22話
(100万円で治せるならって気持ち、今は理解出来るな……。今の俺には払えないけど……。もし、俺がG1に出て勝てるぐらいの騎手になって、G1前に怪我をしたら迷わず頼ってしまうだろうな……)
雄太は真剣に思った。
「マジでそんな金払っても良いって思えるぐらいの人なんすね。俺達と同級生か、ちょい下っぽい感じの人なのに」
純也は食べ切ったパフェの器をハンバーグの鉄板の隣に押しやりながら言う。
「春香ちゃんが『神の手の持ち主』って言われ始めたのは……確か五年くらい前だったか。その時、十五歳って言ってたから、今は二十歳だな」
「「は……二十歳っ⁉」
鈴掛が目を瞑って思い出しながら答えると、雄太達は驚きの声を上げた。
(二十歳で、あんなプロの目が出来る人……。十五歳から『神子』と呼ばれて来た人……。そんな凄い人なのに、俺みたいなガキに対して真摯に向き合ってくれた……)
『仕事だから』と言われたら そうなのだろう。
そうだとしても『神子』と呼ばれているのに、少しも偉そうにする事もなかった春香に
(尊敬出来る人だな……。感謝もしなきゃ……)
と 雄太は思った。
「まぁ『この子が神子って言われてもなぁ~』ってのは俺も思ったぞ。パッと見が小動物系だしな。けど俺は、俺よりずっと年下の子だけど尊敬してる。俺だけじゃないと思うぞ? あの子に助けて貰った騎手は少なくないからな」
鈴掛はそう言って、雄太の目の前のサラダを指差した。
「春香ちゃんの手だけじゃ全快はしない。とりあえず、たんぱく質だけでも食っちまえ」
「あ……。はい」
雄太は、ようやく自分が殆ど食べてなかった事と空腹が限界なのに気付いてサラダを口に運んだ。
(絶対、3月1日にデビューするんだ。助けてくれた人達が居るんだ。俺は前に進むんだ)
鈴掛は、やっといつもの雄太らしい顔に戻った事にホッとした。
(この世の終わりみたいな顔してたのにな。春香ちゃんが本気出してくれたから大丈夫だろ。騎乗依頼を飛ばさなくて済むなら、それに越した事はないからな。この世界は騎乗技術も大事だが、信頼関係が大事だからな)
雄太が食べ終わると、三人は急いで帰路についた。




