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欠けたピース (其の三)

私はローブから恐る恐る手を離すと、確認するように犯人の顔を覗き込む。

何度見てもそれは紛れもない()の姿。

もちろんリリーではない。

そう……リリーになる前の自分だった。


あまりの衝撃に口を半開きのままで言葉を失った。

彼女も私の姿に目を見開き固まっている。

お互いの瞳に姿が映し出された刹那、鈍器で殴られたような衝撃が走ると、目の前が暗闇に染まっていった。


暗闇の中に浮かび上がる映像。

これは……リリーの記憶?

リリーとノア王子との出会いが流れ、婚約した二人の姿が現れた。

茫然と眺めていると、吸い込まれるような感覚に思わず目を閉じる。


目を開けると、私はリリーになっていた。

感情がダイレクトに伝わってくる。


「ノア王子、私は家のために婚約しただけですわ。ですので友人として傍に立たせていただければと思います」


「わかった、僕もそのほうがいい」


笑いながら、硬く握手を交わす二人。


リリーはノア王子を好きではなかった。

友人としてずっと彼の傍についていた。

もちろん表向きは婚約者だが、そこに愛はなく信頼関係が出来上がっていったのだった。


そして城へトレイシーがやってきた。

ノア王子とトレイシーが親密になっていく様を、リリーは心から喜んでいた。

自分はノア王子を愛せなかったから、友人が幸せになるのが嬉しいと祝福していた。

表向きで柔らかい苦言をいうことはあっても、彼女に手を出す気配は一切ない。

むしろ侍女のトレイシーに隠れてアドバイスや声援を送っていたのだ。

それはずっと変わらなかった。

だってリリーはノア王子を友人としてしか見ていなかったのだから。


けれど誕生祭でリリーはいわれのない罪をかぶせられた。

私は何もしてないと、はっきり告げる。

だけど証拠は十分にそろっていて、覆すことはできなかった。

リリーはそれでもノア王子は信用してくれているとそう信じていた。

だけどノア王子は、嫉妬心でトレイシーを陥れたと判断し、リリーの言い分を無視すると牢獄へ追いやった。


湿っぽく薄暗い地下牢で、すすり泣く声が響く。

私が悪いの?

どうして私が捕まっているの?

悪いのはあの女でしょう。

なのにどうして、どうして、どうしてなの……?

私が何をしたって言うのよ。


私の方が王子と過ごした時間は長いはずよ。

一番傍で彼を支えていたのはこの私。

彼のために努力を積み重ねてきた。

恥じぬ令嬢になるために……。

だけどそれをあの女が壊したのよ。

許されるはずないじゃない。


彼が私の全てだったの。

なのにどうして……?

教えて、王子……私はどうすればよかったの……?

私はどこで間違えたの――――――――――。


惨めさと悔しさ、今までのことが全て無意味だったのだと虚無感を襲った。

それは次第に憎しみへと変わり、憎悪が溢れ出す。

許さない、絶対に許さない。

私は何もしていない。

両親に言われた通り、婚約者を演じていただけなのに。

私を陥れる理由があるのは……ノア王子とトレイシー。

友人だと思っていたのに……。

憎い憎い憎い、絶対に許さない……。


牢屋で泣き崩れる彼女は、本当に何もしていない。

けれど彼女は両親にも見放され、結局王都から永久追放となった。


いわれのない罪。

どこかで聞いた覚えがある。

王都から追い出されていくリリーの姿を見つめていると、その向こう側に浮かび上がる人影。

ブロンドでウェーブの長い髪。

クレア嬢が連れていかれるリリーの姿を見て嘲笑っていた。


「いい気味だわ。自業自得よ、私はあなたを慕っていたわ。なのにあなたが裏切った。当然の報い……ふふふ」


あはははと高らかに笑い声が響く。

そうだ、この話……クレア嬢と同じ。

リリーは知らなかっただけで、リリーが生きた世界でも同じことが起こっていた?

リリーの両親がクレア嬢を……これを仕組んだのはクレア嬢。


けれどはリリーは、嵌めたのは二人だと思い込んでいた。

彼女に残ったのは憎しみと怒り。

けれど全てから追放された彼女には、何もできない。

私の知る小説のストーリーとは全く異なる物語。


リリーはその苦しみに耐えられなくなると、ノア王子とトレイシーを恨みながら、崖から飛び降りた。

その姿は私が死んだときによく似ている。

怒りと憎しみと深い絶望、そして後悔の中で死んでいったのだった。


***************************

とうとう100話となりました(-_-;)

当初より話数が伸びすぎて……

申し訳ございませんm(__)m

物語もクライマックスですが、

どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです(*'ω'*)

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