第9話 黄色熊討伐依頼
何度かカラルダンジョンに潜り、9階層でも平気で、お肉集めが出来る様になった。
お金もソコソコ貯まったが、買い取りポイントのみでは、Cランクへのランクアップは厳しい、何といっても冒険者はクエストをこなしてナンボの商売だ。
気に入った街で家を買うにも、現金とBランク以上という信用が無いと冒険者は家も買えないので、宿屋生活が続き、宿代を稼ぎ続ける生活になる。
田舎に行けば、
今のランクでも、農地と家が買えて、兼業冒険者として暮らす道も有るが、嫁も居ないのに落ち着くのには早い気がする。
しかし、Dランクまでは頑張り次第で、すぐと聞いていたが、Cランクに上がるのには、かなりのポイントを要する。
確かに、Dランクからの一件あたりの依頼達成ポイントの桁が違うのではあるが、今まで数百とかで昇格したのに、Cランクには数万を越えるポイントを要する。
買い取りポイントのみならダンジョンに潜っても一回100ポイントほどで、金は安定して入るが、昇級にはかなりかかる…
冒険者の世界では、Bランクになって初めて認められる厳しい世界なのだ。
ちなみに俺のDランクは、ひよっ子扱いで、次のCランクですら半人前扱いなのだ。
半年前までのGランクはまさにごみ屑扱いだった…良く頑張ったが、しかし、まだまだ先が長い。
春になり、魔物も活発になる季節、農家も畑を始めて、畑への被害を訴えたりするので、農地を荒らす魔物の討伐など、Dランク冒険者に丁度の依頼がちらほらクエストボードに並ぶ、
「よし、俺もクエストを受けようかな?」
と呟く、今までは、クエストボードには載らない〈いつでも依頼〉や、クエストボードに有っても、〈誰でも参加〉などの依頼ばかりだった。
窓口で依頼を予約するのは初である。
『旦那様、良いの有りやしたか?』
と、影に潜っているガタ郎が聞いてくるので、俺はクエストボードを眺めながら、『羊農家から羊を襲う森狼の群れの撃退かな…』とガタ郎に答える。
俺はクエストボードに貼ってある果樹園のオーナーからの冬の間に果樹園を縄張りにした〈黄色熊〉の討伐依頼の紙を読んでいると、ガタ郎が、
『アッシも果樹園を守りたいでやんすよ。
頑張ったら、そこの樹液吸っても良いでやんすよねぇ?』
と騒いでいる。
『オーナーが許してくらたらね。』
と、影の中のガタ郎に釘をさしたが、
『殺るでやんすよぉ~』
と、暗殺で有名な影アギトが、何やら〈殺る気〉を出しているので、ギルドカウンターで果樹園からの依頼を受けることにした。
クレストの街から馬車で丸1日の山あいの集落だが、乗り合い馬車などなくて、馬車をチャーターするか歩きになるのだが、依頼主から『なるべく早く』と注文の追記が有ったので、小型の荷馬車をチャーターした。
馬一頭と御者のマイクさん付きでお値段何と大銀貨一枚、拘束日数が伸びれば伸びる程、追加料金がかかるので、片道のみでお帰り頂いた。
到着したのは、山の麓の農村、ほぼ果樹園の関係者のみの集落のようで、俺が到着するなり、オーナー風の偉そうなオッサンに、
「来てくれたのは良いが、こんな子供か?!」
と、失礼な挨拶をされた。
グッと堪えて、
「クレストの街から来ました。
Dランク冒険者のポルタです。」
と挨拶を返すと、
「あぁ、今オーナーを呼んで来るから待ってろ。」
と…
『お前誰だよ!!』
と心の中でツッコむ…と、ガタ郎が影の中から、
『何でやんすアレ?テッパンの果樹園ジョークでやんすか?』
と呆れている。
暫く待つと、杖をついた気の良さそうな初老の男性が現れて、
「ようこそ、こんな遠くの田舎の依頼を受けて下さり有り難うございます。」
と丁寧な挨拶をしてくれた。
俺も改めて、
「クレストの街から来ました。
Dランク冒険者のポルタです。」
と頭を下げると、偉そうなオッサンが、
「オーナー、こんなガキで大丈夫なんですか?
