最後の審判 (其の一)
ノア王子の計画を聞いた後、私は秘密裏に牢屋へ戻された。
手当をした形跡を消すために、血だらけの包帯を取る。
肌に張り付き、バリバリと固まった瘡蓋が剥がれ痛みが広がった。
歯を食いしばりながら痛みを振り払うと、深く息を吸い込む。
残された時間はわずか、チャンスは一度っきり。
ノア王子が考えてくれたこの作戦、必ず成功させて見せる。
そしてノア王子と……リリーを救う。
私は冷たい牢屋の中、一人拳を固く握ると、天井へ向かって掲げたのだった。
そしてやってきた運命の時間。
廊下からバンッと大きな音と共に、カランカランと何かが転がる音が響く。
合図が来たと、私は牢屋に戻される前に渡された鍵と薬を取り出した。
鍵はもちろん牢屋のカギ。
薬は体の痛みを和らげるための強力な鎮痛剤。
私は薬を口へ放り込むと、ゴクンッと一気に飲み干した。
暫くすると体中の痛みが和らいでいく。
おもむろに腕を上げてみると、違和感を感じるが痛みはない。
鍵を握りしめ取り立ち上がると、南京錠の鍵穴へ差し込んだ。
ギギギッと音を立てて扉が開く。
辺りを注意深く見渡すと、脚に力を入れ走り始めた。
薄暗く湿っぽい通路を真っすぐに進む。
地下牢の出入り口に到達すると、看守の姿はない。
合図をくれたピーターが上手くやってくれたのだろう。
看守室の前を通り過ぎ、外へ続く扉を開けると雨はザーザーと降り注いでいる。
私は雨雲に覆われた空を見上げると、フードを深くかぶり飛び出した。
ぬかるみに何度も足を取られそうになりながらも必死に走る。
頬に突き刺さる冷たい雨。
広場に差し掛かると、中央に設置された処刑台が視界に映った。
思わず立ち止まると、聳え立つそれに恐怖を感じる。
首を真っ二つに切断される己の姿が頭をよぎった。
暗い感情がこみあげてくる中、私は処刑台から目をそらせると、東の空を見上げる。
外はまだ薄暗いが、東の雨雲から微かに光を射し始めていた。
こんなところで立ち止まっている暇はない。
急がないと、太陽が昇りきる前に……。
私は城の裏手へ回ると、比較的警備が薄い使われていない倉庫の窓へ手を伸ばした。
普段であれば鍵がかかっていて開かないはずの窓。
だが窓に掌をつき引いてみると、ガチャッと音共に開く。
空いた窓から手が伸びてくると、私はその手をしっかりと掴んだ。
こちらを覗き込む金色の瞳。
窓をよじ登り彼の胸へ飛び込むと、埃が宙を舞った。
「主様、大丈夫?」
耳元で囁くエドウィンの声に、私は静かに頷く。
数十分程度だが、ローブは水を吸いとても重く、寒さに体が震える。
ポタポタと床へ雫が垂れ、慌てて退けようとすると、エドウィンが乾いたタオルで私の震える体を包んだ。
彼はタオルの上から優しく私を抱きしめると、そのまま立ち上がり歩き始める。
リリーの時にも抱き上げられたことはあるが、今の体は小柄で彼の腕にすっぽりと収まっていた。
私は彼の肩を叩き体を起こすと、耳元へ顔を寄せる。
「大丈夫よ、歩けるわ」
エドウィンは金色の瞳を向けると、首を横へ振り、抱きしめる腕を強める。
これは下してもらえそうにない。
私は諦めるように首へしがみつくと、彼は満足げにほほ笑んだのだった。
エドウィンは外の様子を伺いながら倉庫の扉を開けると、私を抱き上げたまま廊下を進んで行く。
エントランスへ続く廊下を歩いていると、ふとエドウィンが立ち止まった。
どうしたのかと首を傾げると、金色の瞳が鋭く光る。
「誰か来る。主様、その柱の裏へ隠れていて」
彼は壊れ物を扱うように私を下すと、廊下を見据えたまま佇む。
私は慌てて柱裏へ身を隠すと、息を潜めた。
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お知らせ
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ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
本日ようやく完結までかき上げました(*´Д`)
挿絵を入れようと思っていたのですが……
思っていたよりも書き上げるのに時間がかかってしまい断念(+_+)
全133話、当初より大分長くなってしまいました(;´Д`)
今週は7時・21時と、一日2話ずつサクサク投稿していきます!
おまけについては、今週様子をみながら執筆していきます!
4月3日(土)21時完結です!
ご意見ご感想等ございました、お気軽にコメントもらえると嬉しいです(*ノωノ)
最後まで見守って頂けるよう、これからも頑張ります!




