第67話 炙り出される悪意
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何か有るかと警戒しながら待つこと2ヶ月経つが…特に何も無い…
そして皇帝陛下からの定期報告も「進展なし」の報告しか来ない事で更に不安になる俺達だが、どこの誰の仕業かも解らない限りは、周囲を警戒する程度しか出来ない…
可能性は薄いけど、ただの物取りの可能性も捨てきれないのだが、魔族の秘宝ばかりが、金銀財宝が犇めく宝物庫から盗まれたという事実が、何かしらの意図を感じる。
帝都の貴族達は、魔族の残党の犯行を心配して、折角雪解けムードになりつつあった魔族への厳しい拒否反応が再び再燃してしまっている…
ストレスな事ばかりが増える中で、とんでもない報告が商会のヨルド支店長ヘンリーさんから入ってきた。
ヘンリーさんは商品の売り込みの為に馬移動が多く、テイマースキルを買っていたのは知っていたが、俺たちの従魔召喚でメモを届けた話を聞いて、
拠点の牧場の責任者であるライラさんとヘンリーさんで従魔召喚を取得して、お互いの手紙入れを装備した従魔を交換して緊急連絡手段にしていたらしい…
確かにヘンリーさんが個人で1羽だけ卵鳥を飼っていたのが不思議だったが、謎が解けた…あれはライラさんのテイムした卵鳥だったんだね…
普段ヘンリーさんは文通のような、『暖かく成りました。』とか『花が咲きました。』みたいな文に和まされていたらしい…
おっ、なんだい?ヘンリー支店長はライラさんとそんな仲なのかい?…それは何とかしないとなぁ…と俺がヘンリーさんとライラさんの今後を勝手に妄想していると、ヘンリーさんが、
「今朝の報告で、早朝オーガ村が襲撃されたらしいのです。」
と言われ、驚いた俺は、
急いでアベル騎士団長とドドさんとルルさんを連れて転移して拠点に戻ることにした。
ドテチンが「行きたい!」と騒いだが、転移スキルの人数のこともあり、なんとか留守番をお願いして文字通り飛んで拠点に戻ったのだが、
拠点では皆が普通にいつもの作業をしている…
「えっ、襲撃者は?」
と俺が思わず聞いたのだが、ノーラさんがパタパタと最近お気に入りのマサヒロの娘とドッキングしたまま、ハニーとマリーを引き連れて飛んできて、
「ポルタ君、賊はもう無いよ…」
と、いう…(いない)とか(帰った)とかではなく(無い)?…と、思っていたら、マリー達はお腹を擦っている…
どうやら、賊を捕らえたのでは無くて、食べちゃったみたいだ…怖いよ…
ノーラさんの話では明け方にセミ千代の緊急警報で起きて、虫達に誘導されてオーガの里に向かうと、約300の鎧を身に纏った一団とその従魔らしい魔物500程が山を駆け上がり、押し寄せてきたらしいが…
非番のミヤ子とその子供達が…って、ミヤ子も家庭を持ったんだね…と驚く俺だが、
それよりも、千近い敵をミヤ子ファミリーが一撃で半壊させて、残りは防衛隊長のカブ太の号令のもと、5000を超える虫の軍勢が…
「って、非正規従の虫達も増えてない?…」
と、要らないところが気になり話が入って来ない俺だが、
要するに、雑魚は虫達が蹂躙し、敵将はパーフェクトノーラさんが右手にドッキングしたマリースティンガーパンチで沈めたらしい…
「全く…ノーラ母さんまで何してるの!!」
と呆れてしまうが、一緒に戦ったフルアーマー・クマ五郎は、
『まさに蝶のように舞って、蜂のように刺す見事な戦いぶりだったんだなぁ』
と、ノーラさんを誉めているが…本当に蝶が舞って蜂が刺したのだよ、クマ五郎…
まぁ、無事だから良かったけど…
俺は、ノーラ母さんに、
「ノーラさん危ない事は控えて下さいね…」
と、心の底からのお願いをしたのだが、当のノーラ母さんには
