第29章 人の繋がりと血の繋がり 753話
理保の骨折が治るまで、雄太宅は七人暮らしとなり、毎日賑やかになった。
理保は何も出来ないからと、春香が家事をしている間、悠助だけでなく俊洋を抱っこしたり面倒をみてくれている。
「お義母さん。洗濯を干す間、俊洋をお願いします」
「ええ。俊洋、バァバですよ〜」
「ウバゥ……ダァ……」
車椅子の理保に俊洋を預け、サンルームに向かった春香の後を悠助が追いかけた。
悠助はカゴに入った洗濯物を春香に手渡したりするお手伝いしている。
(春香さんは男の子でも家事のお手伝いをさせてるのね。そう言えば、雄太も家事をしてるって言ってたわね)
子供の時から当たり前のように手伝いをしているのなら、将来結婚しても家事をする夫になるだろうなと思う。
(凱央達がどんな仕事をするかは分からないけど、お嫁さんの手伝いをする夫であって欲しいわ。お嫁さんが体調不良の時は家事をしてやって欲しいもの)
腕の中でご機嫌で手をフリフリしている三人目の孫を見て癒されている理保だった。
外を見ると、今にも雨粒が落ちて来そうにどんよりとしている。
「お義母さん、雨降りそうですね」
「そうね。凱央のお迎えに行く頃には降るかも知れないわ。もし、降ってきたら悠助も私がみてるわよ?」
「そうですね」
お手伝いが終わった悠助は、凱央のお古の馬形の手押し車で遊んでいる。
理保が同居し始めた頃から、悠助は理保と二人きりになっても泣く事もなかった。幼稚園に行って帰ってくる時間ぐらい預けるのに不安はない。
「悠助〜」
「アイ」
春香が声をかけると悠助は手押し車に乗ったまま、春香達のほうへとやってきた。
「ニィニのお迎えに行く時に、雨が降ってきたらバァバとお留守番出来る?」
「ン。デキユ」
「そう。さすが俊洋のお兄ちゃんね」
「アイ」
春香に褒められて、悠助はニヘラと笑った。
「あら、今の笑いかたは雄太にそっくりね」
「そう思います? 何か照れくさそうに笑うと雄太くんにそっくりなんですよね」
「本当、似てるわ」
「大好きな笑顔です」
二人で顔を見合わせて幸せそうに笑っていた。
凱央のお迎えに行く時間になるとポツポツと雨が降り出してきた。
(凱央の長靴要るかな? 大丈夫かな?)
まだほんの少しの雨で傘も要らないぐらいなので、凱央のレインウェアを持ち傘を差して幼稚園へ向かった。
「バァバ、タダイマ〜」
「凱央、おかえりなさい」
凱央は幼稚園から帰って手洗いウガイをして、猛ダッシュで理保に駆け寄り手にしていた紫陽花を手渡した。
「バァバ、オミマイダヨ」
「あら、お見舞い? 綺麗な紫陽花ありがとう」
理保の目がウルウルとしている。
孫が幼いながらに見舞ってあげようと言う気持ちを持ってくれているのが嬉しいのだ。
「春香さん、一輪挿しあるかしら?」
「はい。持ってきますね」
目元を押さえながら笑う理保に春香は笑顔で答える。悠助も紫陽花を興味津々で眺めている。
「悠助、紫陽花よ。ア・ジ・サ・イ」
「アイサイ」
「ふふふ。綺麗ね」
「キエ〜」
春香が水を入れてきてくれた一輪挿しに紫陽花をいける。綺麗な水色の紫陽花を理保は見詰めていた。
「ねぇ春香さん。この紫陽花ってどうしたの?」
「幼稚園の園庭に植わってあるのを先生にいただいたんです。バァバのお見舞いに欲しいって言って」
「そうだったのね。嬉しいわ」
わざわざもらって来てくれたのかと思うと更に嬉しくなる。
(本当に優しい子ね)
そうこうしてる内に雄太が帰ってきた。子供達に絡みつかれながら、リビングボードの上にある紫陽花を見つけた。
「あれ? 紫陽花?」
「凱央がね、お見舞いだって言ってくれたのよ」
凱央が雄太の腕に絡みつきながらニコニコと笑っている。
(いつの間に、お見舞いに花をとか覚えたんだろうな。俺もしたほうが良いのかも……。子供に気遣いで負けてるとか……)
少し考えて何かしようかと考えていたら、慎一郎が理保の好きな和菓子を買ってきたのには、雄太だけでなく理保も驚いていた。




