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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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717話


 10月10日(日曜日)


 京都競馬場 11R 第28回京都大賞典賞 G2 15:45発走 芝2400m


 アレックスと挑む京都大賞典。雄太も気合いが入っていた。


「アル、凄い人だな」


 爽やかな風が心地よい秋晴れの京都競馬場には、メインレースがG2とは思えないぐらいの観客が詰め掛けていた。


 アレックスは1.2倍という圧倒的一番人気。多くの人達がアレックスの馬券を手にしているのだろう。


 ファンファーレが鳴り響くと大歓声と拍手が巻き起こる。アレックスは気合いを入れたように首を上げた。


「さぁ、行こうか」


 雄太の声に応えるようにアレックスはゲートへ向かって歩き出した。





 雄太宅のリビングのテレビ前では、いつものようにチビッコ応援団がポンポンをフリフリしていた。


「ウースケ。パッパト、アウノオウエンシユヨ」

「アイ、ニィニ」


 春香は二人の背中を見て、背が伸びたなぁと思っていた。


 標準より若干小さいが健康的には全く問題はないと、重幸は言っていた。


(重幸伯父さんったら、二人の成長が見たいからって、私が実家に行くと病院抜け出してくるんだから)


 孫も同然だと嬉々としてやってくる重幸のおかげで、凱央も悠助も医者が怖い存在だとは思ってないのはありがたい。


 ただ、凱央と悠助と遊んでからしか病院へ戻ろうとしない。


(重幸伯父さんは、もう医院長先生になってて診察とか滅多にしないから良いんだけど……。おサボりはおサボりなんだよね)


 毎回、春香を苦笑いさせていた。





 ガシャン


 ゲートが開いて、いつも通りにスムーズにスタートをきったアレックスは、一周目のスタンド前を駆けていく。


 大きな歓声を浴びて、五番手につけたアレックスの馬体が、傾きかけた陽の光でキラキラと輝いていた。




(うわぁ……。アル……綺麗……)


 テレビの画面越しでも、アレックスの調子が良いのが分かるぐらいの美しい馬体にホゥと溜め息が出る。


「アウ〜、ガンバェ〜。パッパ、ガンバェ〜」

「パーパー、アーアー」


 凱央と悠助の声援が聞こえ始めると、腹の子がポコンポコンと蹴るように動く。


(パパが頑張ってるのが分かるのかな? それとも、お兄ちゃん達の声が聞こえるのかな?)


 そっと腹を撫でながら、テレビを見詰める。


 アレックスは尻尾をなびかせて向こう正面へ向かっていっていた。




 3コーナーを過ぎ、ゆっくりと順位を上げつつあったアレックスは、4コーナーを綺麗に周ると先頭に立った。


 その瞬間、競馬場を揺らすかと思えるぐらいの歓声が沸いた。


 グンッと前に出たアレックスを雄太は内ラチ沿いへ導き、グングンと加速をして後続馬を突き放しにかかった。




「雄太くんっ‼ アルっ‼」

「アウっ‼ パッパァ〜っ‼」

「パーパー」


 スタンド前を一頭で駆けているアレックスに大歓声が沸く。


 光り輝く馬体と、その背で懸命に追う雄太の姿が大きく映る。


「頑張ってっ‼ 後少しっ‼」


 アレックスは後続馬を三馬身以上引き離し、一着でゴール板を駆け抜けた。


「パッパ、カッチャァ〜。アウ、カッチャァ〜」

「パーパー、パーパー」


 小躍りする凱央につられ、悠助も体を大きく動かしている。


 凱央は春香の傍に駆け寄り、膝に手を置いてピョンピョンと跳ねる。


「マッマ、パッパカッチャネ。アウ、カッチャネ」

「うん。パパもアルも格好良かったね」

「ガンバッチャカリャ、イイコイイコシテアゲユノ〜」

「そうだね。また会いに行こうね」


 頭を撫でてやると、ソファーに置いていたアレックスに似た芦毛のぬいぐるみを抱き締めて嬉しそうに笑っている。


(おめでとう、雄太くん。おめでとう、アル)


 ゆっくりと速度を落としていく雄太の背が映った後、掲示板に灯ったのは『レコード』の文字。


 その瞬間、また競馬場が歓声に包まれた。


(凄いよ、アル。レコードタイム出せるなんて。お疲れ様)


 春香は大きな甘えん坊に、また人参や果物の差し入れをしたいなと思いながら、夕飯の下ごしらえをしようとキッチンに向かった。






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