42話
日曜日の夜
レースを終えた鈴掛と梅野が、雄太の様子を見に自宅を訪れていた。
すっかり腫れも引き痛みもなかったが、春香に言われた通り、雄太は松葉杖を使っていた。
「雄太。腫れは引いたようだけど、痛みはどうなんだ? 大丈夫なのか?」
金曜日から会えてなかった鈴掛は、まだ痛みがあるのか不安になり訊いた。
「痛みは全くないです。でも、油断しないようにって言われたんで気を付けてます。あ、鈴掛さんと梅野さんに訊きたい事があったんですよ」
雄太の答えたにホッと息を吐いた鈴掛に、今度は雄太が訊ねた。
「ん? 何だ?」
「どうかしたのか~?」
「俺が初めて東雲に行った時なんですけど……。俺が『全治一ヶ月の捻挫だと言われました』って言ったら、市村さんが少しだけ笑ったんですよね。何で『骨に異常がない』って言ったら笑ったんだろうって、思い出したら気になっちゃって。鈴掛さん、梅野さん。市村さんが笑った意味って分かります?」
鈴掛と梅野は、顔を見合せてニッと笑って頷いた。
「あぁ~。それはな、いくら『神の手』でも骨折は治せないからだ。お前の捻挫って医者が全治一ヶ月って言ったろ? それが数日で完治間近なんてあり得ない話って思わないか? それをふまえて考えてみて、折れた骨が数日でくっついたら、そんなのあり得ないどころか漫画とかにある魔法みたいだろ」
鈴掛の言葉に、今度は 雄太と純也が顔を見合せてから
「「確かに」」
と言った。
「市村さんって、そう言う時はビシッと言いますもんねぇ~。何とかって野球選手が『骨折したのを治してくれ。一千万出しても良い』って言ったのを『一億もらっても無理な物は無理です』って 叱り飛ばしたって話も聞いたしぃ~」
梅野が、直樹から聞いた話を面白そうに話す。
「一千万……。一億……」
あまりにも桁違いな金額の話に、純也が目を丸くして呟く。
「俺が、春香ちゃんを尊敬してるってのは、そう言う所もなんだよ。金に目が眩んで適当な事を言ったり、したりしない。あの子自身は自覚してないっぽいんだけど、プロ意識の高さや無責任な事をしない所。やると言ったら責任を持って最後までやる所。出来ない事は出来ないと、はっきりと言う所。簡単に思えるかも知れないけど、実際は 難しいだろ?」
鈴掛は、雄太と純也を交互に見ながら言う。
「そう……ですね……」
(市村さんは二十歳でそれが出来るんだ……。もっと前からだとしたら凄い人だな……)




