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悪役令嬢

新年明けましておめでとうございます。

今年もどうぞ宜しくお願いいたします<(_ _)>

記念すべき王子との初対面。

母は間違いなく私を王子の婚約者にしようとしていたのだろう。

粗相のないようにと何度も言われていたから。

私達の様子を緊張した面持ちで見守っていた母は突拍子もない言葉に驚愕すると、慌てた様子で腕を取り私を家へ連れ帰った。

屋敷に到着するや否や、顔面へグーパンチ。

衝撃で後ろへひっくり返ると、母は怒りの瞳で私を見下ろした。


「王子の前でなんてことを言い出すのよ!あれほど粗相はないようにと言ったわよね。冗談では済まされないわよ。あんな公の場で何を口走っているのよ!騎士になりたいですって、信じられないわ。令嬢が騎士だなんて聞いたことがないわ。けれど私の約束を破ってまで宣言したのだから、騎士になりなさいよ。それまで家へ戻ることを禁止しますから」


母はすぐに執事とメイドを呼び寄せ荷物をまとめさせると、宣言通り私を家から放り出した。

ドアが固く締められ、入ることは出来ない。

外には母の指示だろう、屋敷の護衛騎士が荷物を持ち歩き始める。

その姿に慌てて立ち上がると、彼の背中を追いかけて行った。


やってきたのは王都に唯一存在する騎士見習いの宿舎。

こんなに間近で見たのは初めてだった。

普通の令嬢はこの辺りに用などないのだから当然。

突然現れた私の姿に、宿舎の窓から少年たちが物珍しそうに顔を出していた。


この世界では女で騎士になった人はいない。

禁止という訳ではないが、今まで現れなかったのだ。

そんな場所に女かつ公爵家の令嬢が来るなんて、天変地異の前触れだと思われても不思議ではない。


「母上様の指示によりこちらへお連れ致しましたが……。騎士の宿舎への入学手続きを済ませております。もちろん現状女性の騎士はおられませんので、女性はリリー様お一人となります。お部屋については、中でお話を聞いてください。あの……不躾なのですが、リリー様は本気で騎士になられるおつもりなのですか?」


心配そうな騎士の表情に苦笑いを見せると、彼の持っていた荷物を抱える。

答えずにそのまま逃げるように中へ入ると、案内人らしき人に連れられ部屋へと向かって行った。


中へ入ると少年や青年の姿。

皆私の姿に奇々怪々の様子だ。

私は居た堪れない気持ちで、俯きながら廊下を進んで行く。

男性の宿舎と同じだが、食堂や休憩室がある階にやってくると、一番隅っこの部屋へ案内された。


中へ入ると埃っぽく、長い間使われていないのだろう。

窓は一つ、倉庫だったのだろうか、ベッドはおろか、机や椅子もない。

口元に手を当てながら、窓を開け部屋へ光を入れると、床には物を置いていたのだろう痕が残っていた。

とりあえず掃除かしらね……。

私は持ってきていた荷物を置くと、腕をまくり大掃除を始めたのだった。


あらかた部屋が片付いた頃、空には月が昇っていた。

くたくたになった体を休めるように床へ寝転がると、じっと天井を見つめる。

フカフカのベッドはない。

背中が痛い、ベッドが恋しいわ……。


記憶が蘇る前のリリーは生粋のお嬢様だった。

傲岸不遜で、プライドが高く気高い令嬢。

悪役令嬢になるだろう素質は十分。

もちろん剣術や武術なんかとは縁遠い存在。

守ってもらうのが当たり前で、いつも人を見下していた。


そんな私が騎士になりたいなんて……ありえないと誰もが思うだろう。

もっと他にやり方があったのかもしれない。

だけどもう後には引き返せない、

今更後悔してもどうしようもないもの。


そういえば今日会った王子は、まだ女嫌いではなさそうだった。

どういう経緯で女嫌いになったんだっけ……?

確か彼の過去の描写があったはずなんだけれど……思い出せない。


はぁ……あまり暗い事ばかり考えないで、前向きに考えていきましょう。

大好きだった小説の世界に居るなんて、考えようによってはラッキーなことだわ。

侍女と王子の恋愛を間近で見られるのですもの。

確かヒロインが現れるのは私が17歳になってから。

楽しみだわ。

根性と気合で剣の技術を磨いて、17歳ノア王子の隣で二人の恋愛を傍観するのよ。

素晴らしいわ!


私はむくりと起き上がり、片付けるときに見つけた大きな布を床へ敷き、くるっと包まった。

そういえば騎士になるには何をするのかしら?

何もわからないけれど……とりあえず明日から頑張りましょう。

そのまま目を閉じると、疲れていたのだろうあっという間に眠りについていた。



湿っぽく暗い牢屋の中。

女のすすり泣く声が響き渡る。

声のする方へ近づいていくと、そこには令嬢の姿があった。

赤いドレス姿で、真っ赤なバラの大きな髪飾り。

けれど手に縄がかけられ、冷たい床に座らされていた。


彼女を慰める人はいない。

一人孤独に泣き続ける令嬢の姿。

その姿が前世の私と被った。

自分の境遇を哀しみ愁い、必死に正当化しようと嘆くその姿。

じっとその姿を眺めていると、すすり泣く声が頭に響いた。


私が悪いの?

どうして私が捕まっているの?

悪いのはあの女でしょう。

なのにどうして、どうして、どうしてなの……?

私が何をしたって言うのよ。


私の方が王子と過ごした時間は長いはずよ。

一番傍で彼を支えていたのはこの私。

彼のために努力を積み重ねてきた。

恥じぬ令嬢になるために……。

だけどそれをあの女が壊したのよ。

許されるはずないじゃない。


彼が私の全てだったの。

なのにどうして……?

教えて、王子……私はどうすればよかったの……?

私はどこで間違えたの――――――――――。



*******************

新年明けましておめでとうございます。

今年もどうぞ宜しくお願いいたします<(_ _)>

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