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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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761話


 9月4日の夜遅くなってから、雄太宅の電話が鳴った。


(もしかして……)


 春香はドキドキしながらリビングへ走って電話に出た。


 国際電話ならではの間がある。


『……もしもし春香』

「雄太くん……」


 春香は胸を押さえながら、雄太の言葉を待った。


『……勝ったよ、春香。G1勝てた』


 時が止まった気がした。最愛の人からの言葉にポロポロと涙が溢れる。拭っても拭っても次々と溢れて頬を濡らす。


『……春香?』

「嬉しくて……嬉しくて……。おめでとう、雄太くん。良かったね」

『……春香、大好きだ。世界で一番愛してる』

「へ?」


 突然、脈絡がない雄太の言葉に春香は頭の上にハテナがいっぱい浮かんだ。


『……涙止まったか?』

「ふふふ。うん、止まった」


 嬉しい言葉ではあるが、あまりにも突然だったので驚いたのだ。


『……ありがとうな。喜んでもらえて、俺も嬉しいよ』

「うん。雄太くんの夢の一つが叶えられたんだもんね」

『……ああ。早く会いたいよ』

「私も早く雄太くんに会って、思いっきり抱き締めてもらいたい」

『……ああ』


 フランスでの勝利は雄太に自信をつけた。ただ、それで増長する訳ではないのが雄太だ。


 電話を切った雄太は、泣いて喜んでくれた春香への愛情が増えていくのを感じた。




 10日と11日に中京で騎乗がある雄太はフランスから帰国する事となった。


 出国する時と同じように、春香と子供達は空港まで雄太を迎えにきていた。


「春香」

「雄太くん」


 雄太は春香に駆け寄って、床に荷物を置くと、春香を思いっきり抱き締めた。


「ただいま……。ただいま、春香。会いたかった」

「うん。会いたかった……、会いたかった。おめでとう、雄太くん」


 しばらく無言で抱き合った。ベビーカーに乗った俊洋と子供達が二人に声をかけるまで。


「ウバゥ、ダダダァ〜」

「パパ、オカエリ〜。オメデトウ」

「パーパー、オタエリ。メート」


 ハッと我に返った雄太と春香は頬を赤らめて体を離した。


 雄太は膝をついて凱央と悠助を抱き締めた。


「ただいま。凱央、悠助、俊洋」

「パパ」

「パーパー」

「ダゥ……ンバァ……アゥ……」


 ヒシッと雄太に抱きつく子供達を腕に収めながら、雄太は俊洋の手をニギニギとしていた。


 その雄太達の微笑ましい姿を春香だけでなく、周囲の人達も温かく見守っていた。


「じゃあ、帰ろうか」

「うん」


 久し振りに家族が揃った雄太達は仲良く帰路についた。




 子供達が眠ってからしっかり春香にサインをしてやった。海外での初G1だという事で春香の喜びはいつも以上だった。


 その後、雄太はリビングのソファーに寝転び、春香に膝枕をしてもらっていた。


「本当にお疲れ様。雄太くん」

「春香もお疲れ様。俺がいない間、大変だったろ?」

「凱央も悠助もお手伝いしてくれたし大丈夫だったよ。お義父さん達だけでなく、塩崎さん達や健人くんも遊びにきてくれてたし」


 健人はトレーニングをしにきていたから分かるが、純也達も凱央達と遊んだりしてくれていたのをきいて、雄太は嬉しく思った。


 そして、雄太はリビングボードの上に積み上げられたスポーツ紙や競馬新聞紙などを見て目を細めた。


「あれもしかして、ソル達が持ってきてくれたのか?」

「うん。私も買ってきたし、お義父さんもお義母さんもだし、お父さんも持ってきてくれたんだぁ〜」

(おいおい……。皆、舞い上がり過ぎだろ……)


 雄太は苦笑いを浮かべた。


「皆嬉しかったんだね。あ、鮎川さんからも電話があったんだよ」

「鮎川さんから?」

「うん。凄く喜んでてくれてね、インタビューさせて欲しいって」

「インタビューって」

「他にもインタビューの連絡があったの」


 春香は嬉しそうに言った。


「何かしばらくインタビューで時間取られそうだな……」

「そうだね。でも、海外のG1獲れたんだもん。忙しくなると思うよ?」

「えぇ……。俺、フランスでも取材受けたのに……。家族の時間も取りたいのにぃ……」


 春香とは真逆のウンザリという表情の雄太を見て、春香はクスクスと笑い続けていた。






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