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新たな任務 (其の一)

無事に赤点を免れテストが終わり暫くすると、次の順位戦が始まった。

ピーターとの訓練成果をここで証明する。

なんといっても今回上位5名が、次のノア王子の護衛に任命されるのだ。

ここは何としても上位に食い込まなければ……。


順位戦はリーグ戦で行われる。

少年騎士の頃はトーナメント戦で一週間ぐらいで終わるのだが、リーグ戦は一月以上かかる。

だが基礎訓練を積んだ生徒たちにとって、実戦経験がどんな訓練よりも練習になるだろう。

戦場ではどんな騎士と出会うかわからない。

だからこそのリーグ戦。

もちろん上級生も参加する為、試合数は膨大だ。


毎日2~3戦の試合を熟し、私はメキメキと白星を増やしていく。

前回苦戦した相手にも、楽勝で勝てるようにはなっていた。

自分の戦い方を知り、それを自分の物にする。

実戦で自分の実力が改めてわかると、嬉しい気持ちが込み上げた。


ピーターは前回同様、上級生にも勝ち全勝中。

今半分ほど試合が終わったところだが、ピーターとの対戦はまだ。

彼と対戦するのは、後半になるだろう。

試合を終え休憩になると、私はいつもピーターの試合を見学していた。

少年騎士の頃とは違う、ダイナミックな攻撃と素早い動きに、成長した体が追い付き、誰も手が付けられない。

小説の中でも彼は天才騎士と謳われていた気がする。


リーグ戦も後半に差し掛かり、概ねの順位が発表される。

私は上級生に3敗しているが、彼らは上位組で、私はギリギリ5位に入っていた。

残る試合は、ピーターと残り数人。

1戦の負けも許されない状態。


翌日私の対戦相手はピーター。

ここで負ければ上位確定はなくなるが、相手の成績次第では残れるそんな状況。

精一杯頑張って、やりきろう。


そう意気込んだ試合だったのだが、なぜか引き分けで終わった。

私を仕留めるタイミングはいくらでもあったはず。

なのに……

いつもと違う彼の戦い方に、手を抜かれているとすぐにわかった。

試合が終わってすぐ、彼に苦言を言いにいたが、手は抜いていないとの一点張り。

調子が悪かったのだと話す彼に、私は納得するしかなかった。


結果はピーターと引き分けになった事で、無事上位5位になった。

けれどこれは本当の順位じゃない。

私はピーターに引き分け出るほどの実力なんてないのだから。


そうして翌日順位戦上位5名が、お城へ呼び出された。

ノア王子の護衛をするためだ。

今回の任務は、隣国へ向かう馬車の護衛。

前回の任務とは違い、今回は戦闘があるやもと、細かい詳細の説明を受けた。


馬車で一日ほどの距離だが、通り道には山賊がでると有名な山道を通らなければいけない。

貴族や商人が狙われ、被害が後を絶たないそうだ。

最近はより一層戦力を増し、被害も大きくなっている。

地形を知り得ているあちらが有利な状況では、統率が重要になってくるのだ。

それぞれに真剣が配られ、明日持ってくるよう指示され、経路と配置を確認し、明日出発だと帰された。


宿舎へ戻り、私は机へ向かうとノートを開き前世の記憶を思い出す。

今回の任務について、覚えがあったからだ。

確か小説でノア王子が隣国へ向かう話があったはず。

あれも確か回想シーンで……。


ペン先でコツコツとノートを叩くと、前世で読み込んだ小説の内容を思い出す。

あまり細かく書かれていなかった気がするんだけれど。

だけど回想で出てきたってことは何かあったに違いない。

あー、そういえばエドウィンはどこにいるんだろう?


エドウィンは将来ノア王子の護衛となるピーターの相方。

青年騎士にはいない。

今日集まったノア王子の護衛の中にもいなかった。

小説が始まるまであと半年、いつ現れるんだろう。


ってそうじゃない、今は明日の心配をしないと。

何か重要な事を忘れてる気がする……。

一晩中考えてみるが、結局思い出すことは出来ず、気が付けば眠っていたのだった。


翌日、私はピーターと共にお城へ向かう。

あの試験依頼、ピーターと真面に顔をあわせていなかった。

どんな顔をして話せばいいのかわからなかったから。


彼のことはよく知っている、だから避けるの簡単。

彼も同じ、私を知っていて……私がノア王子の護衛騎士になりたいとわかっていた。

あそこでピーターに負けていれば、上位に入ることは難しくなっていたことも。


彼は基本優しくて面倒見もいいから……気を遣ってくれたのだろう。

だけどそんな事をさせてしまった自分悔しくて……恥ずかしくて……。

対等だと思っていたのに……。


私は無言のまま彼の隣を歩く。

彼も何も話さない。

時折何か話そうとするが……結局口を閉ざしたままだった。


お城へ到着し、気持ちを切り替え、私とピーターは王子と共に馬車へ乗り込む。

街を出て道なりに進んで行くと、深い森の中へ入って行った。

山道を警戒しながら進んで行く。

シーンと静まり返った山道の道中で、ふと馬車が止まった。


ピーターがすぐに反応し、窓を開ける。


「どうしたんだ?」


外を見ようとした刹那、白い煙が一気に流れ込んだ。


「なっ、何だ!?」


慌てて窓を閉めるが、視界が煙で遮断される。

その光景を見た刹那、頭に壮大な情報が駆け巡った。

そうだ、思い出した……。


<ノア王子が連れ去られる>


ゴホゴホと咳をする王子とピーターの見て、私は慌てて口元を塞いだ。

持っていたハンカチを取り出し巻くと、王子の上着を剥ぎ取る。

代わりに私の上着を王子にかぶせると、彼を突き飛ばし真ん中を陣取った。

その刹那、後ろから手が伸び私の体が持ち上がる。

そのまま馬車の外へ引きずり出されると、視界が白く染まっていった。


★おまけ(リリー視点)★


「なぁリリー、最近ノア王子の当たりがきついきがするんだが……何か知っているか?」


「へぇ!?いやー、知らないなー、気のせいじゃない?はははは」


私は苦笑いを浮かべると、ピーターから視線を逸らせる。

このタイミング、まさか先日のあれかな。

彼の部屋で勉強した話……。


「おかしいなぁ、ノア王子俺に対して怒っているわけじゃないと思ったんだが」


ブツブツと愚痴るピーターの様子に、私はそそくさ逃げると、部屋へと戻ったのだった。



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