表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/134

欠けたピース (其の四)

次に目覚めると、私は床に這いつくばっていた。

頭がガンガンと痛み、視界が揺れる。

一体何だったんだろうと、虚ろな視界の中辺りを見渡すと、気絶していたのは、ほんの一瞬だったようだ。

おもむろに体を起こそうとするが動かない。

どうして……?

意識が徐々に回復してくると、胸が圧迫され言葉が発せない。

一体何が起こっているのか理解できない。


おもむろに視線を上げると、なぜか目の前にリリーの姿。

これは……なんで、どうして……リリーが目の前に?

彼女の瞳を見つめると、そこに私の姿が映し出された。

私……?嘘……まさか……私が私に戻ったの……?

信じたくない、信じられない。


私は恐る恐る自分の姿を見ると、真っ黒なローブを着ていた。

黒く長い髪が頬に張り付き、視界を掠める。

圧迫感の正体を確認するため、後方へ視線を向けると、ピーターが私を押さえつけていた。

嘘でしょう……。


動いたからだろう、腕が締め上げられ痛みに顔を歪めると、侮蔑を込めた瞳が向けられる。


「無駄な抵抗はやめろ」


どうしてこんなことに……?

ピーターは私の髪を引っ張りながら腕を引き上げ立ち上がらせると、リリーがニヤリと口角をあげた。


彼女は私へ見せつけるようにノア王子の手を取ると体を寄せる。

ノア王子は驚いた表情を見せながらも、頬を赤く染めると彼女の手を握り返した。

肩を抱きしめると、私の視界から彼女を隠す。


どうなってるの……?

私が私になって……リリーがそこにいる。

リリーの中にいるのは……?


「リリー、助けてくれてありがとう。危機一髪だった。さっき死んだ男は教祖じゃなかったようだね。どうして気が付いたんだい?また女の勘というやつなのかな?」


違う、救ったのは私!

声を上げようと口を開くと、すかさずピーターが首を絞める。


「動くな、大人しくしろ」


かすれた声が響くと、苦しさに顔を歪めた。

リリーはそんな私の姿をあざ笑うように一瞥すると、ノア王子へ顔を向ける。


「はい、お守り出来てよかったですわ」


もしかしてこの体にいたのはリリーだったの?


「リリー、腕から血が……」


ノア王子は痛々しそうに腕の傷を見ると、リリーはニッコリとほほ笑んだ。


「このぐらい平気ですわ」


ノア王子は布を用意すると、優しく彼女の腕に巻き付ける。

そして寄り添いながら去っていく二人の姿に、目の前が絶望に染まっていった。

なんで、どうして……嘘、嘘だと言って……。

瞳からポロポロと涙が溢れ出すと、去っていく二人の姿が滲んでいった。


★おまけ(リリーとノア王子)★


あの場所へ戻ってきたリリーとノア王子は、真上に登った月の真下で立ち止まる。

月明りが庭を照らし、幻想的な風景の中、冷たい風が吹き抜け、草木が揺れ心地よい音が響いた。

ノア王子はゆっくりと振り返ると、彼女の手をギュッと握りしめる。


「リリー、これでやっと終わりったかな。本当に長かったね」


「はい、そうですわね……」


リリーはニッコリほほ笑むと、サファイアの瞳を見つめる。


「ねぇ、誕生祭が終わった後、大事な話があると言っただろう。このタイミングで伝えるのもどうかと思うけれど、聞いてくれるかな?」


優し気なノア王子の声に、リリーはコクリと頷いた。


「驚くかもしれなけれど、僕は出会ったあの日から君を愛していた、騎士としてではなくパートナーとして僕の傍にいてほしい」


ノア王子はそう告げると、ポケットから指輪を取り出した。


「私もです。嬉しいですわ!ずっとノア王子を愛しておりました」


ノア王子はリリーの即答に驚きながらも頬を染めると、嬉しそうに笑った。

そして彼女の頬へ手を伸ばし引き寄せると、二人の姿が重なる。

唇が触れると、月はゆっくりと傾き始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