47話
「せっかくだし、サインもらおうと思ったんですけど、メモ帳にサインもらうのって失礼だと思って……」
「サ……サインですか……? えっと……俺、まだサイン考えてないです……」
今度は雄太が困ってしまった。
(サインって……。まだ、デビューもしてないのに……。でも……スゲェー嬉しい)
「じゃあ、鷹羽さんが初勝利したら サインください。ちゃんと色紙を買って来ます。サインの予約させてください。ね?」
「分かりました。初勝利上げて、市村さんにサインをプレゼントします」
春香は笑って頷くと、雄太に小指を差し出した。
(え……? 指切り……?)
雄太はドキドキしながら、春香の小指に自分の小指を絡めた。
「約束です」
「はい。約束しました」
しっかりと繋いだ小指に雄太は誓った。
(俺、一人前の騎手になります。市村さんに認めてもらえるような一人前の騎手に……。一人前の男になります。必ず)
雄太と鈴掛を見送った後、春香は倉庫に古紙として置いてあるスポーツ紙を手に取っていた。
(えっと……先週のだから2月22日のは……。あ、あった)
目当てのスポーツ紙を広げ、競馬のページを見る。
(えっと……4レースは 11:15なんだ……。最後の12レースは16:15……。って事は、予約が入ったら見られないかも知れない……。4レースだけは 絶対に見たい。テレビって何時から放送してるんだろ?)
テレビ欄を確認してみる。
「え? え?」
(ど……どうしよう……)
その日の営業終了後のミーティングが終わった後、春香は、自宅の隣の直樹達の自宅を訪れた。
「あの……お願いしたい事があって……」
直樹と里美はお互いの顔を見合せる。
「珍しいな。春が改まってお願いって」
「この前は、何の相談もなしに派手に請求書を改ざんしたのに?」
里美が笑いながら、春香の顔を覗き込む。
「あ……あれは鷹羽さんは、まだ学生だし、夢がある人だから応援したくってって言ったじゃないですかぁ……。差額は、お給料から引いてくださいって言ったし……」
喜怒哀楽の哀か無表情だった春香が拗ねると、直樹と里美には効果は抜群だった。
少しずつ大人としての生き方を教えてはいるが、何だかんだで許してしまっている。
基本的に甘いのは直樹だが……。
「給料引きは良いとして、お願いって何だい?」
春香の一大決心に、直樹と里美は驚き、しばらく言葉が出なかった。




