15話
(え? え? か……軽くだった……よな……? しかも女の人に指で押されただけだぞ……? 今の何だ……? この人……この見かけで怪力の持ち主…… とか……?)
雄太が涙目になりながら怖々と春香を見下ろすと、春香はにっこりと笑いながら雄太を見上げた。
「自分でも出来きますから、やってみ……」
「イッテェーっ‼」
ゴチンっ‼
春香の言葉を遮って、純也の叫び声と鈍い音が室内に響いた。
涙目の雄太と春香が声のした方を向くと、履いていたジャージの裾を捲り上げて、施術用ベッドの上でふくらはぎと後頭部を押さえて転がる純也がいた。
またウトウトとしていた鈴掛が
「純也うるさい」
と純也の頭にゲンコツを落とす。
「鈴掛さん……痛いっすぅ……」
純也は情けない声で抗議をした。
「ソル……。お前、何やってんだよ……?」
雄太が心底呆れた声で訊く。
「だってよぉ……。み……じゃなくてマッサージ師さんが、ふくらはぎの裏側を押したら良いって言うからよぉ……」
純也は、ゲンコツを落とされた頭頂部と後頭部を撫でながら言う。
「後頭部はどうされたんですか?」
春香が心配そうに訊ねた。
「……… ふくらはぎ押して痛くて仰け反ったら、そこに壁があった……」
純也がボソボソと言い難そうに答える。
雄太は親友の呆れた行動に ガックリと肩を落とし、春香は目を丸くして、鈴掛はヤレヤレと右手で顔を覆った。
「あの……ソルさん? 強く押さなくて良いんですよ? 慣れてないなら尚更そっと押してくださいね?」
春香に言われて、純也は
「うぇ~い」
と返事をして ジャージの裾を戻した。
「気を付けてくださいね?」
春香はそう言うと手洗い場に行き 、手を洗って数本のタオルをお湯に浸していった。
その様子を見た鈴掛が
「もう終わり? 俺、そこそこの時間寝てたな」
と笑った。
「毎日、朝早いですもんね。あ、タカバネさん。もう少しで終わりますから」
春香は雄太に声を掛けながら次々とタオルを絞っていく。
「あ……はい」
雄太は返事をして、ふと手を見た。
(スッゲェ手汗……。おもいっきり肘掛け握ってたもんな……)




