141話
「そうなんすね。市村さんなら軽自動車とかっすか?」
同じ事を思ってたらしい純也が訊いた。その言葉に、鈴掛がニヤリと笑う。
(え? 何だ? この笑い……。怪しさしかないんだけど……)
「当日のお楽しみって事にしとけって。で、春香ちゃんは家まで迎えに来てくれるのか?」
鈴掛のニヤニヤ笑いが気にはなったが、雄太は頷いた。
「雄太ん家の前の坂道、市村さん大丈夫か? あそこ直で入ったらバックで降りるか、一番上まで登って切り返すしかないだろ? バックで登るの女の市村さんは大丈夫なのか?」
「あぁ〜。そうだな……」
雄太の家は坂道の途中にある。その先は行き止まりだと言うのに、間違えて進入して来た車があたふたしていたのに出くわした事が何度かある。
春香の運転技術がどれ程のものか知らない雄太は悩む。
「ならさ、待ち合わせを寮にしたら良いんじゃね? 寮なら雄太ん家からも近いし」
「そうだな。そうしようかな」
雄太と純也も、ゆっくりとお茶を飲みながら話す。
「てか、雄太。明日のG2一着獲るつもり満々だな。俺も梅野も居るのに」
鈴掛がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「俺、一着は譲りませんよ? 俺が一着じゃなかったら、五人で食事しようって春香が言ってたんですから。週に一回しかデート出来ないのに、邪魔されちゃたまんないです」
鈴掛に負けじと雄太もニヤリと笑い返す。
「俺、市村さんとゆっくり話してみたいから食事会でも良いかも」
「ちょっ!! ソルっ⁉」
二人のやり取りを聞いていた純也が真面目な顔をして言う。それを聞いた鈴掛と梅野がゲラゲラと笑う。
「俺、市村さんと話したのって、東雲に行った時とこの前会った時に少しだけだし。雄太のどこが好きなのかとか色々、訊いてみたいんだよなぁ〜」
「お前なっ‼ 親友の俺の応援しないのも、デートの邪魔すんのも間違ってるからなっ⁉ 春香が俺のどこが好きって、この前聞いてたじゃないかっ‼」
のんびりと言う純也にガルガルと噛みつかんばかりの雄太。笑い上戸の梅野は腹を抱えて笑っている。
「ん? 俺は聞いてないぞ。春香ちゃんは雄太のどこが好きって言ったんだ?」
「『雄太くんは世界一格好良くて、最高に優しいです』だったっけぇ〜?」
「ほほぅ〜」
鈴掛の問いに、梅野が笑いながら少し声を高めにして春香の声真似をしてる風に言うと、鈴掛がニマニマと笑った。
「あれ、本気だったんだ? 俺、先輩達を呆れさせる為に言ったんだと思ってた」
「俺もそうなのかなって思ったけど、春香が言うからそうなんだよ。良いんだ。他の誰にも格好良いって思ってもらえなくても、春香が思っててくれたら。てか、明後日も春香とデートだからな。食事会は、いつになるか分かんないって思ってろよ?」
せっかく付き合えるようになったのだから、毎週デートしたい雄太の言い分はもっともだと思うのだが、純也はマジマジと鈴掛と梅野を見た。
「親友の応援しないってのも間違ってるって思うけど、先輩の応援しないのも間違ってるっすよね。俺の飯の為にも鈴掛さん、梅野さん頑張ってくださいっす」
「飯かよっ‼」
鈴掛は純也に素早くツッコミを入れた。それを聞いていた梅野がうんうんと頷いた。
「じゃあ、雄太が一着なら市村さんとデート。一着じゃなかったら三人の中で一番順位が下だった奴が五人分の飯代を持つってのはどうだぁ〜?」
「それじゃ、ソルは何も損しないじゃないですか」
梅野の提案に雄太が不平を漏らす。
「ん? そうだなぁ〜。じゃ、純也は誰が一着になるか予想してハズレたら一週間お代わり禁止なぁ〜?」
純也は、梅野に言われて頬をプッと膨らます。
「一週間もお代わり禁止になったら、俺死ぬかも知れないっす……」
「そんな事で死ぬ訳ないだろっ‼」
「そんな事で死なねぇわっ‼」
雄太と鈴掛に盛大にツッコまれ、純也は鈴掛が一着と予想した。




