第7話 武器を買いましょう
熊の分けまえを持って、ダンジョンショップに来ている…先輩の忠告を聞いて、ちょいと良い武器を整える予定だ。
大金貨一枚も有れば鍛冶屋でかなり強い武器が買えるかもしれないが、しかし、折角ダンジョンショップでダンジョン武器を扱っているのだから、何か特別な強味のあるダンジョン産武器が買えるかもしれない。
もしもダンジョン武器が高過ぎて買えなければ鍛冶屋に改めて買い物に行けば良いので、冷やかし半分ではある。
ダンジョンショップの武器コーナーをまわると、棚に並ぶポイズンダガーやパラライズウィップなど、特別な効果付きの武器が並ぶ…
業火の大剣という炎魔法が使える大剣なんか凄そうだが、俺にはデカ過ぎる。
それに、お値段が大金貨五枚と、俺には値段の方すらもデカ過ぎる。
ショートソードぐらいの長さの武器をメインにしたいが、それに手頃な値段も大事な基準である。
それから、棚の商品を見てまわるが、お値段以上の効果が有るのだろうが、異常なお値段の物ばかりだった。
「こりゃ駄目だな…」
と諦めて帰ろうとした時に、スキルスクロールの時の店員さんが、
「お客様、時間停止付きのウエストポーチですか?」
と声をかけてくれた。
俺が、
「スキルの時はどうも、ウエストポーチも欲しいけど、武器を全滅させたから、何か良いダンジョン武器がないかな?と来ては見ましたが…値段がねぇ…」
と答えると、
「どれでも小金貨三枚セールの棚はご覧になられましたか?」
と聞いてくる店員さんに、
「ご覧になっていませんよ?」
と答えると、店員さんはニッコリ営業スマイルで、
「では、こちらに」
と、俺を誘導してくれた。
売場の端に樽に無造作に入れられた、剣や槍やハンマーなんかもある。
「これは?」
と俺が聞くと、店員さんは、
「ダンジョン武器の買い取りで、人気や性能で優秀な物はメインの売場に並べますが、それ以外は、町の武器屋に払い下げるのですが、
武器屋からも、そんなに毎回は困るからといわれて、一時保管をしていますが、倉庫を圧迫するので、上からの通達で捨て値で売っていまして…」
と説明してくれた。
俺が、
「なら買い取らなければ良いんじゃない?」
と疑問を投げ掛けると、店員さんは、
「手数料で儲けるシステムなので、他所に行かれると損ですし、この設定でもギリギリ赤字には成りませんから…」
と説明してくれた。
俺は、
「でもセール品って…」
と渋っていると、店員さんは、商売モードになり、
「人気が薄かったり、華やかなスキルがないだけで、
〈耐久力上昇〉や〈切れ味持続〉など、中には特殊な固有スキルを持つ物も有るとか無いとか…
一発運試しと思って…ね。」
と店員のお兄さんがウィンクする。
正直武器の目利きなんて出来ない…
俺が煮え切らない態度でいると、店員さんは、
「では、キラーベアーに致命傷を負わせた冒険者のお墨付きを下さい。
そしたら、私が鑑定して能力をお教えします。」
と店員が言ってきた。
「もう、知ってるんですか?」
と驚くと、
「情報は武器になりますから…」
と、いやらしい笑顔になる店員さんに、俺は、
「小金貨三枚セールに、鑑定三回を大銅貨五枚ぐらいで提供すればもっと色々な人がダンジョン武器を欲しがると思うよ。
高いのは凄い性能なのは解るけど、個性が豊かな武器だと解れば、切れ味より耐久力とか、人によって欲しいものが違うからね。
答え合わせが出来ないままだと尚不安だし、
好きな3つ選んで、スキルを教えてもらって、その中で選ぶ方式とかにすれば…」
と勝手な案を出したら、何故か興奮した店員さんに別室に連行された。
そして、ダンジョンショップのお偉いさんに囲まれて、さっきの案を軽くまとめて提案した。
1日三名の完全予約制か抽選で選ばれた人だけの限定イベントにする。
参加料は小金貨三枚
沢山の武器の中から、3つ選んで、鑑定してもらって1つを選ぶ…題して、出逢い市場 (仮)と…
お偉いさんからは、
「なぜ1日三組で、3つのうち1つなのだ?」
と、聞かれて、
「同業者などの買い占めや、鑑定持ちの参加や転売を可能な限り防ぐ目的が1つと、噂が巷に回る前に品物が無くならない様にです。
このセールだけで稼ぐ訳ではなくて、面白いイベントとして長く続けて、ダンジョンショップに来るお客さんを増やしたり、ついでに見かけた商品を、買って貰ったりして利益をあげる目的だからです。」
と、説明すると、お偉いさん達はお互いに相談した後に、
「採用!
