない。
処方された薬で熱が下がり、道具で呼吸が幾分マシになると、私の容体は次第に安定していった。
無事峠を越えた数日後。
王都から医者と騎士が村へやってきた。
盗賊の頭領の引き渡しと事情聴取、それと私の本格的な治療が始まった。
体は動かせないため、暫くは村でお世話になる。
騎士達も周辺の調査などで、暫くの間ここに滞在するそうだ。
ピーターは私が動けないのをカバーするように、あちこち動き回り、人狼と人間の間に入り話を進めていた。
人間たちが多くやってきた最初頃。
人狼の大人たちは警戒し、子供たちはひどく怯えていた。
それもそのはず、子供たちが知る人間は盗賊だったから。
しかし騎士たちの友好的で誠実な態度に、害がないと伝わると、騎士と人狼の子供たちが話している姿を目にするようになった。
穏やかな空気が流れ、人狼たちに笑顔が戻る。
そんな人狼と人間たちの交流する姿を窓から見ていると、胸がほっと温かくなった。
彼らが逃げる必要のない、そんな街があればいいのに……そんな事を考えたのだった。
そして私はというと……寝て起きての繰り返しで体はまだ動かない。
目覚めるといつもそこに、エルヴィンの姿があった。
付きっきりで看病してくれているのだろう……大丈夫だと伝えたいが、肺が痛く声を出せない。
自分で食べることも出来ない為、冷ましたおかゆが口へと運ばれる。
主とは到底いえない情けない姿。
こんな姿をいつまでも見せるわけにはいかないよね。
早く回復しないと……。
私は食事を終えすぐに瞳を閉じると、体力を回復するためにも、深い眠りについたのだった。
そんな生活が数週間続き、ようやく起き上がれるほどまでに回復した。
折れた腕は自由に動かせないが、体を起こせるようになっただけでも大きい。
寝たきり状態は退屈だし窮屈で仕方がなかったから。
けれど部屋で安静状態は変わらない。
窓から差し込む、月明かり明かりを頼りに本を読んでいると、部屋にピーターがやってきた。
「リリー調子はどうだ?」
「ピーター、この通りもう元気だよ。ほら」
元気だと見せつけるように胸を張ると、読みかけの本をベッド脇の棚へ置いた。
「バカ、腕とあばら骨を折られて、そんなすぐ治るかよ。無茶すんな」
ピーターは呆れた様子で笑うと、私の髪をクシャクシャと撫でながらベッド脇へと腰かける。
「あの、今回は面倒なことに巻き込んじゃってごめんね。力を貸してくれて本当にありがとう。正直ピーターがいなかったら成功してなかった」
頭を下げ顔を上げ彼を見ると、彼なぜか真剣な目で私を見つめていた。