熊ですよ、黄色熊。」
と言ってくる…
流石に俺もガタ郎もイラッとしたが、オーナーは杖を目にも止まらぬ速さで、ビシッっと偉そうなオッサンの目の前に突き付けて、
「黙らないか、なんと失礼な台詞を…」
と、言葉少なく怒りを表す。
すると、偉そうなオッサンは、冷や汗を流し入れながら、
「も、申し訳ございません。」
と謝っているが、俺はたまらず、
「オーナーって、かなり強いでしょ?
俺なんか来なくても良かったんじゃ…」
というと、オーナーの爺さんは、
「ホッホッホ、
私も元はBランク冒険者でしたが、この歳と悪くなった足では、とても、とても…」
と笑っている。
俺は、
「では先輩、頑張りますので、黄色熊の縄張りに誰か、案内をお願い致します。」
とお願いすると、オーナーは偉そうなオッサンに、
「ちゃんとご案内するように!」
と指示をだす。
急にヘコヘコしだすオッサンに案内されて、果樹園の上の方のに山肌に穴を開けて住んでいる熊に会いに行った。
辺りの木々には引っ掻いた様な傷があり、縄張りの印がある…熊の縄張りに侵入する緊張が俺に走るが、しかし、影の中からは、
『あぁ、爪跡から樹液が…旨そうでやんす…』
と緊張感の無い声が聞こえてきた。
さっさと終わらせて、樹液舐めさせてやらなきゃ拗ねてしまいそうだな…と思いながら、もうすぐ夕暮れ時の為に、一旦集落に戻り、翌朝、改めて熊退治を開始する事にした。
オーナーの家の離れを借りて1泊し、翌朝一番に討伐に向かう…
ガタ郎は、既にオーナーから、熊が引っ掻いて既に出ている樹液は好きなだけ舐めていいと許可をもらったのだが、
『ちゃんと仕事を済ませてから頂くでやんす。』
と、プロの対応で熊退治に挑んでいる。
坂道を上り、熊の巣穴を目指しながら、
灰色熊みたいなノリなのかな?黄色い毛色だから黄色熊って…?
などと考えながらも巣穴に到着し、ガタ郎に偵察任務を頼むと影から飛び出て、
ブウゥゥゥゥンと、飛んで行く…
『あぁ、飛ぶ姿はまだ、アレだな…苦手だ…』
と思いながら俺はガタ郎を見送る。
ガタ郎をテイムしたが、別に虫嫌いが治った訳ではない、ガタ郎は気づかい上手で、あまり視界に入らない様に影に潜ってくれるし、食事等も、虫感が滲み出る行為は背を向けてくれる…流石に大丈夫な部類のクワガタといえど、足がカサカサ動き、口元がギヂギヂと動く食事風景は勘弁して欲しいのを彼は理解しているのだ。
そんな、俺の気持ちを察してくれる出来るヤツなので、虫だけど何とか一緒に居れるのだ。
暫くしてまた、ブウゥゥゥゥンと飛びながら帰って来たガタ郎は、そのまま影にチャプンと潜り、そして、
『中に二匹居たでやんすよ、多分ツガイでやんすね。』
と報告してくれた。
リア充かぁ~、殺りづらいが、これもお仕事だ!と決意すると、ガタ郎が、
『どうしやす?アッシが忍び込んで、一匹噛りやしょうか?