企画書にまとめて来週から告知して、春から始めるように、フロアの隅のスペースは一旦立ち入り禁止にして、会場を設営するように…頼んだよ主任。」
といわれ、店員さんは、
「頑張ります。」
と頭を下げていた。
そして、偉いさん達が退室したあとで、
「有り難うございました。
やりましたよ主任です!出世ですよ。
ヤッタァー!!」
とウキウキの店員さんは、何とも変な躍りをしている。
『ねー、俺の武器は…?』
と思うが、結局、主任に出世した店員さんの喜びの舞をひとしきり見せられたあと、予行練習がてら出逢い市場(仮)のルールの元で、片手剣を選ぶ事になった。
ニヤニヤとご機嫌な店員さんと、倉庫のような売場を巡り、
握りや振り易さ等を重視して片手剣を三本選んで鑑定してもらうと、
鋼のショートソード〈耐久力〉〈切れ味〉
魔鉱鉄の片手剣 〈耐久力〉〈固有スキル・飛爪〉
鋼の片手剣 〈スピード上昇〉
の三種類、
店員さんにオススメを聞くと、
「魔鉱鉄はミスリル程ではないですが、魔力を流し易くて、魔力を纏わせたら初級魔法なら切ったり出来ます。
ただ、飛爪は〈インパルスショット〉という、六割程度の斬撃を20メートル程飛ばさせるスキルの完全下位互換で、一メートルならば100%の斬撃を飛ばし、それから一メートル離れるたびに威力が半減するスキルです。」
と教えてくれたが、魔法が切れる能力があるから、二番のヤツ一択だな…と、決める。
新たな相棒が決まったのだが、店員さんが思い出したように、
「時間停止付きのマジックバッグはいかがですか?
時間停止付きのマジックポーチより大容量ですよ。
ちょっと中古品でビンテージ感がありますが… 大金貨一枚で特別にどうです?」
と聞いてくる。
肩掛け鞄タイプで、頑丈というか、無骨な鞄は、なんと荷馬車二台程と大容量で時間停止機能付き、機能だけなら大金貨五枚はいる品物らしい。
「出世のお礼に特別ですよ。」
といわれたが、おかげでリュックタイプが不要になってしまった。
「下取りしますよ。」
と提案されたので、お願いして、
小金貨一枚と大銀貨六枚に変わった。
『これで、弓も買い直せるし、お肉ダンジョンにも行けるぞ。』
と、思ったよりも良い買い物ができた事に満足していた。
「あー、よく解らないダンジョンショップの売り場会議とかで疲れたが良い買い物が出来た。」
武器も買い揃えて、時間停止付きのマジックバッグも買え、近接は魔鉱鉄の片手剣、遠距離は鋼の弓に、防御は丸盾が一枚に中古の装備…次は装備も揃えたい気持ちもあるが、俺もまだまだ成長期、当面はこの装備でも構わない、成長に合わせて買いかえる事になるだろうから、焦って最強装備を目指さない。
ある一定の防御力があり装備できればヨシとする。
さて、準備が整ったので、ギルド経営の宿屋の延長をお願いして、今から1ヶ月はダンジョンを中心で稼ごうと決める。
ダンジョンに潜るのに、宿を取るのは勿体ないと思うかもしれないが、ギルド宿は空き部屋が埋まってしまえば、再び空く保証が無い…
一般的な宿は長い目で見れば高く付くし、かといって、素泊まりのカプセルホテル的な宿には戻りたくないので、野宿が可能な春までは、ギルド宿を拠点にするつもりだ。
初級ダンジョンの村で買った中古の在り合わせ装備を身につけて、冒険者ギルドのクエストボードを確認するが、やはり手頃な依頼は無く、高難易度の物が幾つかあるのみだったので、
「よし、お肉ダンジョンにアタックだな。」
と気合いを入れて、ダンジョン行きの乗り合い馬車乗り場に向かう為に移動する。
すると、ギルドの酒場で朝から飲んでいる例の熊討伐でお世話になった先輩冒険者チームの夢の狩人の皆さんが、酒瓶を持ち上げて、
「ポルタぁ、ゴチになってるぞぉ、今度は、何処に行くんだ?」
と、ご機嫌で聞いてきた。
「中級のダンジョンに行ってみようかと…」
と、答えると、
「おう、行ってこい、行ってこい!
