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作戦開始 (其の四)

私はキッと彼を睨み付け、折れていない手で土を握ると、顔面狙って投げつけた。


「グッ、このアマッ!!」


彼の視界を奪い怯んだ隙に、私は体を反転させると、急所へ蹴りを一発おみまいする。

そのまま巨体を押し退け、立ち上がろうと脚に力を入れた刹那、背中に激痛が走った。


「ぃたあぁっ、がはぁッッ」


拳で叩きつけられたのだろうか……。

衝撃に一瞬意識を飛ばし、気が付くと私はうつぶせで地面へ倒れ込んでいた。

後ろから馬乗りになり私の体を抑え込むと、折れた腕を痛めつける。


「くぅッ、はぁッ、離して、あぁ、あ”あ”ああああああああ」


胸を押さえつけられ、バキバキと骨が割れる音が頭に響く。

あまりの痛みに目の前がチカチカ光った。

息をするのも困難なほどの激痛。

私はぐったりと倒れ込むと、頭領は私の髪を引っ張り顔を上げさせた。


「あぁ、いてぇ!やるじゃねぇか、まだ反抗できる気力があったか。いいね、いいね~面白い。お前は売らずに、俺の女にしてやろう」


頭領は嘲笑いながら、胸元へ手を伸ばすと、膨らみを強く握る。


「いたっ、くっ、あ”あ”ぁぁぁッッ、はぁ、はぁ、ィヤッ」


「俺に逆らったらどうなるか……じっくり体に教え込んでやるからよ」


体を動かすだけで、全身に激痛が走り、もう力が入らない。

気力だけでどうこうできる限界を超えていた。

動かなくなった私の様子に、彼は私の足首を持ち上げ後ろへ引きずると、股の間へ体を入れる。

ゲスな笑いが頭に響き、気持ち悪さに嘔吐がこみあげた。


悔しさと惨めさ、屈辱に嗚咽が込み上げるが、私はそれを必死にこらえ、拳を握りしめた。

頭領は短剣を取り出し、ズボンをズタズタに切り裂む。

最後に残った布を剥がすと、下着があわらになった。

素肌が土に触れ、砂利にこすりつけられると、血が滴っていく。


今から始まるのだろう凌辱を想像すると、体が勝手に震え始める。

ゴツゴツした手が太ももをまさぐると、堪えていた涙が溢れだした。

こんな男に……ッッ。


「ワオオオオオオン、ガウッガウッ、ガッ、グルルルルッ」


諦めかけたその瞬間、獣の声が響いたかと思うと、私を抑え込んでいた重さがなくなった。

何が起こったのか、状況を把握できない。

私は何とか体を起こし恐る恐るに振り返ると、そこには白狼が頭領に乗りかかり、腕に噛み付いていた。


「なっ、いてぇッ、クソッ、退けええええ!」


頭領は手にしていた短剣を振り回すと、白狼は一度腕から離れ土を蹴り、また頭領へ向かって牙を向けた。

しかし牙は剣で受け止めると、力で弾き返され、白狼が後ろへ吹き飛ばされる。

白狼は空中で一回転し華麗に着地すると、また頭領へと向かって行った。

あの姿は……。


「エドウィン……」


ようやく脳が動き始める。

痛みが麻痺しているのだろう、先ほどの激痛が嘘のように消えていた。

けれど思うように体は動かない。


ゆっくりと辺りを見渡すと、柵の方で狼たちと盗賊との戦闘が始まっていた。

その姿に煙が全て消せたのだと、ほっと胸をなでおろす。

村から盗賊たちの悲鳴が轟き、阿鼻叫喚の様子だ。

よかった……作戦は無事成功したんだ……。


しかしまだ終わっていない。

頭領とエドウィンが戦う姿に、ボロボロになった体へ喝を入れる。

痛みはもう振り切れた、まだいける、あと少し……。

折れていない腕に力を入れ何とか立ち上がろうとしていると、先ほどの手とは違う、優しく温かい手が肩へ触れた。


「リリー、遅くなってすまない」


ピーターはボロボロになった私の姿を見ると、言葉をつまらせる。

そんな彼に大丈夫と頷くと、心配させないよう無理矢理に笑って見せた。


「へへ、ごめんなさい、思ったより苦戦してしまって……でも大丈夫」


彼は私から視線を逸らせ無言のまま上着を脱ぐと、私の肩へかける。

大きな上着をギュッと握りしめると、彼の匂いが鼻孔を擽った。

温かくて優しい香り。

ピーターはそっと私の体を抱きしめると、腰の剣を抜刀し立ち上がった。


彼を纏う空気がいつもと違う。

訓練で戦うときに感じる威圧感ではない、これは殺意。

いつもの紅の瞳ではない、赤く燃えるような憎悪が浮かぶ瞳が目に映る。

その瞳を見た瞬間、私は初めてピーターに恐怖を感じたのだった。

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