711話
朝一の飛行機で雄太は北海道を後にした。
空港で、アレコレ土産物を物色し、遠征用バッグより大きな紙袋をぶら下げての帰宅になった。
「雄太くん、おかえりなさい」
「ただいま。あれ? 子供達は?」
いつもなら春香と一緒に出迎えてくれる子供達がいない。お昼寝でもしてるのかと思ったが、まだ昼寝の時間ではない。
「今、お義母さんと庭にいるよ」
「そうなんだ」
リビングに入り庭を見ると、理保と子供達はブルーシートを広げて、大きなパラソルの下で遊んでいた。
微笑ましい様子に雄太は笑顔になる。
「あ、雄太くん。今夜何が食べたい?」
「春香の作ってくれる物なら何でも良い」
「何でも良いが一番困るんだけど?」
「え゙」
真顔で言う春香に目が真ん丸になる。
「冗談だよ」
「ちょっ……。マジで焦ったぁ〜」
春香は吹き出しながら、雄太の腕にもたれかかる。
「雄太くんが家にいてくれるのが嬉しかったから、ちょっとかまってみたの」
「ああ。成る程な」
春香が軽く冗談を言ってくれるのが嬉しかった。
窓を開けてウッドデッキに出ると、庭にいた凱央が雄太の姿に気づいて駆けてくる。雄太は膝をついて手を広げて待ってやる。
「パッパァ〜。オタエリ〜」
「あら、雄太。帰ってきてたのね」
凱央が走っていったのを見て、理保も振り返る。
ウッドデッキに上った凱央は、雄太に抱きついてくる。悠助はトテトテと凱央の後を追って歩いてくる。その後を理保がついて歩いている。
「ただいま、凱央。良い子にしてたか? 悠助、転ぶなよ」
「パーパー」
一生懸命に歩いてくる姿が愛おしい。
理保が抱き上げてウッドデッキに乗せてやると、雄太に向かって両手を広げながら歩く。
「パーパー」
「悠助、上手に歩けたな」
二人の子供達をギュッと抱き締める。外で遊んでいたから、子供達の体はポカポカとしていた。
「おかえり、雄太」
「ただいま、母さん。あ、土産買って来たから持っていくよ」
「あら、ありがとう。雄太も、そんな気遣いが出来るようになったのね」
「母さん……。俺だって土産物ぐらい買ってくるって」
実際はすっかり忘れていて、帰りの空港で買って何とか誤魔化そうとした。
こうやって子供達と遊んでくれたりしている理保にも、不器用ながらも何かと気遣ってくれる慎一郎にも感謝をしている。
素直になれないのは慎一郎も同じなので、お見通しの理保は優しく笑っていた。
昼間、外で遊びまくり、雄太が帰ってきたのが嬉しくてテンションが上がりまくり、遊んでもらう事に夢中で昼寝をしなかった子供達は、夕飯を食べながらウトウトとしていて、早い時間に眠ってしまった。
「二人共、雄太くんが帰ってきたのが本当に嬉しかったんだね」
「俺も、春香にも子供達にも会えたのが嬉しかった」
眠っている子供達を並んで見ながら話す。
「いつもより一日長かっただけなのにって思ったんだけど、何かさ、会いたくてたまんなかった」
「えへへ。嬉しい」
「お腹の子の事も気になってたしな。隣に母さんがいてくれるから大丈夫だと思ってても、やっぱ気になるんだ」
「うん」
雄太は理保と三人目が出来た時に色々話した。
「母さん。三人目が産まれたら、今以上に助けてもらう事になるけど、春香達の事頼むな」
「分かってるわよ。完璧には出来ないかも知れないけど、母さんに出来る範囲でやるわ」
「ありがとう。でも、無理しないでくれよ?」
頼りたいと言うが、体を気遣ってくれる息子の優しさが嬉しかった。
「雄太が結婚したいって言った時は心配もしたけど、今は早く結婚してくれて良かったって思ってるのよ?」
「心配だった?」
「孫が出来ても面倒をみてやれないぐらいのお婆ちゃんじゃなくて良かったって事よ」
「ああ〜。成る程な」
そんな事は気にしてなかったと反省したのを苦笑いを浮かべながら思い出した。
「週末、京都で走ったら次は小倉だなぁ……」
「うん。どこで走ってても応援してるから」
「ああ」
ワンオペ育児に文句も言わず笑ってくれる春香に深く深く感謝する雄太だった。




