救出作戦 (其の三)
時は少し遡る。
ノア王子を乗せた馬車が隣国へと出発し、ピーターと騎士2名がその場に残る。
彼らは森の中へ入ると、私の捜索を進めていた。
「とりあえず犯人の痕跡を探ろう」
上級生の騎士が指示を出すと、ピーターは森の奥へと進んで行く。
警戒しながら慎重に捜索していると、人が通っただろう痕跡を見つけた。
「おい、こっちだ、ここを通った形跡がある」
山道からかなり離れた場所。
足跡はないが、細い枝が折れて新しい。
それに乾いた土を擦った後がある。
その声に二人が集まると、また周辺の捜索を開始する。
しかしなかなか次の痕跡が見つからない。
これほど痕跡を消していると言う事は、緻密な計画の元実行された誘拐。
だがミスは誰にでもある。
その小さなミスを見落とさずに、追跡しなければいけない。
「こっちだ、見つけたぞ」
声の方に向かって行くと、そこには足跡があった。
その足跡は南に進んでいる。
「この足跡はかなり新しい、これを追えばすぐに追いつくだろう」
「あぁ、そうだな、行ってみよう」
しかしピーターは足跡を見つめたままその場に留まる。
ここまで足跡一つ残していなかった犯人が、こんなわかりやすい痕跡を残すだろうか?
いや、一つ見つけてはいるが……ここまではっきりしたものではない。
「先に行っててくれ、俺はもう少しこの辺りを見ておく」
騎士二人はうざそうな表情を見せると、振り返ることなく歩き出す。
ピーターはそんな二人とは逆方向に歩き始めた。
暫く進むと、草むらが現れ斜めに倒れている。
明らかに人がかき分け進んだ証拠。
やはりさっきの足跡は追跡を撒くカモフラージュ。
倒れた草むらをかき分け奥へ奥へ進んで行くと、その先に泉があった。
澄んだ美しい泉で、水面には魚が遊泳する様がはっきりと映る。
泉の周りに沿って進んで行くと、そこに車輪の痕がくっきりと残っていた。
馬車の車輪だろう、それは森の奥へ続いている。
ピーターはすぐに先ほどの場所へ戻ると、そこには困った様子の騎士が二人
「ピーター、足跡が途中で消えていた。周辺に通った痕跡もない」
「これ以上調べようがないだろう、いったん戻ろうぜ」
騎士二人の言葉に、ピーターは北を指さすと、見つけた痕跡について話し始めた。
ピーターは二人を泉へ案内すると、車輪の痕を見せる。
「馬車か……これは追い付けないな」
「だな、ここからはさらに足場も悪い。深追いするなとの命令だ、いったん戻ろう」
騎士はここで捜査を終えようと提案するのに対し、ピーターは頷かなかった。
「ダメだ、この車輪の痕もいつまであるかわからない。用意周到、警戒心が強い犯人だ、必ず戻り痕跡を消すだろう」
「おい、ピーター、大事な恋人が囚われて心配なのはわかるが……」
「恋人じゃねぇ、馬鹿にするな、俺はッッ」
「まぁまぁ落ち着けよ、二人とも。ピーター聞け。ここで追いかけても、俺たち3人でどうこう出来ないだろう。敵の人数も目的も把握できていない、このまま追うのは危険だ」
ピーターはクソッと足元の石を蹴り上げる。
その様を呆れた様子で眺める二人は、下山しようと背を向けた。
「……俺は進む。敵のアジトを特定したら戻る」
「ちょっ、マジかよ」
「おい、待て!」
引き留める声に振り返ることなく、ピーターは車輪の痕を追いかけて行った。
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草陰から見えるピーターの姿に、私は手を伸ばすと口を開いた。
「ピーッッ、んんんん」
彼の名を呼ぼうとすると、大きな手が私の口を塞ぐ。
「シー、主様ダメだよ、静かにして」
私は彼の手を叩くと、首を横へ振った。
もがきながらなんとか彼の手を外すと、金色の瞳を見上げる。
「彼は私の仲間よ、説明して協力してもらいましょう」
エドウィン難しい表情で考え込むと、私の体をガッチリ持ったまま、動こうとしない。
「そこか?そこに誰かいるのか……?」
ピーターは剣を構えたまま、恐る恐る草むらをかき分ける。
エドウィンは納得していない様子だが、私は強引にエドウィンの腕から逃れると、草むらから立ち上がった。
つられてエドウィンも立ち上がると、ガサガサと草が激しく揺れる。
「なっ、リリーッッ!?お前、後ろの男は何者だ?」
彼はエドウィンへ剣を向けると、距離を取るように後ずさる。
「ピーター、剣を下ろして、彼は味方よ。私を助けてくれたの」
「……本当なのか?」
ピーターは真意を測るように、私とエドウィンを交互に見つめた。
「主様に剣を向けるな」
エドウィンは私を守るように抱きしめると、金色の瞳を細目、ピーターを睨みつける。
「あるじさまだと……?お前、本当何やってんだ?これはどういうことなんだ?どんだけ心配したとッッ、お前はいつも勝手な行動をしすぎだ。何かするなら先に俺に相談しろ!」
「ごめんなさい。ピーター怒らないで、ねぇ。これには色々事情があるのよ、それよりもお願いがあるの。彼らを助けるのに協力してくれない?」
ピーターはその言葉に深いため息をつくと、疲れた様子で剣を下ろしたのだった。




