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前世の記憶 (其の一)

ローブはボロボロ、頬も痩せこけ、餓死寸前。

体中が痛いし、もうダメなのかもしれない。

気力も体力も全て使い果たしてしまった。

打ち砕かれてしまった。


あぁ、最後に一目だけでもいいから、みんなに会いたかったな。

結局どうあがこうが、何も変わらなかった。

だけどもしかしたら、あの中の誰か一人でも、私の言葉が届いていれば……。

そう願うことしかできない。

私はゆっくり瞼を下すと、暗闇の中へと落ちていったのだった。


暗い闇の中をゆっくりと沈んでいく。

私を中心に光が広がり、闇を照らしていた。

そこに浮かび上がる、記憶の欠片。

私はそれを拾い上げると、周りの景色が一変した。


そこは私が暮らしていたあの世界。

幼い私が母と並んで道をあるいている。

夕暮れ時で世界が赤く染まり、もの悲しさを感じた。


「ここでいい子にして暮らすのよ」


「ママは?ママも一緒?」


「ごめんなさい、ママはどうしても行かなければいけないところがあるの。だからこれをママだと思って我慢してね」


母は首からサファイアのネックレスを外すと、私の小さな手に握らせる。


「ママ……これとってもだいじなものだって……」


「あげるわ。迎えに来るから、それまで持っててね」


そういった母の悲し気な笑顔は、夕日の光と共に消えていった。


私は物心ついたころに母に連れられ施設へやってきた。

必ず迎えに来ると、そういった母の言葉を幼い私はずっと信じて、去っていく母の背を見送った。

だけど小学生になり、中学生になっても、母は現れなかった。

そこでやっと気が付いた……私は捨てられたのかもしれない。

あの言葉は気休めの嘘だったのかとーーーーー。


施設では自分の世話をしてくる担当が一年に一度変わり、当たり外れがある。

良い担当に当たればいいが、悪いのにあたると一年が本当に苦痛。

雑に扱われることには慣れ、一人が一番安心すると思うようになった。


趣味は読書で特技は手品。

読書は時間を潰すのに最適だった。

手品は施設に一冊だけあった手品本を見て興味をもったんだよね。

簡単なコインを使った手品をやってみて、結構出来る自分に得意げになっていた。

施設内でお金をかけずに、一人で細々できることって意外に少ないんだよね。


毎年毎年、保護者の面談で来る大人が違うことをバカにされた。

いつも同じ服を着ていることをからかわれ、ボロボロになった靴を笑われる。

親がいないと嘲笑われ、施設の暮らしをけなされた。

だけどそれは全部、私のせいじゃないのに……。

母はどうして私を捨てたんだろう?

その疑問ばかりが大きく胸の中で渦巻く日々。


周りの生徒たちは、流行りの服に流行りのゲーム。

綺麗な髪飾りに、新品のカバン、新しい靴。

全てが羨ましかった。

私には買ってくれる大人なんていない。

幸せな家庭、幸せな生活。

私が欲しいものを持っている彼ら、なのに自分は……

劣等感と惨めさで次第に周りと関わるのが嫌になっていった。


成長していくにつれてからかってくる奴の対処法を覚えた。

向きになって言い返すのは時間の無駄。

相手をしなければ次第に興味をなくす。

面倒ごとを避けるために、目立たないことを覚えて、空気と同じように、私は教室ずっと息を潜めていた。

もちろん友達なんてできるはずない。


そんな私の様子に、大人はうるさく口を出してくるが、結局は何もしない。

一度大人の言葉に従って、人と関わってみようして、ひどい目にあった。

だけどもちろん言った大人は助けてくれない。

他人の言葉に従っていては、自分を守れないそうわかったのだ。


心のよりどころは、施設で唯一買ってもらったあの小説。

お互いを想い会う二人の純粋な恋情に感動した。

私もいつか現れるかな、そんなバカな考えをしていた頃もある。

だけど人と関わらないことを選んだ私には、ありえるはずもなかった。


高校になり、私はすぐに施設を出た。

学費や生活費を稼ぐために、アルバイトと学業に励む毎日。

それだけではどうしても生活できなくて、売春もやった。


周りが大人になり幼稚な苛めは減ったが、あからさまな同情や差別は増えた。

どうして私がこんな苦しまなければいけないのか。

数時間で稼いだ万札を握りしめ惨めな日々。

どうして私は普通の生活を送れないのか、そう考えた結果、答えを探すことにした。

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