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救出作戦 (其の一)

狐面から現れたのは、獣の瞳に頭に三角の耳が二つ。

鼻は犬のようにとんがり、私の知る()とは少し違った。

けれどその姿を私は知っている。


「その姿……もしかして人狼?」


青年騎士の授業で習った覚えがある。

人里離れた場所に住む、人間と類似した別の種族。

まだ各国で紛争や戦争があった時代、戦場で大活躍していた

しかし今はどの国にも属さず、生態系は謎に包まれている。

確か……彼らは警戒心がとても強く、滅多に人間の前に姿は現さないはずなのに……。


「あぁ、そうだ。エディの主になった者に隠し事をするわけにはいかないだろう。俺たちは人間から隠れ、住処を移動しながら暮らしている移住民だ。だが数週間前、盗賊に俺たちの村が襲われたんだ」


そう彼が話始めると、エドウィンが後ろから私の体をギュッと抱きしめた。


俺たちはイェニシェと呼ばれ、常に住処移動する。

移動する目的は一つ、人間たちから隠れるためだ。

俺たち少数民族は、見目も違い迫害されやすい。

力や体力も人間よりもあり、歴史を見るに、争いごとに利用されることもある。

だが戦いが終われば俺たちは不要な存在。

だからなるべく人間とは関わらず、平穏に暮らすために必要なんだ。

そうやって何十年も生活していた。

多少の不便はあるが、何の問題もなかった。、


数週間前、俺たちはこの地へやってきた。

人間の脚では到底超えられないだろう、山を越え。

誰も足を踏み込んだこともないだろう、深い森の奥。

もちろん周辺を警戒は怠らなかった。

尾行もなく、人間に出会う事もなく、新しい住処にたどり着いたはずだった。


俺たちは人狼は二足歩行のこの人間もどきの姿と、狼の姿二つが存在する。

辺りを捜索するときは必ず狼の姿に変わり、周辺を偵察した。

人の気配はなかったし、人間が居た形跡もない、何の問題もなかったんだ。

人間が侵入すれば、必ず痕跡が残る。

俺たちは人間よりも優れた嗅覚、聴覚あり、痕跡を全て消すなんて不可能なはずだからな。


だがその夜、どこからともなく現れた盗賊に村が襲われた。

まるで俺たちがここへ来ることを予知していたように……。

それも俺たち男手が少ない隙を狙って襲撃してきた。

女子供はあっという間に拘束され、人質に取られ、あっという間の出来事だった。


村が制圧され、頭領と名乗る男が俺たちの前に現れ、こういった。

逆らえば皆殺しだと……。

男たちを集めて奪還しようと試みたが、あいつら村周辺に強烈な異臭をする何かを燃やし、近寄れない。

鼻が捻じ曲がりそうなほどの匂いなんだ。

中で捕らえれている者も、そうとうきついだろう……。

なぜ村が襲われたのか、なぜ俺たちの弱点を知っているのか。

いくら考えてもわからなかった。

俺たちは打つ手がなくなり、あいつらの命令に逆らうわけにはいかなくなったんだ。


最初の命令は、ノア王子の誘拐だった。

王子を誘拐するなんてリスクが高く無謀だとわかっていた。

捕まれば即死刑、人を殺そうもんなら、人狼に対して最悪なイメージがつく。

迫害がひどくなり、平穏な暮らしが崩れ去るかもしれない。

だが断れば家族や恋人が殺される。

渋々仲間を集め、なるべく被害が出ない方法で王子を誘拐する計画をたてた。

頭領からの情報で、数日後隣国へ続く山道を通ると言われ、俺たちはすぐに行動へ移したんだ。


だが俺たちもわかっている。

このままあいつらの命令を聞いていても、仲間は助からない。

だが良い案も思いつかない。

少しでも時間を稼ぐために、とりあえずこの命令だけはなんとしても成功させなければ……そう思っていたんだがな。


「こんな状況下の中で念入りに計画した作戦が、まさか失敗するとは……」


人狼の男は私の姿を見ると、疲れた様子で深く息を吐き出した。

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