前世の記憶 (其の二)
色々と考えた結果、お金を貯めて探偵を雇い母を見つけ会いにこうと決意したの。
どうして私を捨てたのか、なぜ迎えに来なかったのか、本当に気休めであんなことを言ったのか。
私を愛していないのか……。
唯一の血縁者、きっと何か理由があるはずとそう信じてた。
だって他の子供たちは親という存在と強い絆で結ばれていたから。
私もきっと母と結ばれているのだと、信じたかった。
高校三年の冬。
卒業が決まり、お金もたまった。
探偵に頼むと、思っていたよりもあっさり見つかって拍子抜けした。
母が暮らしているのは隣の県。
会いに行くのは簡単。
私はサファイアのネックレスを握りしめて、母へ会いに行ったの。
期待と希望を持って。
けれどそこでみたのは……私が望んでいた暮らしだったーーーーー。
私はその場にネックレスを投げ捨て逃げた。
母にとっては私はいらない存在だったのだと。
信じていた自分が惨めで悔しくて、泣きながらどこまでも走った。
本当にクソみたいな前世。
だから今回こそは平凡な幸せを手にしたかった。
牢獄なんて行きたくなかった。
そして選んだ道で、剣という夢中になれるものを見つけて、人と関わり幸せを知った。
前世でも何か夢中になるものを見つけていれば、違ったのかもしれない。
あの頃の私はそういったものに目を向ける余裕はなかったんだ。
こうして改めて人生を振り返ると、前世に比べて今は幸せすぎたんだよね……。
これ以上望んじゃだめだ。
ノア王子を救えればそれでいい。
ボロボロだけれども、出来る限りのことはやりきった。
これなら前世とは違う気持ちで死を受け入れられるだろう。
★おまけ(ピーター視点)★
俺は城へやってくるとリリーの姿を探していた。
事件は無事に解決し、ノア王子とリリーが婚約したと城ではお祭り騒ぎ。
正直、あいつが即答するとは思っていなかった。
心から祝福は出来ないが、リリーが選んだのだ、俺の出る幕はない。
城内を駆け回りようやく彼女を見つけると、俺は傍へ駆け寄り腕を掴む。
「リリー、探したぞ。宿舎から出るのに挨拶もなしかよ。婚約したからって浮かれすぎだろう。たくっ、行動も早すぎだ、ってそんなこと言いにきたんじゃねぇ。ちゃんとこの前の事、説明しろよな」
リリーはおもむろに振り返ると、俺の手を強く払いのけた。
いつもとは違うその態度に思わず面食らう。
パシンッ。
「気安く触らないでちょうだい、ピーター様。私ももう騎士ではありませんの。ノア王子の婚約者ですわ。王妃となる高貴な存在ですわよ」
リリーは令嬢のような仕草を見せると、妖麗な笑みを浮かべた。
「はぁ!?、様ってなんだ、高貴って……ッッ、婚約はめでたいが……お前……変なものでも食ったのか?」
聞きなれない言葉に、驚きすぎて目を見開き固まると、リリーは目を細め不機嫌な表情で顔をそむける。
「はぁ……はっきり言わないとわからないのですか?今までの私とは違うのです。侯爵家ごときが、これ以上馴れ馴れしくしないでくださいませ」
ませ……って、おいおい本当にどうしたんだ?
普段のリリーから想像できない様に、言葉が上手く出てこない。
固まる俺の様子に、リリーはふんっとそっぽを向くと、スタスタと歩き始めた。
「おっ、おい、待てって。騎士じゃないって、騎士学園は卒業しないのか?ノア王子との結婚は卒業してからだろう?」
去ろうとするリリーを慌てて引き留めると、彼女は立ち止まりおもむろに振り返る。
「ふふっ、あんな野蛮な学園へ戻るつもりはありません。汗臭いし泥臭いですし……それにこれ以上直射日光を浴びたらそばかすが増えますわ。太陽の光ってお肌にも悪いですのよ。だから私はもう二度と剣を握りませんわ」
はぁッッ!?まじかよ……。
リリーは口元に手を当て上品に笑うと、俺を一瞥し去っていった。
何なんだあれ……?
まるで貴族令嬢のような彼女の姿に、俺は首をかしげると、じっとその背を見つめていた。




