表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/134

初仕事 (其の二)

ピーターが護衛騎士達の元へ向かうと談笑を始める。

剣術か何かの質問したのだろうか、先輩騎士たちが集まり張り切った様子で腰の剣を抜くと、あーだこーだと熱く語り始めた。

暫くその様子を窺いながら慎重に扉へ近づくと、私は音を立てずに静かに外へと出て行く。


ノア王子は母親の部屋で二人っきりの時間を過ごしている。

確か部屋は2階だったはず……えーと、階段は……。

廊下に出てキョロキョロ辺りを見渡しながら素早く移動する。

メイドや執事が現れると、身を顰めてやり過ごした。


何とか階段までやってくると、私は一気に駆け上がる。

隠れる場所が少ないため、今見つかれば終わり。

何とか階段を昇りきり、身を隠せそうな場所にしゃがみ込み様子を伺うと、廊下の突き当りの部屋に佇む騎士の姿を見つけた。

あの部屋だ、そう確信した。


正面から行っても入れないよね。

でもグズグズしてもいられない。

お茶を飲んでしまえば、彼のトラウマを消すことは出来ないのだから。

時間がないし、うーん、ここは……やっぱり正面突破。


私はサッと立ち上がると、騎士へ向かって走って行く。

私の姿を見つけた騎士は、すぐに扉を塞ぐと、鋭くこちらを睨みつけた。


「なんだお前は、なぜここにいる?」


「すみません、ノア王子にどうしてもお伝えしなければいけないんです」


「ここは入室禁止だ、さっさと戻れ」


「緊急事態なんです!ノア王子に何かったら、あなたは責任をとれるんですか!!!」


勢い任せの雑な作戦。

けれど有効なときもある、一瞬の隙が出来ればそれでいい。

私はそのまま騎士へ突っかかると、一瞬彼が怯んだ。

その隙に彼の体を突き飛ばすと、短剣を扉の隙間に差し、強引に扉を開いた。


「失礼します、ノア王子。話を聞いてください」


シーンと静まり返った部屋で私の声が大きく響く。

王子と同じ青色の長い髪で瞳はグリーン。

真っ赤な唇が白い肌に映え、見惚れるほどに美しい女性と視線が絡んだ。


「……あなたはどなたかしら?」


「あっ、えーと、王子を守る騎士です」


サッと姿勢を正し敬礼すると、サファイアの瞳が私を射抜く。


「申し訳ございません母上、すぐに追い出しますので……」


ノア王子は頭を抱えると、おもむろに立ち上がった。

よかったまだ毒は飲んでいない。

テーブルには蝶のイラストが入ったカップに、アップルグリーンの香りがするお茶が注がれていた。

湯気がたっているため、入れたばかりなのだろう。

私は後ろから襲ってくる騎士の手をスルリと避けると、王子の元へ走って行く。


小説とおなじ、間違いない。

時期も同じで、これがきっかけで彼は蝶を嫌いになる。

そして女の人も嫌いになり、冷たい目をするようになってしまう。

ノアの母親へ視線を向けると、私を目踏みしながら、妖麗な笑みを浮かべ、嘲笑うように口角を上げた。


「ふふふ、息子には可愛らしい騎士様がいらっしゃるのねぇ~。それで何かしら?」


「ノア王子、お茶会を終わらせましょう。それを飲んじゃダメです」


私は必死に彼の前に置かれているティーカップを指さした。


「なぁに、突然?毒でも入っているというの?可愛い可愛い息子にそんな事するはずないでしょう」


彼女はニッコリと笑みを深め、自分のカップに口を付けると、ゴクリと飲んだ。

何ともないでしょうと見せつけるように笑うと、王子へ飲むように勧める。


「突然何を言い出すのかと思えば、さっさと出て行け。なんなんだまったく。すみません母上、彼女は少し変わっていて……。はぁ……こんなこと初めてだ、連れて来るんじゃなかった。下で待っていろと命令しただろう、さっさと下がれ」


イライラしている王子の言葉を馬耳東風に、飲み干したカップをまじまじと見つめる。

あれ、毒じゃない?

いやいや、でも小説に書かれていたシチュエーションと同じ。

解毒剤を飲んでいるとか?もしくはコップに何かあるのかもしれない。

だけど説明している暇はない。

後ろからは騎士が迫ってきているし、だけどここまできて……。

どうするべきなのか内心悶えていると、教官の言葉が頭に浮かんだ。


騎士は自分の為ではない誰かの為に戦うんだ。

その誰かの為に、一番正しいと思う選択をしなさい。

正しい選択……私が守るのはノア王子。

彼のあの笑顔を守りたい。


私は意を決して王子の突き飛ばし、コップを手に取ると一気に傾けた。

これで思い過ごしだったらどうしよう……そう頭を掠めるが、もう後にはひけない。

でももし毒だったらこれで王子は苦しまない、怖い思いもしない。

心に傷は出来るかもしれないけど……後悔はしない。


淡いアップルの風味が口に広がり喉を通っていくと、燃えるような熱が込み上げる。

あっ、熱い、苦しいッッ……。


「リリー!!!」


ノア王子の声が頭に響く。

手にしていたカップが床に落ち、破片が辺りに飛び散ると脚の力が抜けた。

痛みと苦しみで呼吸が上手く出来ない。

酸欠で意識が朦朧とする中、私はそのまま膝をおとし蹲った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