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仲間になりたそうに見ないで下さい  作者: ヒコしろう


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第68話 虫の魔王と呼ばれても


新・魔王城に騎士団を率いて移動し住人達をアリス特製地下シェルターに誘導する。


魔王城は太古の昔から続く防御陣に守られている。

魔の森は、魔王国を中心にヌシが五芒星の頂点を守る様に配置され、防御魔法陣となり魔の森に敵意を持ち進軍してきた者から街を守り、敵には方向感覚を狂わし、弱体化のデバフをかける機能があり、あとはヌシの配下が排除する為に動いてくれるらしいが、ヌシが一匹でも倒されたり、ヌシの根城を一ヶ所でも破壊されたら防御陣が機能しなくなる。


広範囲の防御には強いが、一点突破されたらひとたまりも無い防衛設備だ…昔はメインの神樹の能力でほぼ無敵の防衛設備だったらしいが、今は気休め程度であり、実際に300年程前にも勇者一行に攻略されて、国を捨てた過去がある上に、攻め込んでくるのはその攻略をした勇者の子孫…


住人を早く地下シェルターに隠さなければ!

ウチの街にも刺客を放ったのだ、本隊はそこまで来ているかもしれない…街が戦場になる前に軍に所属していなかった非戦闘系のスキルの住民達は避難して欲しい。


最悪、地下道を通ればアリス達の巣と蟲のヌシの出城を経由して旧ヨルドの街近くに抜ける事が出来る。


仮設の魔王軍に住民の移動と護衛を頼み、ヨルド騎士団とタンバ将軍と虫軍団とアリス女王と城蟻軍団で魔族の街を守る為に布陣した俺達だったのだが…


百歩譲って、アゼルとメリザはワイバーン騎士団の助っ人は解るが…何故、部下数人を連れたシシリーまで居るの?


そして、なぜ、武装したルルさんとシェラがシシリーさんを守ってるの…?


ヨルドの館に帰るように言おうとすると、シシリーさんは、


「魔王が、魔王城に居ないでどうします?!

それに、ポルタさんの側が一番安全でしょ?」


と言ってくる。


あー、もう、解りましたよ…と諦めた俺は、


「姫達には指一本触れさせませんよ、

でも、危なくなったらシェルターに逃げ込んで下さい。」


と俺が言うと、シシリーさんは、


「来月は結婚式だから怪我はしないで帰って来て下さいね。」


と、抱きついてくるが、彼女は小さく震えている…


シシリーさんは、魔族や魔物の進化を促すスキル以外何もスキルの無い補助系の、か弱い魔王だ。


この、優しくてか弱い女性を全力で守らなければ…と改めて俺は覚悟を決めた。


魔王城に、偵察の隠密騎士団から、


「ヨーグモス軍北西の鳥のヌシを撃破、真っ直ぐ魔王城に向かっています。」


と連絡が有った。


街の防御は消えて遠くから勇者の末裔が、魔族を根絶やしにしようと迫ってくる…


考えれば実に巧妙な作戦だ…

魔族の至宝を持ち出して自分達が使えば、迎えうつ魔族が帝都から至宝を持ち帰り武装することはない…

しかも、本来の性能で無くても至宝の能力は高いと思われる。


でも、今回俺は、虫の勇者では無くて、魔王城を守る魔王軍、蟲の将ポルタとして戦に赴くつもりだ…


なので奴らに慈悲などかけない…


そう、俺はこの戦いが終わったら、結婚するんだから…


あれ?…このセリフって死ぬヤツじゃない?…と思いつつ俺は、


「もう、フラグをへし折るほど暴れてやる!

