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新たな任務 (其の五)

リリーの人生を振り返ると、前世の私とは雲泥の差。

前世の私は誰からも必要とされていなかった。

周りに誰もいなかった。

こうして思い出せるような、そんな存在はいなかった。

誰かのために頑張ろうと思ったこともなかった。

だからあの時の私は……。


ポタッと涙が頬を伝うと、犬が舌でそれを舐めとった。

その刹那、光が溢れると犬の姿が人間へと変わっていく。

何が起こったのかわからず、唖然とその光景を眺めていると目の前に素っ裸の青年が現れた。

整った顔立ちでプラチナの髪に、金色の瞳。

しなやかな体で程よくついた筋肉。


「へぇ!?えぇぇえええええぇぇぇ!?犬がッッ、人間に……?」


「犬じゃない、俺は狼だ!」


金色の瞳に私の姿が映ると、彼はウーと唸った。


「えっ、あっ、ごめん、あれ、えぇと、どういうこと?」


流れていた涙が引っ込むと、人間になった彼をまじまじと見つめる。

あれ、この顔どこかでみたような……。


「あなた……もしかしてエドウィン?」


彼は金色の瞳を大きく見開くと、私の顔を覗き込んだ。


「どうして俺の名前を知っているんだ?」


しまったと慌てて口をふさぐが、時すでに遅し。


「あっ、えーと、その……とりあえず服を着てくれない?」


エドウィンはムッとした表情を見せると、恥ずかしがる様子もなく、グイグイ近づいてくる。

目のやり場に困りながら、ゴモゴモと口ごもっていると、狐の面をつけた男が慌てた様子で駆けつけて来た。

自分の羽織っていたローブをエドウィンに掛けると、焦った声が響く。


「おい、どうした、ってお前ッッ、どうしてここに?ここへは入るなと言っただろう。……ッッその姿、まさか……彼女がお前の主様なのか?」


あるじさま……。

その呼び名にも覚えがある。

エドウィンは小説の中で、王子の事を主様と呼んでいた。


もしかして……王子はここで彼に出会った?

彼の主はノア王子だったはずなのに、私が代わりに誘拐され変わってしまった……?

これって……小説のストーリーが変わってしまう……?

それは非常にまずい。

断罪コースを免れたと思ってたけど、内容が変わればどうなるのか想像も出来ない。


「まさかこんなことが……」


頭を抱え崩れおちる狐面の男。

そんな彼を気にした様子もなく、エドウィンは檻をガシッと掴むとバキバキと音共に折れた。

凄まじい力……。

彼は檻の中にいる私を抱きしめると、そのまま軽々と持ち上げる。


「間違いない、俺の主様、やっと見つけた」


彼は嬉しそうにほほ笑むと、ギュッと抱きしめる。

突然の事にどう反応していいのかわからない。

抱きかかえられたまま狼狽していると、狐面の男がエドウィンへ話しかけた。


「エドウィン、落ち着きなさい。このまま彼女を逃がせば、俺たちの家族が殺されるんだぞ」


「……嫌だ、主様を売るなんて俺が許さない」


「気持ちはわかるが……」


困り果てた男の姿に、私はエドウィンに下ろして欲しいと頼む。

私が小説のストーリーを変えてしまったことや、主様の意味、犬じゃない狼から人型へ変わった理由。色々と気になることばかりだけれど……今私がすべきことは、ここから脱出してお城へ戻り報告する。

単独で捕まえられればいいんだけれど、敵の人数が分からない以上、

犯人をなんとしてでもここで捕らえておかなければ、また同じことが繰り返される。


地面に着地し座り込む彼の背に触れた。


「私の名前はリリー、あなたたちを助けたいの。あの頭領って男に脅されているんでしょう?理由を話してくれない、私が力になる」


男は目を見開き恐る恐る顔を上げると、ゆっくりと狐面を外した。



★おまけ(エドウィン視点)★


風に乗り香った甘い香りに誘われて、俺は群れから離れ匂いの元を探した。

匂いを追跡していると、子供は入るなときつく言われていた場所に続いていた。

俺は構わず進むと、洞窟の中へ入って行った。


気配を殺し闇へ紛れて進んで行く。

すると風にのって声が届いてきた。

女を売る、そんな言葉。

俺は見つからないよう駆け抜けると、甘い香りが強くなった。


洞窟の奥で見つけた美しい女性。

小さな檻の中で必死にもがいていた。

誘われるように彼女へ近づくと、その瞳を真っすぐに見つめた。

彼女の手が俺に触れると、何とも言えない心地よさを感じた。

こんなこと初めてだった。


悲しむ彼女の涙を舐めた瞬間、胸の奥から熱い何かが込み上げた。

その瞬間、俺は人間になった。

そこでやっとわかったんだ、彼女こそが俺の探し続けていた主様だってことが。

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