寒いのに若者はあれだね…元気だねぇ…」
と、酒瓶から酒を注ごうとするが、既にカラ状態だ。
「おっ、いけねぇ、飲みきっちまった…奢りの酒は旨いからついつい飲んじまうよ。」
と騒いでいる一団に、
「いってきます。
飲み過ぎないでくださいね。」
と告げてからギルドをあとにした。
そして、乗り心地の悪い馬車に乗ること四時間以上、腰とケツにダメージを負いながら、ダンジョンの村に着いた。
お肉ダンジョンこと、正式にはカラルダンジョン入り口の村の名前もカラルである。
カラルの冒険者ギルドの窓口でマーキングという冒険者の恒例行事である手続きをしてからダンジョンの入り口へと向かい、
『ヨシ、中級ダンジョンだ!』
と、自分に言い聞かせ、気を引き締めて初アタックに挑む。
このダンジョンは、一階層は普通の広い洞窟で、敵も余り居ないのか、それとも、結構いる冒険者が移動がてらに狩ったからか、敵となる魔物に遭遇せずに、ただの通路的なエリアを過るだけだった。
仕方ないので階段で二階層に下っていくのだが、階段では俺の前後に冒険者のチームが居て、一緒に移動している。
『人気の稼ぎスポットは人も多いな…』
と感心しながらも、俺はとりあえず二階層でお仕事を開始しようとするのだが、一緒に階段を下ってきた他の冒険者は、ぞろぞろと次の下り階層を目指して移動を続けている。
彼らはボス戦目当てのチームなのだろうか?
このカラルダンジョンは下に行けば行く程、良い肉が手に入りやすくなる。
全30階層のダンジョンで、10階層毎に敵が強くなるが、肉はその分ランクアップする。
殆どの冒険者が、10階層から20階層階層で狩りをするらしく、敵の強さと、肉の買い取り額のバランスでカラルダンジョンでも一番の稼げるエリアらしい。
ボスを倒してメダルが手に入れば、次回は転移陣で11階層から20階層で狩りができるからとりあえずボスを倒しておきたいのだろう。
それより深い階層は、凄い良い肉が手に入る可能性が有るが、敵もかなり強くて、Bランク冒険者とかが狩場にする上級者エリアらしい。
俺は、武器は良いのが手に入ったが、成り立てホヤホヤのDランク冒険者…無理はせずに、10階層迄の間でじっくり強くなりながら稼ごうと思う。
草原エリアの二階層は、とても広く感じた。
人が少ないから広く感じるのではなく、実際に初級ダンジョンより確実に広い。
とりあえず警戒しながら歩き出したのだが、どんな魔物がどれぐらい居るのか全くわからない。
ギルドにあった資料では、『魔物のレベル帯はそのままで色々な食用魔物が出現』としか書いてなかった。
同じ肉でも冒険者達を飽きさせない為のダンジョン側の配慮からか、出現する魔物が定期的に変わるらしい。
兎に角、索敵スキルなどの感知手段の無い俺は歩き回るしかないので、地下なのに草が生い茂る不思議な空間を進んで行くと、まばらではあるが他の冒険者がいるので、何かはいるはずである。
ガサっと近くの草が揺れ、俺は立ち止まり、辺りを注意して見回すと、そこには鶏の様な魔物がいた。
名前は解らないが、かなり大きくて、手羽先だけでも「ブーメランか!」っていうぐらいの大きさのが取れそうだ。
そして、巣に近づきすぎた俺に確実な敵意を向けて、巣から立ち上がり、
「コケーッ!」
と威嚇してくる。
「立つと更にデカイ、好戦的だし、シャモか何かかよ!」
と悪態をつきながら剣と盾を構える。
そういえば、この剣は固有スキルが有ったっけ?
たしか飛爪だったか…
『どうやるんだろう?』
と一瞬悩むが、この世界で技名を叫びながら戦ってるヤツを見たことがないから、
『念じればなんとかなるだろう…』
と、俺を蹴り飛ばす気バリバリの鶏魔物の首めがけて、間合いの外から横なぎに剣を振り抜く、
何かが体からフッっと吸い出される感覚があり、それと同時に、
「グゲっ」
っと小さく一鳴きしてパシュンと消える鶏魔物…
「えぇぇぇぇっ!」
と、俺は思わず声をあげてしまった。
『びっくりした。何が完全下位互換のスキルだよ!』
斬撃を飛ばすスキルでは無いよ、別物のスキルだ!
何か体から出て行ったのは魔力だろう…魔力さえ有れば、俺のこの一般的な見た目の片手剣は、刃渡り2メートル近い、とんでもないリーチの武器とイコールの代物になる。
大当たりを引いたかもしれない…
しかし、俺の魔力量とか飛爪一回分の使用魔力量とか全く解らない。
この世界はゲームとは違い、魔力が無くなれば『魔法が打てないだけ』ではなくて、魔力の急速回復の為に意識が遠退いて強制的に眠るらしい。
孤児院の爺さんにも、
「冒険者になるのなら魔力切れで魔物の真ん中で寝てしまうバカにはなるな。」
と言われたが、
『魔法がそもそも使えないから…』
と思っていたが、まさか、自分が魔力量とか気にする時が来るとは…
『爺さん、俺…成長してるぜ。』
と、俺は遠くの爺さんに届く筈もない報告をしながら、ドロップした魔石と鶏皮を拾いあげる。
「しかし、これ鶏皮串何人前だよ…デカイし、何かグロい…」
と、手に入れた鶏皮を洗濯物の様に広げ、呟く俺だった。
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