747話
翌朝も、凱央はウキウキと制服を着て通園鞄を肩にかけていた。
「ママ、ヒトリデジュンビデキタヨ」
「自分で幼稚園の用意出来て偉いね」
「ウン。ボクオニイチャンダモン」
一気にお兄ちゃんぽくなった凱央は、自分の事は出来る事はするようになってきていた。
(頼りになるなぁ〜。本当、子供の成長って早いな)
悠助も凱央と幼稚園まで一緒に行くのが楽しいようだった。
「ニィニ、コエモッテイク」
「ユースケ、ジブンノオカバンニイレルンダヨ」
「アイ」
悠助は自分のお散歩リュックを持ってきて、純也からもらったアザラシのぬいぐるみを頭から詰め込んでいる。
「ンションショ」
「ユースケ、アタマカライレチャカワイソウダヨ」
「ン。アンタイムケユ」
一度リュックに入れたアザラシを抜き出し、反対を向けて入れる。
小さなリュックからピョコンと飛び出たアザラシが可愛くて、俊洋のオムツを替えながら春香は小さく笑ってしまった。
玄関のドアを開けると、庭先で水やりをしていた理保は春香達に気づいた。
「おはよう」
「バァバ、オハヨウ」
「おはようございます、お義母さん」
理保は水やりの手を止めて、制服姿の凱央を見て、嬉しそうに笑った。
「凱央、気をつけて行くのよ? 先生の言う事をきいて、良い子でね」
「ハイ、バァバ。イッテキマス」
凱央は元気に理保に手を振った。それを見ていた悠助も真似をした。
「バァーバァー。イッチキマチュ」
「悠助、いってらっしゃい」
門扉を開けて外に出ると、凱央は教えられたように立ち止まり左右を確認する。
車が来ないのを確認してから、幼稚園に向かって歩き出した。春香は、手を繋いで歩く凱央と悠助の後ろをベビーカーを押して歩く。
「サイタ〜、サイタ〜。チューリップノハナガァ〜」
凱央が幼稚園で覚えた歌を歌いながら楽しそうに歩いている。
「ア、チョウチョ〜。ママ、チョウチョトンデキタヨ〜」
「そうだね。あ、お友達も来たよ」
二匹のモンシロチョウがヒラヒラと飛んでいる。
「ダダゥ〜、アウアァ〜」
俊洋が懸命に手を伸ばす。そこにもう一匹現れ、三匹でヒラヒラと飛んでいた。
「凱央と悠助と俊洋みたいだね」
「ウン。ナカヨシダネ」
「ニィニ、ナタヨチ」
楽しそうに話したり、道端に咲いている花を見ながら幼稚園に到着した。凱央が門の中へ行こうとすると、悠助が泣きべそをかきだした。
凱央の制服の裾をギュッと握り締めている。
「ニィニ……ニィニ……」
「ユースケ、ナイチャダメダヨ。ユースケモ、ニィニナンダカラネ」
凱央が悠助の頭を撫でてやっている。悠助はクシクシと目元を擦っていたが、俊洋のほうを見た。
「ン。ニィニ」
「イイコ、イイコ。ヨウチエンカラカエッタラアソボウネ」
「アイ」
春香は優しい凱央に雄太の姿を重ねていた。そして、自分もお兄ちゃんだと凱央に言われて、少しキリッとした顔をした悠助の頭を撫でてやった。
(本当に凱央も悠助も雄太くんにそっくり。えへへ。嬉しいな)
「ママ、イッテキマス。ガンバッテクルネ」
「うん、いってらっしゃい」
「ニィニ、バンバエ」
グズグズと泣きべそをかきながらも悠助は凱央に手を振っていた。
凱央は新しく出来た友達と話しながら園内に入っていった。
帰り道、半べそ状態だった悠助は気がつけば俊洋と手を繋いでいた。
「俊洋、お兄ちゃんに手を繋いでもらって良いね」
「ウバァ……ダァダァ……」
「ン。ニィニダヨ」
凱央がいない時間が出来、悠助は俊洋のお兄ちゃんとして成長していってくれるんだなって思うと、春香はワクワクとした気分になった。
✤✤✤
24日に誕生日を迎えた悠助は、阪神競馬場から戻った雄太から抱っこしてもらい頭を撫でてもらって、満面の笑みを浮かべていた。
「明日はお祝いしような」
「ン。オイワイシユ」
凱央が自分の部屋で寝ると言って二階へ言った後、悠助は雄太の部屋で寝ると言って地下へと向かった。
春香は明日の悠助の誕生パーティーが楽しみだなと思いながら、俊洋と一緒に眠った。




