最終話 仲間になりたそうに見ています
プロポーズから半年後の春、
列車のヨルドから新しい街迄の一部分区間の試験的な運行に合わせて、結婚式と披露宴を行った。
ただ、俺の三股感を薄める為に、
ヘンリーさん・ライラさんペアと、
ノーラさん・コルトさんペアと、
ついでに、
アゼルと女性ワイバーン騎士メルさんペア…知らなかった…アゼルの彼女が一緒にワイバーン狩りに行ったメルさんだったとは…
ヨーグモス戦の時に確かにアゼルと一緒にワイバーン騎士団として行動してたけど…
まぁ、合同結婚式にすれば目が散るだろうと考えて挙げた式ではあるが…
一対一の中に一対三が混じり、
余計に、俺の3股感を粒立てた感じになってしまった。
…悲しい…
披露宴では、皇帝陛下が、
「ポルタよ、子供はまだか?
余の所はもう、二人生まれたぞ。
しかも王子と姫だ…ポルタよ、どちらでも準備万端だぞ。
早くせぬか?!」
と…ご機嫌に話す。
俺は、
「陛下からの命で、国を立て直す為に色々としておりますのでなかなか…」
と、遠回しに文句を言ったのだが、皇帝陛下は、
「何を、子供などは毎日三分ほど致せばすぐだろう?」
と…皇帝陛下の夜はウルトラマンの様だ…
他所で言わないほうが良いですよ…陛下…と心配するが、
カッカッカと笑っている皇帝陛下に
「夜の所要時間、早くね?」
と、ツッコめる訳もなく、愛想笑いをするのがやっとだった…
しかし、もう既に我が子包囲網が…と怯える俺だった。
そんなパーティーの翌日、
ヨルドのミニ鉄道の隣に新しく出来た駅に、でっかいクマの形をしたゴーレム機関車が停車している。
やっぱりクマにしたんだ…と、デカい熊型の先頭車両を眺める俺…
そして、これから乗客を乗せての初の試験運行となるのだが、車掌にはなんと、我が拠点のマスコット、喋るクマのゴロリ君が、
「皆様、ほんじつ車掌を勤めますゴロリなんだなぁ…」
と、注意事項などの説明をしている…
ゴロリ君は喋り方こそクマ五郎譲りでポワポワしているが、クマ美に似てしっかり者で、
しかも、ウチの兄弟達とお勉強していたから、読み書き計算もドンとこいなインテリクマさんだ。
今も、
「切符を拝見するんだなぁ」
と、車掌さんをしている。
皇帝陛下をはじめ、各国の王様を乗せた列車は、ゴロゴロと音をたてながら、まだ名前の無い街に向かう…
馬車なら2日掛かるが、ノンストップで馬車より早い列車は約半日で到着し、乗客を驚かせた。
既に新しい街も完成間近になっており、本日は此方で1泊して、翌朝にヨルドに帰る予定だ。
既に完成している迎賓館のパーティー会場で、皇帝陛下から新たな街の名前のが発表されるのだが、実は俺にも知らされて無いので、ドキドキしている。
到着してから皆に街を案内していたのだが、皇帝陛下はギリギリまで「うーん?」と名前を考えていた様子だった…
そして、パーティーの時間となり、皇帝陛下はグラスを片手に壇上に立って、パーティー会場を見回した後に、
「ここにいる全員が、この街を見て驚いていると思う…
余も、何から驚けば良いか解らぬ程だ。
この街の…いや、この旧ヨーグモス王国の新しい王になるポルタに街の名前を頼まれておるが、
頭を捻るが、特徴が有りすぎて絞れぬ…
教育に力を入れるエリアに産業に力を入れるエリア、
知恵の神や、技術の神、どちらかにあやかる名前では双方の神に角がたつ…
そこで、ポルタの信仰する女神の一人の名前にあやかり街の名前をつける事にした。
ついでに旧ヨーグモスのままでは格好がつかないので、国名も贈らせてもらう。」
と言うと会場がワァーっと、わき立つ…皇帝陛下はグラスを掲げ、
「国の名は〈ファミリア〉都の名前は〈バアル〉だ!