もう、末代まで虫の魔王と呼ばれようと…」


と腹をくくり、魔族の方々に敵が持っているであろう至宝についての情報をあつめる。


シシリーに、新たに宰相に任命されたミゲールさんは、ルキフグス宰相さんの息子さんで、ミゲール・ルキフグスさんなのだが、親父さんと違いファーストネームにコンプレックスが無いので、ミゲールさんと呼んでいる。


ミゲールさんと、シシリーに至宝の詳しい能力を聞くと、


まず、魔神の斧は、寿命一年と引き換えに攻撃二倍、重ねがけには武器とのシンクロ率により回数が変わるという不死の魔王ドラキュリアの至宝…


不死ならばデメリットゼロだな…一回で二倍で二回で四倍…十回も重ねたら山でも割れそうだ…


つづいては魅惑の鎧で、異性からの攻撃を軽減、同性への攻撃力上昇、シンクロ率により効果が上下する。

魔物の母と言われる魔王エキドナの至宝、


女性魔王ならば効果が高いが、もしも回収してシシリーが装備して攻撃力が上がっても街娘が強化された程度だからな…あまり怖くないか?


そして、道連れのマントは、配下の数に応じて身体能力強化するが、配下へのダメージは使用者にも微量に反る。

拳の魔王ヘカントケイルの至宝で、

ワンマン魔王で配下に後方を守らせて本人は単騎で敵陣に突っ込み暴れまわる魔王だったらしい…


最後がサタンサーベルという魔王の中の魔王サタンの至宝である。


鞘から抜いた者に力と魔力を与えるが、その代償に心と魂を喰われる魔剣で、真の覚醒をした歴代魔王でも、例外は無く、扱えた物は居らず、晩年の先代魔王ベルフェゴールさんとやらも、追い込まれて使用したらしいが…たぶん心を蝕まれていたのだろうとシシリー達が教えてくれた。


凄い性能ではあるが、自称魔王のアバドンの末裔もご先祖さまのアバドンの杖の性能の半分も出せて無かったみたいだし、ましてや、人間ではシンクロ率は知れているだろう…

魔族嫌いは百歩譲って許すし、そういうお家出身なのも理解してやるが、人様の家に土足で踏み入る真似は許せない…


至宝こそ無いが、自称魔王を沈めた俺の実力を思い知らせて、攻めてきた奴ら全員、来世は漏れなく虫嫌いになるほど、虫の恐怖を教えてやる!!と気合いを入れる俺だった。



そして、それから暫くして、俺は魔王国の一番外の大壁の上に立ち、軍勢が来る予定の北西の方角を警戒している。


隠密騎士団から、


「敵、約三千、三時間後にはコチラまで到達します。」


と報告が有った。


地味にミヤ子一家が既に朝の襲撃で鱗粉を使いきったのが痛い…

広範囲攻撃手段が一つ潰されてる。


あと、数時間で到着する敵を何処かに集めて、一気に数を減らしたい…と考えた俺は、アリスと魔法騎士団に街の壁の外の森の中にアースウォールを緩やかなVの字に配置して、アリス達にその壁の延長と強化を時間いっぱい迄頑張ってもらう。


街の門付近には騎馬隊を配置して入り口固めて、ワイバーン部隊は街の壁の上で待機してもらう。


魔法騎士団がマジックポーションをガバガバ飲みながら、ヘロヘロになるまで立てた土の壁に、三千を超える城蟻が、補強と延長を行い、時間内に、高さ2メートル、幅200メートルほどの第一次防衛ラインが完成した。


第一次防衛ラインの守備は城蟻に任せて、近づく敵には蟻酸を浴びせる様に指示を出し、


タンバには、虫の軍勢を使い防衛ラインのV字中に敵を追い込む仕事を頼んだ。


だが、今までの様に準備に時間が掛ける事が出来なかったので、捕虜を取る為の罠等は配置出来なかったので、俺は、心を鬼にして、


「捕虜などは考えるな、敵に慈悲など要らぬ、全てを切り裂き、噛み千切り、喰らい尽くせ!!」


と指示を出すと、姿は見えないが、


「ギチギチギチ…」


と森のあちらこちらから顎を打ち鳴らす様な音が聞こえ、


将軍ムカデ、タンバの


「出陣!」


の掛け声と共に、戦争という名前の追い込み猟が始まった。



程なく森の奥から戦闘の始まった音が聞こえる…


怒号に爆発音に悲鳴…

ありとあらゆる音がユックリと近づき、防衛ラインのV字の中に追い込まれて、集められはじめる…

300年小競り合いか、無策で突っ込むスタンピードぐらいしか相手にしていなかったであろう敵兵は、統率のとれた虫の大群に側面や背後を取られ、じわじわと数を減らしながら中心へと進むしかなくなり、俺のいる第一次防衛ラインに到達した時に、先頭の集団の中に仮装パーティーの様な馬鹿を見つけた…


馬鹿は、拡声魔法を使い、


「我こそは、リチャード・サカシタ・ヨーグモス六世なりっ!

