女騎士への道2 (其の一)
青年騎士へ進級して3か月が過ぎた。
少年騎士では楽勝だった順位決定戦も、今は必死。
ピーターに負け、上級生には歯が立たず、今まで相手にもしていなかった生徒たちに苦戦する始末。
順位を決めるリーグ戦の結果は、上位にも入らないひどい成績。
このままではノア王子の護衛になるどころか、卒業できるかも怪しい。
ヒロインが登場するまで後約1年。
そこから結ばれるまで1年半と少し。
最低でも3年間は王子の騎士として頑張りたい。
そのためには、上位に入らなければ叶わないのだけれども……。
私は一人訓練場から外れた場所で、深いため息をつき座り込んでいた。
手元には今回の順位決定戦の評価表。
判定はSABCDの中でB判定。
今までS判定ばかりだったのに、二つもランクをおとすなんて……。
16歳になっていっきに体格差が出てきた。
スピードで補うにも限界がある。
やっぱり何か別の手を打たないと……。
このままじゃきっと次の試験はC判定になってしまうだろう。
焦りと不安が胸に渦巻くが、良い案は思いつかない。
今まで自分のスピードを頼り過信しすぎていた。
力じゃどうあがいても叶わないし……。
練習に励む成長した青年騎士たちの姿を眺めると、無意識にため息が漏れる。
どうすればいいんだろう……。
「おさぼりさん、こんなところで何をしているのかな?」
声を掛けられ振り返ると、サイモン教官の姿。
爽やかな笑みを浮かべて、私をじっと見下ろしている。
私は慌てて立ち上がると、胸に手をあて敬礼した。
「教官、すみません。これは、えーと、決してさぼっているわけじゃぁ……」
「ははっ、君って本当に真面目だよねぇ~、わかっているよ。この間の結果がひどくてやさぐれていたんだろう?せっかく私がマンツーマンで教えてあげたのにがっかりだよ」
教官は私の表情を見ながら楽しそうに笑うと、グサッと彼の言葉が突き刺さる。
「あっ、いえ……やさぐれてなんて……その……はい……」
図星を刺され思わず口ごもる。
教官に教えてもらった身として、勝てない自分が恥ずかしい。
私は地面を見つめると、おもむろに口を開けた。
「がっかりさせてしまってすみません。せっかく教えて頂いたのに……。みんな成長していて、速さだけでは勝てなくなってしまって……急所を狙っても、一撃では仕留められなくなってしまい……それで……」
教官は呆れたように笑うと、私の頭をポンポンと優しく叩く。
「君は本当に素直でいい子だね。私の嫌味を真面目にとる必要ないんだよ。まぁそれがいいところなんだけれどね。それよりもこうなることは最初からわかっていた。だって君はか弱い女の子だからね。だけど予想以上に頑張るから、話すタイミングを見極めていたんだ」
「えっ、教官は私が勝てなくなるとわかっていたんですか?」
彼はあぁと口角を上げると、腰の木刀へ目線を写し抜けと合図だした。
私はすぐに抜刀すると、強く握りしめる。
距離を取り向き合うと、教官はおもむろに腰の木刀を引き抜いた。
「構えもすっかり様になったね。最初の頃が懐かしいよ。ところで君が勝てなくなった原因は何かわかるかな?」
勝てなくなった原因。
それは圧倒的な力に、スピードだけでは太刀打ちできなくなってしまった事。
彼らが成長し、リーチの差が開いてしまい急所へのダメージが軽減した?
少年騎士の頃は、私の身長は高い方で、リーチも得をしていたから。
けれど今は身長は皆に抜かされ、私より低い生徒の方が少ない。
リーチ差が埋まり、必然的に相手と剣を交える機会が増えてしまった。
逃げ切るにも限界があるし、そこでどうしても力負けしてしまう。
私に足りないのは圧倒的なパワー。
どれだけ鍛えても、男の力には到底及ばない。
長期戦になれば勝てる自信はあったが、その前に打ち負け終わってしまう。
そうなれば一撃の差がはやり大きい。
「……やはり私に足りないのはパワーだと思います。スピードは負けていない」
「そうだね、それを自覚しているのはいいことだ。ならそのパワーを補うにはどうすればいいのかな?」
なぞなぞのような問いかけ。
それがわかっていれば、こんなところで悩んでいない。
鍛えても体のつくりが違うのだから、同じ方法で得るのは厳しい。
どうすればいい……私もあんな力が欲しいのに……。
「どうすればいいんでしょう……彼らが手に入れられる力は私にはない。どうしようもないんです」
「うんうん、そうだね。ではリリー、私を一撃で仕留める気合で打ち込んできなさい」
私は木刀を思いっきり振り上げると、体重を乗せて振り、そのまま反動を利用して振りぬいた。
実戦では隙が多く、絶対出来ないだろう大ぶり。
だが一撃で仕留めるには、私の体格と力では、これぐらいしなければ決められない。
剣が交わる刹那、士官の構えた木刀が斜めを描いた。
すると渾身の一撃が受け流され力の方向が変わる。
バランスが崩れ体が傾き、彼の木刀が背中に触れると、勢いそのまま地面へ叩きつけられた。
「いったぁっ、ッッ」
「どうだい、見事だろう?こうやって相手の力を利用し受け流すんだ。これなら君にも出来るだろう?」
相手の力を利用する。
これならダメージを受けずに受け止められる。
暗澹としていた気持ちが晴れ光が差し込んだ。
「ありがとうございます!」
痛む体を持ち上げ立ち上がり、私は服を整え笑みを浮かべると、先ほどとは違い、真っすぐに敬礼を返した。