新たな国と新たな都に幸有れ!!」
と告げた。
「幸有れ!」との乾杯の合図で始まったパーティーで、
良い名前がつけれた!とご満悦な皇帝陛下は、
「ポルタよ、これであと3つは街を作らないと角が立つのぅ」
と、笑っている…
『やられた…また何か企んでる…!?』
と思うが、しかし、俺は、
「あー、それは困りました…折角結婚できたのにまた単身赴任でしょうか?
子供がまた遠退くかも…」
と、いうと、皇帝陛下は
「それは、いかん!
先ずは世継だ。
街は後で良いから、早く世継を作ってくれ…ただし、帝都まで列車は繋げてくれ!」
と欲張りな事を言っている…
そんな会話をしていると、カーベイル国王が、
「ポルタ君…いや、ファミリア国王ポルタ殿、この度は、結婚式に列車の完成に街の名付け…
誠におめでとうございます。
祝い事は別々にして、何度もパーティーを開いてくれてもポルタ殿のパーティーならば飽きる事が無いのに、こんなにまとめられると、少し勿体ない気分になるぞ。」
と笑っていた。
俺が、
「すみません、カーベイル様…いっぺんに三人の嫁と結婚するイメージを薄めたくてギュッっとまとめてしまいました…
それと、ヨルドの街はいつ頃フェルド王国に返還致しましょう?」
と聞くと、カーベイル様は慌てて、
「いやいや、ポルタ君、ヨルドは君の働きに感謝して譲った土地だよ。
返されたら悲しいよ…もし、どうしても何かしてくれるのならば、列車をフェルドナの街までお願いするよ。
本当は、いつまでもポルタ君と呼べる仲が良いのだけれど…ワガママは言えないからね…これからも隣国としてよろしく。」
と握手を求められた。
俺は、握手をしながら、
「カーベイル様は、貴族社会での俺のお父さんですから、いつまでもポルタでお願いしますね。」
と言うと、とても喜んでいた。
皇帝陛下が羨ましそうに見ていたが…
『おめぇは、違う!断じて父親ではない!!』
と断言出来る俺がいた…
そんな会話をしていると、アルトワ国王がやって来て、
「ポルタ王の商会まで列車を行き来させるならば土地は任せて欲しい。」
と提案してくれた。
他の王国からも「ウチも」「ウチも」と…しばらくはヨルドの街と蟻達は列車特需で大変になりそうだ…
丸投げで…行ける…よね?
そして、月日は流れた…
「う~寒い…春なのに夜の公園はこんなに寒いんだ…」
僕は、この国ファミリアの第一王子の〈ベルタ〉…のはずだが…
現在、家庭の事情と言うか、
「我が家の男子は授かったスキルに関係無く、十歳になれば冒険者登録をして自力でDランクになれ!」
という、父上の方針らしい…
こんな冒険者仕事を付与師のスキルの僕が、ペア師匠の修行を一年も休んでまですることかな?
父上がいうには、最大一年で、Dランクに成らなければ駄目らしい…さっさと昇格して付与師の修行に戻りたいが…こんな状態じゃ…無理かなぁ?
