表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/134

冷たい牢獄 (其の一)

何がなんだ処理が追い付かない。

目の前が真っ暗になり、気が付けば地下牢へ連れてこられていた。

私は牢屋の中に放り込まれると、ガチャンと鍵がかけられる。

その音にようやく我に返ると、私は縋るように鉄の棒を掴んだ。


「待って、待って、お願い、ピーター!」


「気安く名を呼ぶな。下がれ」


縋るその手を足で蹴落とされると、痛みに蹲る。

ピーターは蔑んだ目で私を一瞥すると、無言のまま去っていった。

私は痛みを堪えながら体を起こすと、廊下へ向かって必死に叫ぶ。


「うぅ……ッッ、ピーター、違うの、私じゃない!お願い、信じて!」


遠ざかっていく背を見つめると、彼は一瞬立ち止まった。

しかし振り返ることなくまた歩き始めると、足音が聞こえなくなっていく。


「チッ、バカじゃねぇの。何を信じるんだよ。あいつみたいなこといいやがって……」


彼の呟きは、私に届くことなく消えていったのだった。


薄暗い湿った牢屋には誰もいなくなった。

頑丈な南京錠で扉は固く閉ざされ、石壁に囲まれる。

嘘でしょ……。

私はその場に崩れ落ちると、頭を抱えた。

ここは昔、夢で見たあの牢屋と同じ。

リリーが蹲り泣いていたあの場所。

全てが小説通りになってしまった。


手には手錠がかけられ、冷たい床と隙間風に体が震える。

辺りには誰もいない。

どうしてこんなことに……。

絶望で目の前が暗闇に染まっていく。

現行犯で捕まった私は、間違いなく死刑台に送られるだろう。

だけど中身は違う、私は何もやっていない。

こうならないように騎士という道を選んだはずだった。

私はどこで間違えたの――――――――――?


「どうして、どうして!!!何もしていない!私じゃないのに!!!」


ありったけの思いを込めて絶叫するが、声は空しくこだまするだけ。

リリーもこんな気持ちだったんだろう。

先ほどの映像が頭をよぎると、私は呆然と床を眺めた。


これは罰だろうか。

現実なのに小説の知識を利用し、リリーとなった自分の未来を受け入れず、変えてしまった私の。

ノア王子、ピーター、トレイシー、エドウィン、みんなと過ごした時間は全て無意味だったのかな。

リリーとして普通に生活して、ありきたりな幸せを得たかった。

それだけだったのに……だけどこれが正しい道なの?


前世の私と同じ。

全てが無意味でちっぽけで、何も残さずに自殺した。

あの日、私は自分の捨てた母親を調べ、勇気を出して会いに行った。

誰もいない私の唯一の血縁者。

だけどそこで見たのは、新しい家族と幸せそうに暮らす母の姿だった。

笑みが溢れる温かい家庭。

私が望んでいた場所に母がいた。

どうして自分はそこ居られなかったのか……。

どうして自分にその笑顔が向けられなかったのか……。


結局私は母に会うことなく、そのまま帰った。

父親については何もしらない。

最初からいなかったし、写真もない。

私には本当に誰もいないのだ……。


悔しくて惨めで、虚無感に襲われる。

母の姿を見るまでは嫌われているとか、何か理由があったんだと必死に言い聞かせていた。

だけど実際は、自分の存在自体に意味などなかったのだ。

どうして私は選ばれなかったの……?

どうして母は私を……。

私はただ温かさを知りたかっただけなのにーーーーー。


恨みつらみが募るが、幸せな母の姿を思い出すと、何か出来ると思えなかった。

毎日が苦しくて辛くて、負の感情に耐えられなくなっていく。

そして行き着いたのは、死という選択だった。

よく死ぬ勇気があるのなら、行動を起こせと他人はいうが、実際に行動を起こすことなんてできない。

この耐え難い苦しみから逃れたいその一心だから。


だけど実際は、楽になどならなかった。

死ぬ直前感じた事は、後悔と憎悪。

死を目前に感じた刹那、母に会っておけばよかったと、全てを壊してしまえばよかったのだと、強い感情が溢れだした。

だけどももう遅い。

目の前に水が見えると、私は痛みを感じるまでもなく死んだのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