13話
「タカバネさんは騎手の方なんですよね? 新人さんの」
鈴掛と一緒なら騎手と言うのは 想像は出来るだろう。
しかし、なぜ『新人』と分かるのかと疑問に思った雄太が訊ねた。
「はい。あの……新人って分かるものなんですか?」
春香が苦笑いのような笑みを浮かべて頷いた。
「見た目が若いって言うのもあるんですけど、筋肉が若いですから」
(見た目……? この坊主頭……か……。てか筋肉が……若い……? 筋肉の若さなんて分かるのか……?)
雄太が考え込んでいると、春香はスッと立ち上がった。
「新人のかたには申し訳ないんですけど ジーンズ切っちゃって良いですか?」
「はい?」
突然『ジーンズを切る』と言われた事が理解出来ず、何とも間抜けな声が出た。
「その中途半端なジーンズのビラビラしたのが邪魔なんだよ。で、お前は『新人の安月給だろうからジーンズを買うのも大変なんじゃないかな』って、春香ちゃんは心配してんだよ」
いつの間にか目を覚ました鈴掛が グッと伸びをしながら言う。その声に純也も目を覚まし大きな欠伸をする。
「すみません。もう少し早く言いたかったんですけど、鈴掛さん達が気持ち良さそうに寝てらしたので」
春香はそう言って、部屋の隅にある手洗い場で手と顔を洗いタオルで綺麗に拭った。
(この人……あれだけ集中していたのに、鈴掛さん達が寝てたのに気付いてたんだ……。俺、全然気付かなかった……。集中しても周りの気配を感じとる……。これ馬に乗ってる時にも必要な能力だな……)
雄太は真剣に考えてしまい無言になる。
「タカバネさん?」
答えない雄太に春香は声をかける。その声が優しい事に気付き、雄太は春香を見上げた。
(あ……元の巫女さんだ)
いつの間にか、蒼く燃え立つような雰囲気は消え去っていた。
「良いっすよ。邪魔ならバッサリ切っちゃってくださいっす」
純也が大きく伸びをしながら答える。
「何で俺じゃなくソルが答えてんだよ」
ジト目で雄太は純也を睨む。
「だってさ、それどう見ても、もう駄目だろ?」
純也がシレッと答えながら、雄太のジーンズを指差した。