旦那様は巣穴から出て来たヤツをお願いしやす。』
と提案してくれた。
俺は、剣と盾を構えて、
『ヨシ、それで行こう!』
と心の中で返事をすると、ガタ郎は、
『殺ってやりやすよ!』
と再び、影から飛び出し穴に消えた。
俺は穴の入り口横に陣取り、出て来た所を狙い打ちする為に構える。
すると中から、
「ガァウォォォォ!」
と聞こえて、ドッスン、ドッスンと暴れる音がする。
『大丈夫かよガタ郎…』
と、心配になるが、次の瞬間、
「ドバァン!!」
という、破裂音と共に吹き飛ばされた俺…
何が何だか解らず、ユラユラと立ち上がり、プルプルッと頭を振り、巣穴の方を見ると、赤いTシャツを着忘れた様な、リアルな黄色い熊が立ち上がり、腕を振り回していた。
『あのプーさん、荒れているなぁ』
と、激おこリアルプーさんのせいで、巣穴の入り口は跡形もなくなり、中の熊さんハウスが丸見え状態となり、一匹は首もとから大量の血を流してグッタリしている。
『かなり中は広かったんだな。』
などと呆けていると、一匹は完全に怒り狂い、
「ガァウォォオォォォォ!」
と巣穴の側で暴れ続けている。
俺は、
『いけない、加勢に行かなきゃ!!』
と、お仕事を思い出して、熊さんハウスに殴り込みに向かう。
まぁ、いきなり隣で寝ていたパートナーが血を吹き出して叫びながら倒れたら、パニックになるだろうが、ちょっと暴れ過ぎじゃないか?と、ボヤく俺の目の前にには、見えない敵を切り刻もうと、爪を振り回す黄色い熊がいる。
近づく事もためらわれる光景に一瞬怯むが、
「ヨシ!」
と覚悟を決めて俺は突っ込む。
新たに現れた俺に標的を定めたヤツは、立ち上がったままで殺人的なビンタを繰り出してきた。
盾でガードなんかすれば、腕ごと持って逝かれそうなビンタの間合いの外まで飛び退き、魔鉱鉄の片手剣を握りしめ、飛爪をヤツの腕目掛けて切り上げる。
おおよそ片手剣の間合いで無い距離からの一撃は黄色い熊の、片手の肘から先を切り飛ばし、
「グルァァアゥゥゥゥ!」
と痛みに歪む熊の顔、しかし、血を流しながらも尚も追撃に迫る熊だったが、片腕だけの攻撃では俺に届かないと、気がついた熊は、倒れ込む様に口を開けて、俺に噛みつこうとしてきた。
俺は、体制を低くしてから延び上がる様にヤツの首もとに渾身の飛爪の一撃を叩き込む。
刃先が、ようやく黄色い毛を数本切りつけた様に端からは見えたかもしれない…しかし、「ガッ」と小さく鳴いた熊の首がずれて、ゴトリと落ち、血飛沫が舞う。
『勝てた。』
という安堵と共に、相棒が見えない事に気がつき、
「ガタ郎!」
と呼ぶと、首から血を流し既に倒れていた熊の影からチャポンとガタ郎が現れ、
『いやぁ~、生きた心地がしなかったでやんす。
あのオス熊の野郎、アッシが影に潜るのを見たら、壁を壊して影を消そうとしたんでやんすよ…
ホントに危なかったでやんす。』
と、やれやれと言った感じで、俺の影にチャプンと潜った。
俺は首から血を流した熊と、首を切り飛ばされた熊の死体をマジックバッグに詰めて果樹園の坂を下ろうとする。
『ふー、ひと仕事終わった後のこの坂道は地味にキツいな…』
と思いながら、オーナーの家に向かい下りはじめる。
すると、
『忘れてたでやんす!』
と影から飛び出すガタ郎はその勢いのまま果樹園の木にしがみつき、
『レぇロ、レロレロレロっ』
と、自分へのご褒美に樹液を舐めはじめた。
俺は坂を下るのを止めて、道の端に腰をおろし一休みしながら、
「ガタ郎、ユックリ舐めて良いよぉ~」
というと、
『レロ、レロ、了解でやんすぅ~レロ、レロ』
と聞こえてきた。
10メートルほど離れても念話出来るんだね…あと、レロレロは効果音では無くて実際にガタ郎が言いながら舐めているのかな?などと、どうでもイイことを考えていると、
遠くの空から黒い影の塊がウニョウニョと形を変えながら俺の元へと飛んでくる…
試しに身体強化を目に発動させて、黒いウニョウニョを眺めると、それは大量の蜂が群れで飛来してきたのだと確認出来た。
「クソっ、連戦か!」
と悪態をつきながら、俺が剣に手をかけようとすると、
『王よ、我らに敵意は御座いません。』
と先頭の一際デカイ蜂が頭を下げながら語りかけてきた。
しかし、俺は蜂全般は見た目とか抜きで怖いし嫌いなんだけど…
おーい、ガタ郎さぁ~ん帰ってきてぇ~、出番ですよぉぉぉぉ!
読んでいただき有り難うございます。
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