「はい、はい了解…今度からは遠距離攻撃にするね。」
と、笑顔で言われた。
いや、そういう意味でなくて…と思うと同時に、ウチの装備系従魔にマリーも入っていたとは…ノーラさんの発想力って…と、少し感心した俺だった。
数千いるマリーの娘をカートリッジの様に交換すれば、致死毒パンチが数千発繰り出せる事になる…
あまりの殺傷力に、『ノーラさん、恐ろしい子…』と、白目で驚きそうになる。
しかし、結局、現在残っているのが、マリーの強力な致死毒で虫達も食べない敵将と、中身が溶けてお肉だけ無くなった魔物と人の皮と骨…あとは装備品の数々…
そして、嫌な事に鎧には同じ家紋が入っていたのだ…
「お貴族様の騎士団じゃねぇーか!!」
と、この証拠だけで、もう色々理解してしまった俺は、体の穴という穴から血を吹き出してはいるが、敵将は帝都の会議で見たことのある…魔族嫌いの派閥の国の国王と一緒にいたヤツだと思い出し、
『魔族嫌いだからって、静かに暮らしているオーガを襲うかね?…気がしれないよ。』
と、怒っていると、アベル団長が、
「ポルタ様、コイツはフェルド隣の勇者の末裔の国、ヨーグモスの男爵だぜ。」
と教えてくれた…
他の国に乗り込んでの軍事行動だから皇帝陛下にチクれば良いんだろうけど…
あの反魔族の派閥って(勇者の末裔)かよ…ややこしい…と俺は頭が痛くなりガックリしていると、するとまた、アベル団長が
「あぁぁぁぁぁ!」
と騒ぐ。
「今度はなに?」
とうんざりしながら俺が聞くと、アベル団長は、
「魔王国の至宝ですよ!この槍!!」
と叫ぶ、
「本当に?」と念をおす俺に、アベル団長は、
「自分が、運んだオルトロスの槍っていう、なんでも狼系の魔物を使役する槍ですぜ!」
と…
確かに魔物が500程居たらしいが…だとしたら最低だな…よりにもよって、お隣の反魔族派閥の国が丸ごと(敵)で(賊)の様だ…とりあえず、アルトワ国王に自国内で戦闘が有った事と、皇帝陛下にキッチリとケジメをつけるように報告して…
アンリ達には拠点の、アリス達には魔王国の更なる防御をお願いしようと決めた。
多分、奴らは魔族がターゲットだし、魔族と友好的な勢力も危ないだろうから、方々に連絡を回そうと、帝都に向い、物的証拠のオルトロスの槍と鎧に死体を皇帝陛下に提出して報告をすると、皇帝陛下は真っ赤な顔になり、近衛騎士団に向かい、
「ヒューズ達(影)を一人残らず捕縛せよ!
手向かうならば斬り殺しても構わん。
ヨーグモスに使者を出して、申し開き有らば聞くが、事と次第によっては極刑も覚悟せよと伝えよ!!
出撃の用意も整えておけ!」
と、怒りをあらわにしている。
そして、皇帝陛下はガックリと項垂れ、
「信頼していた(影)はもともとヨーグモス王国の勇者パーティーの忍マスター〈タナベ〉の末裔…
ヨーグモス王の〈サカシタ〉からの借り物の諜報部員だったのだ…まさか、賊の一味に犯人を探させていたとは…恥ずかしい…
何の手がかりも見つからないはずだな…」
と、寂しそうに呟く…
あぁー、実行犯かも知れないやつに犯人探させてたんだね…そりゃ手がかりも出て来ないよね…
と納得した俺だったが、
皇帝の命を受けて、宮殿がにわかにバタバタと騒がしくなる中で、近衛騎士団から、
「影の、メンバーは一人残らずに姿を消しております。
資料なども一つ残らずアジトから消えており、昨日から今朝の間にはもう居なかったと考えられます。」
と報告が入る…
えっ?待てよオーガ村襲撃も魔族排斥の一環ならば、狙いはシシリーさんか!?
魔の森の魔族達が危ない!!と理解した俺は、
「皇帝陛下、魔の森と婚約者が狙われているので帰ります!」
と告げると、皇帝陛下は、
「もしもの時は容赦するな!
