花咲いた気持ち (其の二)
暫く雑談していると、ふとクレアが真剣な表情で私を見上げた。
「ところでリリー様、16歳になりましたわよね?どのような男性が好みなのですか?」
「えっ!?」
突拍子もない質問に戸惑う。
騎士の宿舎は男とばかりで、こういった話は一切しない。
慣れていない質問にグッと言葉を詰まらせる。
「えーと、あークレアどんな令息が好みなの?」
「私は~リリー様のようにお優しくて紳士的な方が良いですわ~。って違い済ますわ!リリー様についてお伺いしたいのです」
話を逸らそうと試みるが、どうやら失敗だったようだ。
クレアはプクっと頬を膨らませると、ギュッと腕にしがみついた。
「あー、難しいね、えーと……」
苦笑いを浮かべながら言葉を濁らせると、彼女はグイグイとやってきた。
「年上、年下、同じ年?」
テンポよく訊ねる彼女の姿に苦笑いを浮かべる。
「えー、そうだね……年齢はそんなに関係ないかな」
「では自分よりお強いお相手が理想ですの?」
「あーどうだろう」
強さは特にこだわらないような気がするけど、わからない。
でも男性より強い女は嫌がられそう……。
誤魔化しながら微笑んでいると、彼女がまたプクっと頬を膨らませた。
「もう~真剣に考えてほしいのですわ~!私的にリリー様のお隣は、背が高くて大人の包容力がある殿方がお似合いだと思いますの。もしかしてすでに意中の方がおられますの?」
「それはないよ。でも大人の包容力はいいかもしれないね。ははははっ」
恋人か……考えたこともなかった。
王子との婚約しないようにとそればかりで……。
それに女性騎士という稀有な私を、もらいたいという男性は果たしているのだろうか。
話を合わせるように同意すると、乾いた笑いを浮かべる。
「ところでリリー様、今日お呼びした理由なのですが、実は私に兄がおりまして、ご存知……あら、リリー様?」
話していた彼女には悪いが、このまま話していてもいい方向には進まないだろう。
彼女から逃げるように姿を隠すと、そこに思わぬ人の姿。
「ごめんなさいッッ、えっ、ノア王子!?こんなところでどうされたんですか?」
「リリーッッ、それはこっちの台詞。こんなところにいたの?宿舎に会いに……いや、なんでもない。えー、リリーこそこんなところで何をしているの?今日は確か……休みだったよね?」
ボソボソと呟く彼は、いつもと雰囲気が違う。
怒っているわけではないが、機嫌が悪そうだ。
「あー、はい、友人に呼ばれて、さっきまで話していたんですけど……はははは」
逃げてきたとは言えない。
早く立ち去りたいが、ノア王子を無視することもできずにいいると、クレアが追いかけてきた。
「友人って……」
「リリー様、お話の途中ですわ。……あら~ノア王子、ごきげんよう」
「クレア嬢か……いつも元気そうで羨ましい限りだね」
棘のある言い方に、彼女はニッコリ笑みを深めると、甘えるように腕を絡ませる。
「ふふっ、ノア王子、先ほどリリー様の好みの男性について話しておりましたの。リリー様は大人で包容力のある方がお好きなようですわよ。それはつまり~年下で口が達者だけれど意気地なしで、小生意気な子供っぽい男性は好きではないということですわね~?」
「えっ、そうなるのかな、どうだろう?ってその話はやめにしよう、ねぇ」
クレアはノア王子に勝ちほかった笑みを浮かべると、私の腕をグイグイ引っ張る。
「ふふふふっ、では失礼致しますわね、ノア王子」
私はクレアに引きずられると、不機嫌な王子をそのままに去ったのだった。
★おまけ(王子視点)★
最近リリーの様子がおかしい。
元気がなく、気落ちしている。
無理に笑って、平気な振りをする彼女。
どうしたのと聞いても、僕にはその理由を教えてくれない。
年下の僕じゃ頼りないと思われているのだろうか。
ピーターには相談しているのだろうか……。
そう思うと、苛立ちが募っていった。
今日リリーが休みと知り、僕は街へ誘うと思っていた。
少しでも気分転換になればと……。
宿舎へ誘いにいってみると、なんと彼女は不在だった。
まさかいないとは考えもしなかった。
いつも彼女は剣にひたむきで……出かける姿を見たことがなかったから。
さっさと誘っておけばよかった。
誘う機会はいくらでもあったはずなのだが……。
彼女を前にすると、上手く言葉が出ないんだ。
屈託のない笑みを見ると、伝えたい事の半分も言えなくなる。
彼女はどこへ行ったのか、そんなことを考えながらお城へ戻ってくると、バッタリ彼女と出会った。
友人とは……ピーターのことだろうか。
休日まで一緒にいるほど、二人は仲がいいのか?
誤魔化すような笑みを浮かべる彼女に苛立ちを感じる。
友人って……と問いただそうとした刹那、後方からクレア嬢がやってきた。
クレア嬢はリリーと同じ公爵家のご令嬢。
彼女の母が王族の一員ということもあり、必然的に僕との関わりも深い。
人当たりがよく、貴族の間で評判は良いが、僕とは根本的に合わない。
婚約の話も出たが、仲がいいとは言えない僕たちの様子に、その話はすぐに消え去った。
どうしてリリーがクレアといるのか。
面倒な令嬢と会ってしまった、とため息を飲み込み笑みを浮かべると、クレア嬢は面白いものを見るかのように笑っていた。
彼女は昔から勘が鋭い。
僕の気持ちを見透かしての嫌味。
いつものように言い返してやりたかったが、いい言葉が思いつかなかった。
わかってる、このままじゃダメなのはわかっているんだ。
好きだと自覚しても何もしていない。
彼女は魅力的で、周りには男ばかり。
女性らしく変わっていく彼女に釣り合えるように、僕も大人にならないと。
包容力のある大人の男性か……。
そうなれば僕に頼ってくれるようになるかもしれない。
僕はクレアに連れていかれる彼女の背を見つめながら、新たな決意を胸に秘めた。
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第一章はここまでとなります。
お読み頂きまして、ありがとうございますm(__)m
次回より第二章スタート。
新たな事件と共に、
成長していくリリーを楽しんで頂ければ嬉しいです(*'ω'*)
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