作戦開始 (其の一)
見張りだろう男たちの姿が見える位置までやってくると、彼らの後ろからモクモク白い煙が上がっている。
どうやら臭いの根源はあの煙。
なんとも強烈な香りが辺り一面に広がっている。
首を伸ばし覗き込んでみると、何かの木を燃やし匂いを発生させているようだ。
焚火の中央には火がメラメラと燃え、傍には薪がくみ上げられている。
見張りはこの二人以外にいないようだが、何かあれば誰かが駆けつけてくるだろう。
敵の人数は20人程度だと聞いているし、ここは……。
戦場において、こちらの人数より、相手の人数が多い場合、勝つには奇襲作戦しかない。
私はピーターを見て兵法で習ったサインを出してみると、彼はコクリと頷いた。
言いたいことは伝わったのだろう、彼は木陰に隠れながら見張りの背後へ回り込む。
私も彼とは反対側へ向かい男の背後へ回ると、木陰に身を顰めた。
「ガハハッ、今回はたんまり金を稼げたな。人狼は高く売れるぜ」
「あぁそうだな、あの教団、いい情報を教えてくれたぜ。人狼の居場所に、弱点、それにノア王子の情報。最初見た時は、自分で話しもしねぇで、全身真っ黒のローブ姿。顔も見えねぇし気味悪くてよ、何だこいつらと思ってたぜ」
「だな、でもお頭ノア王子の件をどうすんだろうな?確かノア王子を引き渡すのが、今回の条件じゃなかったか?」
「お頭なら、あいつらが来る前にバックレるんじゃないか?直に買い取り業者が来るだろう。さっさと金を手に入れてこんな山奥からずらかりたいぜ。ガハハハ」
教団に黒いローブ……ノア王子。
それってもしかして、ノア王子の母親をそそのかした犯人と同じ?
今回の事件にも、そいつが関わっているというの?
様子を窺ないながらじっと身を潜めていると、男のうめき声が響いた。
「ガハッ……ッッ」
その音に私も慌てて陰から飛び出すと、もう一人の男へ飛び掛かる。
「うん?おい、どうしッッ、グハッ……」
剣は使わず打撃で床へと押し倒し馬乗りになった。
首元に剣先を突き立て動きを制御してから、柄で後頭部を思いっきり殴る。
気絶した男をロープで縛り、口元に布を当てると持ってたサーベルを頂いた。
私は臭いの根源である焚火をバラバラにすると、空気の通りが悪くなり、煙が次第に小さくなっていく。
火の粉が飛んだとき様に用意している水の入ったバケツを取ると、大きく振りかぶった。
その刹那ピーターの手がそれを静止する。
彼はトントンと肩を二度叩くと、逆方向を指さしながら、私からバケツを奪い取った。
後ろを振り返ると、煙が二か所上がっている。
北に一つ、西に一つ。
臭いの元はここだけじゃない。
ここ消しても、あと二つある以上人狼は近づけないだろう。
だけどもう焚火は崩してしまった……ここの煙が消えれば、怪しんで敵が集まってくる。
それは避けたい、私達は二人しかいないのだから。
自然に消えるのを待ち、その間に二つを消しに行く。
それが正解。
私は振り返ると、わかったとピーターへ頷いた。
捕らえた盗賊は人目につかない場所へ転がし、私達は物陰に隠れながら西へと進んで行く。
道中敵はいなかったが、人狼の男たちの死体をいくつも見た。
埋葬はされずカラスがたかり放置されままだ。
目玉が繰りぬかれ死体はひどく損傷している。
勇敢な戦士たちの死に胸が痛くなった。
彼らの為にも一刻も早く人質を救出しないと……。
テントとテントの間をすり抜け、何事もなく西側へやってくると、私達はまた二人の見張りを仕留めた。
焚火を崩し火を弱めると、東を確認する。
白い煙はまだ上がっているが、大分弱くなっていた。
急がないと……。
ピーターと顔を見合わせ、身を潜めながら慎重に北へ進むと、村の中央に長方形の大きな柵があった。
中にはぐったりした人狼たちであふれている。
子供に女性……彼らが話していた人質で間違いない。
なんてひどい扱い……許せない。
私はグッタリする人狼たちの姿に拳を握りしめると、怒りが込み上げてきた。