余が許す!だから思いっきり殺ってしまえ。」
と言った後に皇帝陛下は、
「出兵だ!ヨーグモスを取り囲め!!」
との皇帝陛下の声を聞きながら俺はヨルドへと転移した。
そして、到着したヨルドの街は、既に防御体制に入っていた。
街の入り口は固く閉ざされ門の上には見張りが立っている…宝物庫荒らしからこちら、警戒していたとはいえ、こんな物々しいのは異常である。
俺は焦る気持ちを抑えつつ、マサヒロを呼び出し空から街に入ると、既に戦闘の後が見受けられた。
建物が燃えたのか、あちこちで煙が幾つか立ち上っている襲われたてホヤホヤと思われるヨルドの街を眺めながら、
『俺が帝都に向かったのを狙ったのか…?』
と、唖然としている俺に向かい騎士団員が大声で、
「ポルタ様が帝都に向かわれる前に、警戒の指示を出して居られたので、タンバ将軍の闇一族の警戒網にかかり、すこし、自爆魔法で建物に多少被害はでましたが、人に被害出ること無く制圧する事が出来ました。
一名捕らえて有りますので、どうぞこちらへ」
と報告されて、騎士団員の元に舞い降りると、街の牢に案内された。
牢には手足を縛られた忍装束の男性がおり、俺を見つけるなり、
「どうやって、我々タナベ衆の潜入を見抜いた?」
と質問された…
(タナベ)って絶対日本人の末裔だよな…
もしかして、皇帝陛下が探せと言っていたヒューズさんとやらかな?と考えた俺が、
「もしかして、ヒューズさんか?」
と聞くと、忍装束の男は顔色ひとつ変えずに、
「まぁねぇ。」
とだけ答えたが…依然として殺気を放ち俺を睨み付けながら、
「我ら影の一族は、幼い頃より潜入の訓練を受けている…なぜ…それなのになぜ、これ程までにアッサリと…
ターゲットのあの魔族女に接触する前に…」
と言っているが…俺は、怒りを押し殺しながら、
「お前らのターゲットはシシリーさんかな?」
と優しく聞くと、忍野郎は、
「あの、女さえ死ねば、魔族は弱体化する!
我らの使命はあの女を殺して、本国の進軍をしやすくする事!
まぁ、最悪弱体化しなくても、我軍の連中は今ごろ死に絶えた魔族の死体を引きずり、先祖より伝え聞く方法にて、魔の森の結界を破り魔族の国に…」
と、余裕の表情で何やら話ているのだが、(死に絶えた魔族を…)と言っているのだが、オーガ村の事か?…いや、失敗したことなど、コイツらの情報網ならば分かるだろうし、魔の森の魔王国が荒らされたので有れば、既に何かしらの報告が入るはず…と考えた俺の頭に、旧魔王国反乱軍の魔族達の顔が過る…
「捕虜になっていた魔族の兵士は鉱山奴隷として数年過ごせば釈放の者も居るだろう…それをまさか!死に絶えたとは…」
と俺が問いただすと、忍野郎は、笑いながら
「既に始末したに決まっているだろう」
と言った瞬間、自力で腕の縄を斬り、何かを口に当てた途端に、フッっと筒の様なものから針を飛ばし、俺の腕を射ぬく…
忍野郎は高笑いをしながら、
「告死蝶の即死毒の粉末の塗ってある吹き矢だ!
あの女は無理だったが、魔族の女を嫁にしようとしている今代の勇者を殺してやったぞ!!
勇者の名前を汚そうとした罰だぁぁぁ!!」
と喜んでいるが…もう許さない…俺は針を抜きながら、
「痛ってぇなぁ~、クソ忍者!
伊賀か、甲賀か、風魔か知らないが、てめぇらのご先祖の忍マスターとやらは偽物の忍者だな…」
と言いながら、ぶん殴ってやった。
忍者野郎は、牢の壁に叩きつけられながらも、真っ赤になって怒り「なぜ、効かない即死毒だぞ!」と騒ぐが、俺は続けて、
「本当の忍は、忍で有ることを家族にも言わない…
忍続けて死ぬのが本物の一流の忍だよ。
お前らのご自慢のご先祖は忍に憧れただけの頭のイタイ(中二病)だよ。」
と、(中二病)など知らないであろうこの世界の忍野郎に思わず言ったが、忍野郎は、俺を睨み付け、
「なぜ、なぜその言葉を…我が先祖が死ぬまで患ったと言われる不治の病の名を…」
と驚いているが…もう、話すのも腹が立つ俺は、床に向かい
「もういい、食ってやれ。」
とだけ冷たく告げて、騎士団を連れて牢を出た。
「何のことだ!…おい!!」
と騒ぐ声を聞きなが扉を閉めると、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
とアイツの叫び声が聞こえた。
そして、暫くして静に成ったのを見計らい、
「しゅーりょー!」
と俺が叫び、少し間をおいて、騎士団を連れて再び牢屋に降りると、身体中に噛られた跡のある丸裸の男が泡を吹いて白目を剥いていた…
影の一族さんよぉ、ウチの闇の一族の甘噛みで叫び声上げて失神してちゃマダマダだよ…と、俺は哀れな姿の男を見ながら
「牢番の兵士に、下の皆に、監視と拷問のお手伝い賃のご飯を宜しく、あと、コイツは…スッポンポンのままで拘束し直しておいてね。」
と伝えてから、
「あのアホが暴れたらまた、下の闇の一族の皆に頼んだら良いから…
あと、騎士団は出陣の準備と、シシリーとルルさんには護衛を付けて!
準備が出来次第、魔の森の防衛に向かう!」
と俺は指示をだした。
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