新たな任務 (其の三)
バタバタバタと足音が響き、鎖の外す音が響く。
後方にある扉が観音開きに開き、中に光が差し込んだ。
眩しさに目が眩み、思わず顔を背ける。
連れ去られたのは夕刻だった。
太陽が昇っているということは、かなりの時間気絶していたのだろう。
「起きろ、外へ出るんだ」
眩む目をゆっくり開けると、屈強な体つきの男が6人。
光に目が慣れ彼らの姿が浮かび上がると、皆狐のようなお面をつけていた。
鼻先が尖り、面には耳もついていてよくできたお面だった。
お面が一斉にこちらをむくと、気味悪さを感じる。
男に腕を掴まれ立たされると、馬車から引きずり降ろされた。
「歩け」
足の縄が解かれる代わりに、黒い布で目隠しをされ視界を奪われる。
足場の悪い山道を目隠しで歩くのは容易ではない。
転びそうになる度に、男たちに引っ張りあげられながら山道を進んで行った。
どれぐらい歩いただろう、足場が土ではなくなり石になった。
ゴツゴツした感じはなく、真っすぐで躓くこともない。
歩きやすくなりペースが速くなると、布越しに光がぼやっと浮かび上がった。
蝋燭だろうか、炎のような明かりがゆらゆらと揺れている。
湿っぽい空気に、冷たい風が頬にあたると、ポタンッと水の音が反響した。
その音と様に、ここが洞窟だと推測する。
隣国へ続く近くの山に、洞窟があるなんて聞いたことがない。
時間の経過からしても近くて隣の山、もしくはそれよりも遠い場所に自分はいるのだろう。
男たちに先導されながら暫く進むと、突然背中を押され、私はその場に倒れ込む。
手をつこうとするが、縛られているため、私は前のめりに倒れ込んだ。
頭が石に打ち付ける前に、両脇いた男が私の体を支え、優しく地面へ落とす。
荒っぽく巻かれていた布が解かれると、ゆらゆらと揺れる松明が真横に見えた。
「頭領連れてきました」
「おぉーうまくいったようだな。青い髪にその紋章、やるじゃねぇか」
頭領と呼ばれた男は、満足げにほほ笑むと、髪をガシッと掴み私の頭を持ち上げる。
息が顔にかかると、異臭に顔が歪んだ。
「ノア王子殿、はじめ……うん……瞳の色が違う、お前は誰だ、お前ら誰を連れてきたんだ?」
狐の面をつけた男たちはヒィッと悲鳴を上げると、焦った様子で私の髪を引っ張り向きを変えさせた。
「いや、そんなはず……俺はちゃんと言われた通りにやった。真ん中のやつを捕まえて、それに紋章も確認して、青い髪、間違えるはずない」
「そうだ、計画は完璧だ。あの速さで替え玉何て用意出来るはずねぇ」
「おい、見ろ……嘘だろう、青い瞳じゃない……だがこの上着の紋章は……」
「おい、お前ら、失敗したらどうなるかわかってんのか!!!」
頭領は怒り任せて叫ぶと、近くにあった樽を思いっきりに蹴飛ばした。
樽がバラバラと割れ、中から赤い水が零れだすと、ワインの匂いが鼻を刺激する。
「頭領、待ってくれ。すまない、次は成功させるッッ、だから頼む、殺さないでくれ」
「あぁ、待ってくれ、家族には手を出さないでくれ、すぐにノア王子を連れて来る」
必死で縋る狐面の男たち。
頭領は苛立ちながら、私の上着を強引にはぎ取ると、下の服まで破れた。
騎士の紋章がはじけ飛びさらしがあらわになると、周りの男たちの動きがとまった。
そんな中頭領はニヤリと口角を上げると、シャツを引っ張り胸を覗き込む。
「ほう、女か。お前まさか、噂の女騎士だろう?これは面白れぇ。当初の計画は失敗したが、これはこれで高く売れるぞ」
ゲスな笑いに頭領を睨みつけると、私は弾くように首を振り彼の手から逃れる。
「生意気な女だ。だがその強気な目、いつまでもつかな?ガハハハ、お前ら、こいつを牢屋ぶち込んでおけ。今回の失敗は大目にみてやろう、次失敗したら、全員殺すからな。さっさと行け!!!」
狐の面をした男たちが私の傍へやってくると、腕を持ち上げ引きづるようにして洞窟の奥へと運んでいった。




