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掴んだ未来 (其の二)

彼の言葉が頭の中で反芻すると、ぐるぐると思考が停止していく。


「えっ、あのっ、でも私はその、貴族とかじゃないですし、教養もなくて、剣ばっかりで令嬢らしくないです。ノア王子に釣り合うなんてとても……ッッ」


ずっと憧れていた彼が私を好き?

ありえない、嬉しいけれど……私なんかが彼の隣に並ぶなんて似合わない。

ずっと彼の隣にはトレイシーだと思っていたから。


「そんなことないよ。君は貴族ではないけれど、異世界からの訪問者として、特別な地位にいる。そこは気にしなくていいから安心して。それよりも君の気持ちが知りたい」


真っすぐな言葉に頬の熱が高まり、触れる手が冷たく感じる。


「僕のこと嫌い?」


「そっ、そんな、まさか!嫌いなんてありえません!ずっと心の支えで……憧れで……傍にいられて幸せでした」


見惚れるような笑みがアップで映し出されると、彼の瞳がゆっくりとこちらへ近づいてきた。

キラキラと輝くその笑みに、胸が尋常ではないほど激しく波打つ。


「そっか、よかった。小説ではここで甘いキスをするんだよね?」


いたずらっぽく笑う彼の姿に頭が爆発しそうになった。

何度も読み返したこのシーンが、まさか現実に起こるなんてッッ。

私がヒロイン!?ありえない、だけど……ノア王子がッッああああ。

てんぱりすぎて脳の処理が追い付かない。

息がかかる距離に、手から伝わる彼の熱に心臓が壊れそうなほど激しく高鳴る。

唇が触れそうになり思わず目を閉じると、後方から足音が響いた。


「ちょっと待ちなさい!!!」


声に慌てて振り返ると、トレーシーが腰に手を当てこちらを指さしていた。

いつもの女性の恰好ではなく礼装姿。

軍服にスラットしたブレザーを着た王子様スタイル。

長い髪を後ろに縛り、中世的な顔立ちが際立っている

トレーシー!?えっ、国に帰ったはずなのにどうしてここに!?

それにその姿ッッ。


「トレーシー……さま?」


「様はいりませんの。リリー様、いえ、ユカ様、迎えに来ましたわ~!お話はすべて聞きましたの。私は強くお優しいユカ様を愛しておりますわ~」


トレーシーはパタパタと駆け寄ってくると、ノア王子から引きはがす様に私を抱き寄せる。


「えっ、どっ、どうしたのその姿!?それにどうしてここに?」


「ふふふっ、情勢が落ち着いたので会いに来たのですわ。言ったでしょう、仕切り直しさせてほしいと」


トレーシーは私へ体を寄せると、そっと私の手を持ち上げ手の甲へ唇を落とす。


「トッ、トレーシー!?」


何が何だかと触れた手の甲を見つめると、上目遣いの彼と視線が絡む。


「ユカ、私と婚約し国へ来てほしい。姉にも報告したんだ。愛してる」


先ほどとは違う男性の囁く声に、熱がまた上昇する。

私はパクパクと魚のように口を開けていると、ノア王子がすかさず私と彼を引きはがした。


「突然やってきてなんだ、ユカは僕と話をしているんだけど」


「あらあら、ユカ様~忠告しておきますわ。間違えて婚約を申し込む男なんて、やめておいたほうがよろしいですわ~」


「あれはッッ、ってなんで知っているんだ」


ノア王子はトレーシーを睨みつけると、私を下がらせ前へ出る。

ピリピリとした空気におろおろしていると、トレーシーの後ろからピーターとエドウィンの姿が映った。


「主様、隣国へ行くの?それなら俺もついていく!」


「へぇ!?」


「犬は黙っていなさい」


「君は黙っていて」


トレーシーとノア王子は突然入ってきたエドウィンを睨むと、彼は不機嫌そうにプクっと頬を膨らませ、負けじと二人へ突っかかる。

わちゃわちゃと3人で言い合いが始まるが、私はどうすることも出来ない。

どうしよう……。


「なんだこのカオスは……」


彼らを見つめていると、いつの間に隣に来ていたのか、ピーターはボソッと呟いた。


「ピーター、何だかよくわからなくて……」


「まったくモテる女は大変だな。ところで俺なんてどうだ?」


「へぇっ、えっ、どういう意味?」


ピーターを見つめながら首を傾げると、彼は私の腕を引き寄せ胸の中へ閉じ込めた。


「バカ、まだわからねぇのか。俺もお前が好きだってことだ。ずっと前からな。お前が……いや、お前じゃなかったのか……まぁいい。ノア王子と婚約したとき、すげぇ後悔した」


突然の告白に私はギョッと目を丸くし慌てて顔を上げると、ピーターは楽しそうに笑った。


「えぇぇぇぇぇ!?ピーター、急にどうしたの?えぇぇ、ふへぇええ!?」


「あはは、その反応、俺が知ってるお前だな」


「ちょっとピーター様、抜け駆けはいけませんわよ!」


「ピーター、何を言い出すんだ。言わないつもりじゃなかったのか?」


「ダメ、主様は僕の主様だ!!!!」


エドウィンは私へ飛びつくと、ポンッと音と共に狼の姿に変わる。

突然のことに、そのまま後ろへ倒れこむと、ピーターが慌てて私の体支えた。

エドウィンの首根っこを持ち、私から引きはがすと彼の頭にげんこつが落ちる。


「あぁ、僕の一世一代の告白が台無しじゃないか!」


「行動に移すのが遅すぎですわ。ねぇ、ユカ様」


「えぇ!?えーと」


「顔を真っ赤にして戸惑う姿、あぁ~可愛らしいですわ」


トレーシーはうっとりとした表情を浮かべながら、私へ抱き着こうとするが、その前にノア王子が彼を掴むと、また言い合いが始まった。


私はそっと一歩下がると、彼らの姿をぼんやりと眺める。

何だかよくわからないけれど、こうやってみんなと過ごす瞬間がたまらなく嬉しい。

穏やかで幸せな時、私が築き上げてきたものがそこにある。

前世では何もなかった私に与えられた宝物。


これから先の未来は、小説で描かれていない。

リリーとしてではなく、祐佳として進む未来。

どうなるのか全く想像できないけれど、後悔や憎しみに捕らわれずに生きていきたい。

皆と一緒にーーーー。



*********************************************************


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

最後までワチャワチャな感じでしたが、楽しんで頂けていれば嬉しいです(*'ω'*)


おまけ数話は後日投稿しますが、とりあえず本編は完結です。

当初は80話程度で終わるはずだったのですが……気が付けば130話越え。

何とか4月上旬に完結出来て、ほっとしております。


ご意見ご感想等、ございましたらぜひぜひコメント頂けると嬉しいです(*ノωノ)

必ずご返信しますので、何でもください!

改めまして、お読みいただきありがとうございました。


コメントで何度も励まされ、読者様のおかげで完結出来ました。

語彙力があまりないので……ありきたりな言葉しか思いつきませんが……。

本当に本当にありがとうございました。

また別の作品でもお会いできるよう、これからも頑張ります。

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