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救出作戦 (其の四)

ピーターと合流すると、土の上に座り、私はここまでの経緯を簡潔に説明する。

頭領と教団の存在。

捕らえられたところを彼らに救ってもらった事実。

そこで彼らが人質を取られ、脅されている事を知った。

彼らを救いノア王子の元へ戻るために、今から人質を救出にいくのだと。

全てを包み隠さず話すと、ピーターは腕を組み考え込んだ。


「……話は概ねわかった。人狼か……存在するのは知っていたが……。助けるのならもちろん協力する。だがその前に、お前の後ろにいるそいつは何なんだ?」


終始私を後ろから抱きしめ続けるエドウィンへ、ピーターが訝し気な表情で見た。

ペッタリとくっついて離れない。

その様子に私もエドウィンへ顔を向けると、金色の瞳が嬉しそうに輝いた。


「あー、えーと、私もよくわかっていないの。何でも私が彼の主様になっちゃったみたいでね……」


「うん、俺の主様」


エドウィンはギュッと私を抱きしめると、クンクンと鼻を揺らし顔を上げた。

彼の視線の先を追いかけると、森の中に浮かぶ獣の目。

いつの間にか私たちは、獣の目に囲まれていた。


「なっ、これはッッ、いつの間に……」


「みんな二人は味方だ。彼女は俺の主様」


エドウィンは私を抱きかかえたまま立ち上がると、見せつけるように持ち上げる。


「ひゃっ、えーと、どうも……はははは」


どう反応していいのか、私は苦笑いを浮かべると、獣の目たちに手を振って見せた。

私の行動に敵意がないと伝わったのか、カサカサと音と共に人影が現れる。

狐のお面をつけた男が近づいてくると、私達の前で立ち止まった。


「エディ、主様を見つけたってのは、本当なんだな。その人間か、よかったな」


ジロジロと探るような視線が突き刺さる。

何とも言えぬ圧迫感に、たじろいでいると、ピーターが私たちの間に割り込んだ。


「おい、その面をなんだ?それにさっきから主様、主様って。一体何なんだ?」


ピーターは我慢ならずに叫ぶと、獣目が彼へと集まった。

鋭いその視線に、ピーターはグッと言葉を飲み込むと、頬を引きつらせながら後退る。

何とも言えぬ空気が流れる中、狐のお面の一人が前へやってくると、静かに面を外し、ピーターを真っすぐに見つめた。

現れた素顔に、ピーターは目を見開くと、頬から生えた3本髭と頭の上についた耳をまじまじと見つめる


「人間は己と違う者を嫌うだろう、だからこうして面で隠している。こうして話をしても人間には理解できるのかは知らないが……。主様というのは、その名の通りつき従うべき主人だ。人狼は昔から、主に仕えるのが生涯の使命、喜び。古い時代の人狼は、主を探す旅をし、見つけたら主様と永遠の誓いを立てる。見つけるまでは人型にならない、そんな決まりも存在した。だが今の時代、主様のために生きていくのはナンセンスだろう。戦争もない平和な時代で、会えるかどうかもわからない、どこにいるのかもわからない、そんな相手を探し続けるんだ。だから……いつからかはわからないが、俺たちは主を探すことをやめた。それに狼の姿では何をするにも不便だからな。だが主がいないままで人の姿をとると、尻尾や耳、獣の跡が残る。だが主を見つけた者は、本当の人型になれる。血に受け継がれている忠誠心に、会えばわかると伝えられていたが、こうして主を見つけた人狼は何十年ぶりだろう」


傍にやってきた人狼は、人型になったエドウィンの姿を嬉しそうに眺める。

彼の頭には三角の耳と獣の髭が生え、お尻からフワフワの尻尾。

改めてエドウィンを見ると、彼は人間と変わらない姿。

この違いが主を見つけた者と、そうでない者なのだろう。


彼とエドウィンは友達なのだろう、主を見つけた彼を祝福し和やかな空気が流れる。

そんな二人を穏やかな気持ちで眺めてると、ピーターが私の傍によってきた。

耳元へ顔を寄せ、コソコソと囁く。


「お前が本当に主様なのか?騙されてねぇか?……大丈夫なのか?」


えっ、どうなんだろう……。

本当の主はノア王子のはずなんだけれど……こうして彼は人間と変わらぬ姿になっている。

やっぱりこれ……小説のストーリーを変えてしまったのかな……。

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