今代の勇者よ目を覚ませ!

我も先代勇者の血を引く者…そなたに直接危害を…」


と無意味な演説を長々と喋っている。


至宝を全て身に纏った馬鹿の口上など聞く耳も持たずに、俺は、


アベル騎士団長に「イケ!」と、指示を出すと、ワイバーン騎士団とアゼルとメリザが飛び立ち、集められた敵陣営に石のゲリラ豪雨が降り始める…


『本当に敵の総大将が馬鹿で助かった。』


至宝を部下に分けて装備させて居れば個別の対処が必要に成るが…馬鹿が欲張ったお陰で、辺りの配下が死ぬ度に、道連れのマントが自動でダメージを馬鹿に加え、魅惑の鎧は、ほぼ男性のワイバーン騎士団の石の雨の威力を軽減出来ず、カスリ判定の攻撃にも過剰に反応し、辺り構わずに魔神の斧を振り回して勝手に命をすり減らしている…


頭が悪すぎる…

相手はどうせ弱体化した魔王軍と、小領の領主と侮り、一国の力でゴリ押しをすれば勝てると踏んでいたのだろうが…

同時に複数の場所を攻めるアイデアや、至宝をおさえるまでは良かったが、詰めが甘すぎる…と、呆れてしまう俺だったが、攻撃の手を緩める事はなかった。


そして、降り続く石の雨が弱まり、土煙がおさまると、数を減らしたとはいえ、二千人以上居た敵は、岩山に押し潰されて、壊滅的な状態だった。


『何かやり過ぎたかな…』


と、少し罪悪感を覚えたが、直ぐにそんな気持ちは何処かに飛んで行った…


至宝を身に纏った馬鹿が、サーベルを地面に突き立て、片ひざを着いた状態で耐えていたのだ。


そして、


「ファーハッハッハ!」


と、高笑いをすると、徐々にボロボロの馬鹿の肉体が回復していき、そして、先ほどとは違う声色で、


「良くやったぞ、魔王軍よ…

我はサタン…魔王サタンなるぞ!

この者の魂を喰らい、辺りの魂も食らったが、復活にはまだ足らぬ…二万の命を差し出せ!!」


と騒いでいるので、アリスに


「固めろ!」


と指示を出すと、城蟻達は自称サタンに泥をペッと飛ばして接着と硬化のスキルで顔以外を全て泥パックで固めた。


泥は岩の強度に変わり、自称サタンを封じ込めた。


「何をする無礼者!」


と騒ぐので、「五月蝿い!」と、俺はグーパンをお見舞いしてやるが、


「フッハッハッ!

いくら攻撃を受けようとも痛くも痒くも無いわ!」


とドヤる自称サタン…

魂を食われた(元勇者サカシタさんの子孫)は、ただの器で操られているのかもしれない…と考えた俺は、ぐるりと辺りを見回すが、本体らしき魔王は見当たらない…などと言ってみたかっただけで、本体の心当たりがある俺は、


『やれやれ…サーベルが本体だな…』


と、思いついき、腰の雷鳴剣を抜き、自称サタンに近付くと、自称サタンは、


「コイツの体をいくら傷つけても、我は倒せぬぞ…」


と余裕だが、サンダーの魔法をを雷鳴剣に纏わせ、


そっと地面に刺さったままで半分泥パックされているサタンサーベルに雷鳴剣をゆっくり近づけると、


「おい、何をしている?!

止めぬか!わゎ、ちょっと!」


と慌てだす…自称サタン…


『コイツわかりやすっ…』


読んでいただき有り難うございます。

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