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作戦開始 (其の三)

盗賊たちは円陣をジリジリと狭めながら近づいてくる。

剣を構え男たちを威嚇しながら逃げ道を探すが、そんな隙間は見当たらない。


「大人しく降参すれば、痛い目にあわなくてすむぞ」


「ほらほら、怖がらなくていいぞ~、優しくしてやるからさ、ガハハ」


「こいつは売りもんじゃねぇんだろう。ならいいよな?」


「まぁいいんじゃねぇか。俺も混ぜろよ」


さすがに7人相手はきついか……このままだと追い詰められる。


チラッと北へ視線を向けると、煙はまだ上がったままだ。

ここから離れて、もう少し時間を稼がないと……。

私は剣から手を離し、地面へ落とすと静かに両手を上げる。


「おっ、もう降参か?賢い判断だ」


正面から嘲笑いながら近づいてくる無精ひげの男へ顔を向けると、目線は谷間にくぎ付けで、手が気持ち悪くこまねいている。

無精ひげの男の体格は他の者より小柄。

狙うなら彼で決まり。


私は胸のボタンをもう一つ外すと、男へ見せつける。

ゲスい笑いが深くなると、歩くスピードが速くなった。

もう少し、後一歩……。

男との距離を測りながら、土の上を滑らせるように右足を前へ出す。

今だ!


腰を大きくひねり、脚を上げると油断していた男の首へと見事命中。

呻く男を蹴飛ばしすり抜けると、そのまま南へ走り去った。


「いってぇっ、オラッ、待てやぁ、ゴラァァッッ」


「お前何やってんだよ!」


私は脇目もふらずに走ると、ピーターから引きはがすように、テントの隙間を駆け抜ける。

後ろから追いかけてくる男たち。

騒ぎを聞きつけたのか、気が付けば仲間が10人ほどに増えていた。

しかし足はそれほど速くなく、追い付かれる気がしない。


このまま逃げ続ければ時間を稼げる。

後ろを注視しながら、南に延びる坂を駆け上がろうとした刹那、突然死角から伸びてきた腕に捕らえられた。

咄嗟に体の向きを変えると、私は捕らえられた腕を軸に飛び上がる。

そのまま蹴りを繰り出すが、脚は片手で受け止められた。

なっ、どうしてッッ!?


「おい!お前らああああ、こんな小娘に遊ばれてるのか?しっかりしろよ!」


慌てて振り払い脚を下げると、捕まれた腕に力が入り、骨がミシミシと嫌な音をたてた。


「あ”あ”ぁぁぁッッ、くぅッ、いッッ……はぁっ、ああああッッ」


腕を締め上げられ、ボキッと骨が折れると、痛みに意識が飛びそうになる。

ダメッ、ここで意識を失うわけにはいかない……ッッ。

痛みに耐えながら視線を上げると、先ほど洞窟にいた頭領が、男たちを怒鳴りつけている。

彼らは小さな悲鳴を上げ怯えると、頬をヒクヒク痙攣させ、泳いだ目で口を開いた。


「おっ、お頭、いやーちょっと遊んでやってただけですって。なぁ?」


「あぁ!こんな小娘相手に手こずるはずないっすよ!」


しどろもどろで答える男たちに、頭領は舌打ちすると苛立ちをあらわにする。


「本当に口だけは達者だな。チッ、それにしても、いつの間に逃げ出したんだ?狼どもが手引きしたか?猪口才な真似を」


頭領はだるそうに首を左右へ傾げると、柵へ顔を向け叫んだ。


「今すぐ捕らえている人狼の娘を数人連れてこい、あいつらの前で殺してやる、見せしめだ」


男たちは「はいいいいいい」と返事を返すと、あたふたとしながら柵へと走って行った。


仲間がいなくなった今、逃げるチャンス。

だが振り払える力はない。

腕が私よりも倍以上太く、体格もデカイこの男から逃げる方法は……。

私は痛みを堪え虚勢を張ると、頭領を睨みつける。


「ほう、腕が折られても怯えないのか。いいなぁ、その目。俺はなぁ、強気な女が好みなんだ。屈服させる快感、たまんねぇ、考えるだけでゾクゾクするぜ」


頭領は私の髪を掴むと、顔を寄せニタニタと笑う。

気持ちの悪いその顔に、私は挑発するように唾を吐きかけると、頭領から笑みが消えた。


「良い根性してんじゃねぇか」


頭領は空いた手で唾を拭くと、私の髪を引っ張り体を持ち上げ、壁に向かって投げつけた。

圧倒的な力の差になすすべもない。

背中から壁にぶち当たり、折れた腕に激痛が走ると、痛みに悶えた。


何とか体を起こし壁にもたれかかるが、これ以上動かせない。

頭領はゆっくりとこちらへ近づいてくると、楽しそうに私へ覆いかぶさった。

乱れた服をビリビリは剥ぎ取り、胸元がはだけあらわになると、膨らみを鷲掴みにされる。


男が触れた感触に悪寒が走った。

胸の奥からこみあげる恐怖を、必死に抑え込む。

唇をギュッとかむと、血の味が口に広がった。

しっかりしないと……。

ノア王子の騎士である私が、こんな男に負けるわけにはいかない。

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