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女騎士への道2 (其の三)

改めて彼の部屋をマジマジと眺めてみると、私の部屋よりも広く、大きなテーブルにソファー。

一人用のキッチンに、食材を保存する貯蔵庫まである。

それに真っ白なシーツが敷かれたベッド、非常に快適そうだ。


私はソファーへ座ると、テーブルの上へ本を広げる。

弾力性があるふかふかソファー。

こんないいソファーに座るのは、何年ぶりだろう。

ピョンピョンと小さく跳ね、クッションを楽しんでいると、ピーターが戻ってきた。


「でっ、どこがわからないんだ?」


ピーターは眼鏡を掛けると、私の隣へ腰かける。

長い付き合いだけれども、眼鏡を付けた姿を初めて見た。

剣を握っているときとは違う、知的で大人な雰囲気に思わず魅入る。

黙り込んだ私の様子に、彼は目線をこちらへ向けると紅の瞳と視線が絡んだ。

私はドキマギしながら目を逸らせると、開いた本の一文を指さす。


「えーと、これっ、この戦術がよくわからなくて」


「あーここか、これはだな……」


ピーターのはずなのに、知らない人みたいで何だかドキドキする。

ダメダメ、勉強に集中しないと……。

私は変な感情を振り払うと、集中しペンをしっかり握った。


丁寧で分かりやすい彼の解説。

どれぐらい時間がたったのだろうか、少しだけと言ったはずだが、気付けば月が高く昇っていた。


「えーと、ここがこういう事だから……あっ、やっとわかった、ありがとう。これで何とか乗り切れそう」


「それはよかった。この貸しは高いぜ」


「明日のランチで手を打たない?何でもおごる!」


「ならS定食でも食べさせてもらおうか」


「うぅッッ、わかった……」


S定食は学食の中で一番高い定食。

家は頼れない為、宿舎の雑用を熟してコツコツ集めた貯金を思い浮かべる。

S定食……足りるかな……。

部屋の貯金箱を思い出しながら数えていると、ピーターは眼鏡を外し立ち上がった。

何とかなりそうかな。

私は本を閉じうーんと背筋を伸ばしながらソファーへ体を預けると、一気に眠気が襲ってきた。


あー気持ちいい。

床で寝るのも慣れたけれど、やっぱりこっちのほうがいいな。

けれど家具を新調するお金はない……。

ウトウトと船をこいでいると、次第に意識が遠のいていった。


ピーターが戻ってくると、私はまどろみにいた。

彼はそんな私の様子に深い息を吐きだすと、私の肩へ触れる。


「おい、りりー、起きろ。寝るなら自分の部屋へ戻れ」


遠くから聞こえる声に、微かに意識が戻る。

けれど体も瞼も重く、動きたくない。

私はうーんと小さな声で唸ると、体を丸めた。


「はぁ……マジか……しょうがねぇな」


彼の深いため息が聞こえた刹那、体がフワッと持ち上がった。


「軽いな、こんな華奢な体で剣を扱ってるのか。この軽さならあの俊敏な動きも納得できるか」


横抱きに抱きかかえられると、頬に心地よい熱が伝わる。

その熱を求めるようにしがみ付くと、彼の体がビクッと震えた。


「おい、ちょっ、やめろッッ、なっ、胸がッッ、はぁ……お前なぁ……」


優しく下ろされると、体がベッドへと沈んでいく。

床とは違う柔らかさ、心地よい熱から離れたくないとギュッとしがみつく。


「おい……それは布団じゃねぇよ」


握っていた手を掴まれ優しく剥がされる。

熱が離れ腕がシーツへ落ちると、私は深い眠りに落ちていった。


「……細い手首、俺の半分ぐらいだ。少し力を入れれば折れそうだな。それに俺とは違う華奢な体で……こうやって見ると女なんだな……って何考えてんだ俺ッッ」


彼は慌てた様子で離れると、ソファーで寝るか……と呟きと共に、蝋燭の火が消えたのだった。



★おまけ(ピーター視点)★


最近リリーに元気がない。

理由は明白、この間の試験で惨敗だったからだろう。

最近では俺を避けて、暗い表情でよく考え込んでいる。

何か言ったほうがいいのか、と悩んだが、俺がリリーの立場なら放っておいてほしいと思うだろうとやめた。

だけどいつもと違うあいつの様子に、こっちまで変な感じなる。

俺の知っているリリーはなんでもひたむきで、眩しい存在だったから。


だけど最近やっといつものリリーに戻った。

答えを見つけたんだろう。

久しぶりに笑ったリリーの姿を見て安心した。

女男関係なく、俺たちは良いライバル。

またリリーと打ち合えると思うと、素直に嬉しかった。


問題事も解決し、テスト前日。

心配することはなにもない。

明日に備えてさっさと寝ようと思っていると、窓から音が聞こえた。

なんだ?とカーテンを開けると、そこにいたのはリリー。

ラフなTシャツに、ハーフパンツ、明らかに部屋着姿。

慌てて開けると、そのまま部屋の中へ上がり込んできた。


勉強を教えてくれと頭を下げる彼女。

必死なその姿に渋々教えてやったんだ。

一息つきもう帰るだろうと思っていたら、なんとソファーで寝こける始末。

起こしても起きない。

俺は諦めてベッドへ運ぼうとすると、その軽さに驚いた。


女だとか男だとか、彼女を知ってから考えないようにしていた。

俺と違って柔らかい体に、細く滑らかな腕。

赤く色づいた唇、滑るような肌。

意識すると、一気に体の熱が上がった。

俺は慌てて熱を振り払うと、心を落ち着かせる。


そんな俺の気持ちなど知る由もない彼女は、小さな手で俺にしがみついた。

ふにゃっとした胸の感触に、先ほどよりも熱が高くなる。

訓練の時は意識したことなんてなかった。

きっとさらしか何かを巻いていたのだろう。


リリーの容姿は整っているし、令嬢のまま育っていれば、美人だと噂の的だったはずだ。

俺の裾を握りしめる手に触れると、片手で簡単に包みこめる。

細く柔らかい指を意識すると、なぜか離すのが惜しいと感じた。


ダメダメダメ、何を考えてるんだ俺は。

相手はリリーだぞ。

女とか関係なく、俺の唯一のライバルだ。

胸にこみ上げた何かを必死に押し込むと、俺は逃げるように彼女から離れソファーに横になったのだった。

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