表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

752/774

745話


 4月10日(日曜日)


 阪神競馬場 10R 第54回桜花賞 G1 15:40発走 芝1600m


 俊洋が小さい為に現地に行く事はなく、春香と子供達はテレビの前での応援だ。


 春香はジッとパドックを見ていた。


(ハーティの……妹……。同じ芦毛でも、この子とハーティと色味が違うんだよね……。何て言ったら良いんだろ? グレーはグレーなんだけど……)


 雄太が騎乗しているハーティグロウの半妹は、艶々とした馬体でキリリと前を向き堂々と歩いていた。


 ハーティの半妹という事もあり、オッズは7.3倍で三番人気だ。


(うん。この子は本当に綺麗な子だな)


 春香はソファーに座っているが、凱央と悠助はベビーゲートの前に陣取っている。手には、春香が新しく作ってやったポンポンがある。


 凱央も悠助も激しく振り回したりするから、結構早くボロボロになってしまうのだ。


「ユースケ、パパガウツッタヨ。ガンバレガンバレ

スルヨ」

「ン。パーパー」


 ゲートに入る前から応援が始まり、ポンポンを振るシャカシャカした音がすると、俊洋も足を激しく動かしていた。


(俊洋って、足を動かすの凄いなぁ〜。凱央と悠助と比べても、足をパタパタしたり蹴飛ばすのが凄いんだよなぁ〜)


 チラチラ俊洋を見ながら、順番にゲートに入っていく姿を見守り、雄太達騎手と全馬の無事の完走を祈った。


(頑張ってね、雄太くん)


 実は雄太はハーティの妹には二月に騎乗していた。その時は掲示板入りも出来なかったが、雄太は今度こそと言っていた。


 『馬主オーナーが是非って言ってくれたんだ。前回上手くいかなかったから乗り替わりだと思ってたんだけどな。信じて依頼してくれたんだから頑張るしかないよな』


 雄太はもちろん、春香もハーティが嫌いだった訳ではない。様々な事があり過ぎただけで、本当はもっと触れ合いたかったのだ。


 そんな事を思い出していると、ガシャンとゲートが開いて十八頭がスタートを切った。


(ねぇハーティ、元気にしてるかな? ハーティ。あなたの妹が雄太くんと頑張ってるよ)


 桜の花が美しく咲き誇っている競馬場を、美しいグレーの馬体が弾むように駆けている。伸び伸びとしていて、楽しそうだなと感じた。


 レースはドンドンと進み、直線を向いた雄太が前に出ようとした時、進路が一瞬(せば)まり抜けられないように見えた。


「パパァ〜、パパァ〜っ‼ ガンバレェ〜」

「パーパー、パーパー」

(雄太くんっ‼ まだチャンスはあるはずっ‼ 諦めないでっ‼)


 一度少し下げた雄太だったが、ほんの少し間が開いたのかスッと前に出た。


「前に出られたっ‼ 雄太くんっ‼ 頑張ってっ‼」

「パパっ‼ ガンバレガンバレェ〜」

「パーパー、バンバエ〜」


 前に出られたらこちらのものと言わんばかりに、グレーの馬体がグングンと後続馬を引き離しにかかった。


 その姿は半兄ハーティグロウと同じように力強かった。


「もう少しっ‼ もう少しだよっ‼」


 競馬場に大歓声が湧き上がる。もしかするとハーティのファンもいるかも知れない。


 競り合った二頭がゴール板を駆け抜けた瞬間、競馬場を揺らす程の歓声が上がった。


 どっちが一着だか分からないぐらいの僅差な状態だ。


(雄太くんだよね? ほんの少し鼻先が出てたもん)


 掲示板に着順が灯るまでの時間が酷く長く思えた。


 そして、着順が灯った。ハーティの半妹はハナ差で桜花賞を征した。


「勝ったぁ〜。雄太くんが勝ったぁ〜」

「パパ、カッタァ〜。ガンバッタァ〜」

「パーパー、パーパー」


 凱央と悠助はピョンピョンと跳ね回った。抱っこされている俊洋も笑っているように見える。


「俊洋も嬉しい? パパ、一着だよ。優勝したよ」

「アバァ……ダァウ……」


 小さな俊洋の手を握って軽く振ってやる。


 インタビューを受けている雄太の姿も笑顔もドキドキしていた。


(雄太くん、格好良いな。えへへ)


 テレビ中継が終わった頃、俊洋はスヤスヤと眠っていたので、そっとベビーベッドに寝かせ夕飯の準備に取りかかった。


 今日も雄太に惚れ直した春香だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