それと、父上から渡された装備がヒノキの棒って…門番の見習い兵士だってもっと良い武器を与えられているよ…
結局どれが薬草かもよく分からないし、スライムは怖いし、虫は襲われない限り殺してはイケない我が家の習わしだし…
「決まりごとが多いよ!我が家は!!」
父上は、元々孤児だったらしいが、一代で王様になったっていう虫の勇者で、知恵の神の使徒らしい…
恵まれたスキルだからサクサクと冒険者のランクも上がったのだろう…
『きっと野宿なんてしたことが無いんだ!』
と…怒った所で腹は減る…今日は我慢して昨日のベンチでまた寝よう…
その頃城では…
「本日、ベルタお坊っちゃまは、中央公園の三番ベンチでお休みになられております。」
と俺は報告を受けていた。
「ありがとう、ガングロ引き続きベルタの監視とフォローを頼む…
アイツは賢いが、機転が利くタイプではない…ギルドマスターにお願いして、やんわりと助言を頼めるようにしてくれるか…
多分、下手に知識が有るから薬草の見分け方も調べて無い可能性がある。
ギルマスには酒を一本届けたら大丈夫だから…」
とガングロに指示をだして、
『頼んますよ、パイセン』
と、俺は心の中で、呑んだくれの夢の狩人のリーダーにお願いしたのだった。
息子のベルタから、
「鑑定スキルが欲しい」
とおねだりされた時に、
『自分の欲しいスキルぐらいは、自分で稼いで買って欲しい』
と考えて送り出したが…
親子だねぇ、3日連続野宿とは…
そんな所は似なくていいのに…
ベルタはシシリーと俺の子供で長男だが、付与師のスキルを持つ、少しビビりなインドア派だ。
一つ下の妹ポポならば、ママ譲りのオーガパワーと既に騎士団ばりの剣術で、何の心配も無いのだが…
現在、俺の統治するファミリア王国は、王都であるバアルに、
アゼルに国王の弟だからと公爵を押し付けて管理してもらっているヨルド領と、
ミゲールさんを魔族のリーダーとして侯爵になってもらい、魔の森全体を治める魔族領に、
旧ヨーグモス国第一王子に流石に同郷の御先祖の名前を消してしまうのは忍びないとサカシタ伯爵なってもらい代官として治めてもらっているオーツの街がメインである。
列車で結ばれてはいるが、街ごとに人間と魔族の割合が違うのが現状で、代を重ねる毎に混ざり合い、魔族だの人間だのと言わなく成れば良いと願っている。
やはり、オーツの街ではまだ魔族や、俺自身にも『敵国の… 』みたいな感情が有るようだ…
出来る限りの事はしたとしても、時間がかかるのは仕方ない。
あと、拠点迄の路線も開業して、ファミリー商会も大きくなり、妻のポプラさんの実家の果樹園をも傘下に加えたパーシーさんが頑張っている。
そして、ポプラさんはもっぱら子育てに大忙しだそうだ。
拠点のノーラさんとご近所さん同士だし子供達も仲良しで、そこにオーガの村のママさんも加わって、孤児院時代よりも母屋周辺は子供達が走り回り忙しそうだった。
残念ながら商会のヨルド支店長夫婦のヘンリーさんとライラさんには子供は出来なかった…
(ゴブリンのせいかは解らない…)
が、しかし、夫婦は、沢山の孤児を引き取り、有る意味一番の子沢山になっており、商会の見習いや、牧場にサファリパーク、ヨルドの街で商いをしている者や、一人立ちして他の街に行く者…ヨルドの街以外の街でも深く経済に関わる人員を沢山育てている。
弟の、トムも奥さんをもらい大工として一人立ちしたし、
妹のミミはクレストの街でミミハウスという洋服屋さんを経営している。
末の兄弟ポロと、ダミアだが、
ポロは、アゼルの所で騎士団長をしている…
そして、ダミアもアゼル領地で学校の先生を…
「あれ?ポルタ兄ちゃんは嫌いなの?」
と悲しむ俺に、
「ポル兄ぃよりも、アゼル兄さんに、世話になったから…」
と、我が家の下の弟達はいっていた。
それもそうか…と納得はしてみたが、少し寂しいよ…
そして、現在、俺は、
忙しい毎日を送りながら、孤児院の時ぐらいに歳も性格もバリエーション豊富な沢山の我が子に囲まれながら、楽しく気楽な王様稼業をエンジョイしている。
虫が嫌いだった俺が、『好き』とまでは行かないが、楽しく一緒に暮らせる迄にはなれたんだ…
きっと、魔族嫌いの人間も、
人間嫌いの魔族もそのうち…と、街の公園の方を眺めながら考えてながら、
「よし、ガタ郎、流石に野宿4日目は可哀想だから、コッソリとベルタのサポートよろしく。
明日辺り、牙ネズミに偶然出会う感じで!」
と、いうと、
『了解でやんす。』
と元気よく俺の影から飛び出して飛んで行くガタ郎を少し羨ましく見送る俺だった。
そんな俺を見ていたシシリー達から、
「なにしてるの?」
と聞かれて、
「ベルタの様子が気になったからちょっとね…」
という俺に、シシリーは、
「ベルタの仲間になりたそうに外を見てたわよ。」
と言われた…
『そうか…冒険に出たい…』
あの時、俺を見つめていたダンゴムシ達もこんな気分だったのかな…
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
読んで頂けたことに心から感謝申し上げます。




