第66話 やっと出来たプロポーズ
どうしよう?と悩むしか出来ない俺…何故ならば、先日からアゼルとメリザがヨルドに引っ越して来たのだ…
これはいよいよクレストの街から正式な抗議が来るかもしれない…ゴメンよダサマントおじちゃん…と南の空に謝ってみる。
そして近づく婚礼会議…
折角男を見せななきゃ!と各地を巡り、希少金属や、今はサファリエリアの人気者のカーバンクルの仲間を森で狩って、ダイヤモンドもゲットし、細工食肉のベルト爺さんの匠の技で婚約指輪にしてもらったのに…
俺の予定では、シシリーさんに正式なプロポーズの後、数ヶ月のイチャイチャ期をはさみゴールインをする予定だった。
その為にあの可愛いカーバンクルも心を鬼にして狩ったのに…
サファリパークやファミリー牧場も、デートコースとして頑張ったのに…
なぜ、現在4対1の構図で結婚を迫られているんだ!?…俺…
しかも、半数は妹的な…いや…妹ですね…がっつり妹…。
『どうしたら良いのよ!』
俺は、案外古風なのに…
いや、大昔は近親婚って有ったらしいし…って、落ち着け俺!
『これは、個別に呼び出して、話し合いで解決しよう!!』
という意見で、俺の脳内会議が閉会した。
4対1では分が悪い…
まずは婚約者のシシリーさんから、おデートに誘い出す事にした。
シシリーさんとは帝都で何度かお忍びデートをしたのだが、大概甘いモノを食べるというデートに落ち着く。
魔王国の孤児院出身のシシリーさんは、甘いモノなど殆ど食べる機会が無かったらしい…
俺を気に入ってくれた理由であるシシリーさん御先祖の蝿の王の遺伝子と俺の虫の王のスキルが呼応しただけでは?という点には、少々不安が残るが、それを抜きにしても俺とシシリーさんが気が合うのは、同じ孤児だった事も有るだろう…
そんな彼女であるが、覚醒して魔王になった後も極寒の地で殆ど外との貿易なども無かったので、甘いモノなど夢の食べ物だったと言っていた。
シシリーさんが、
「甘いお菓子と暖かい家族は、魔王に即位しても手に入らないと諦めていたの…
しかし、あの謁見の間でポルタを見て、この人と暖かい家庭を作りたい!と思ったの…」
と言ってくれた事が有った。
その言葉で、俺も、
よし、シシリーさんと暖かい家庭を作って、甘々のお菓子に負けない、シロップ漬けみたいな未来を…と思っていたのだが、
シロップの海に船出する前に何故か俺の船は大船団に成りそうな勢いです…
シシリーさんとのデートは今回もヨルドのカフェでのデートにして、俺はパンケーキ越しに、彼女に向かって、
「シシリーさん、これを受け取って下さい…」
と指輪を渡した。
何て所でプロポーズしているんだ!?と思うだろうが、シシリーさんにとっては、甘味が食べれる場所は(夢の国)とイコールであり、一番好きなパンケーキは、例の(ネズミーマウス)とイコールなのだ…
つまり、俺は、あのシンデレラの城をバックにプロポーズしているのと同じ!!…と思いたい…
仕方がないのだ…シシリーさんはデートとは甘味!と、インプットしてしまい、夜景を見下ろしてプロポーズするにはヨルドの町は、人口的に少なく薄暗過ぎる…せめて何処かの王都ぐらいは人がいなければ夜景を…とはならない…
なので、無い知恵を捻りだした結果が、コレなのだ…
しかし、このプロポーズをシシリーさんは、涙を流して喜んでくれた。
まぁ、彼女の頬っぺたに生クリームをつけたままだが…
シシリーさんの隣に回り込み、頬に手をあてて
そっと生クリームを親指で拭うと、シシリーさんはそっと目をとじる…
『えぇ?チュウをしろと…生クリームを拭いただけだよ…プロポーズで既に注目を集めていますよシシリーさぁ~ん…』
と、焦り散らかす俺だが、何故だろう…周りの目が、
『くっちびる、アッソレ、くっちびるぅ!』
と囃し立てている…
シシリーさんも待っているので、俺は腹をくくり、カフェのお客さんも店員さんも、ワクワクして見つめる中で、シシリーさんにキスをすると、
ドッと店の中に歓声がこだまする。
「キャー素敵!」とか
「お幸せに!」とか
「ご領主様万歳!」とか…恥ずかしいすぎる…
あと、「ケッ、爆発しろ…」と呟いた右奥の男性店員…貴様はアウトだ…今晩カサカサ祭りの出張サービスをプレゼントだ。
安心しろ十ぴき程度の小さな祭りで勘弁してやる…
それからは、シシリーさんと込み入った話がしたいので屋敷に戻り、静かな場所で、俺の秘密や結婚感などを話した。
シシリーさんは、ある一定の理解を示してくれたが、やはり、嫁希望連合と家族になるのが夢らしく、
「私の夢を叶えてくれないの?」
と言われてしまった…
『グハッ…詰んだ…言い返せない…』
と観念した俺だが、しかし、シシリーさんとちゃんと夫婦したいからとお願いして、暫くの執行猶予が与えられ、大船団での出航は回避されたが、立ち寄った島で徐々に船団か増えるのは目に見えてしまっている。
そして、予想外だったのが、俺がプロポーズしたカフェが、恋人達の聖地になり、真似てプロポーズする者が後を絶たないらしく、現在ヨルドの街は結婚フィーバーに入っている。
せめて、沢山人口を増やしてくれたら、静な屋敷のベランダでプロポーズが出来るかもしれないので、頑張って…新婚さん達よ…と、ウチのバルコニーから見える街の光りを眺めている俺だった。
街は順調に成長し、俺の人生も順風満帆…半年後の結婚式に向けての準備を進めている。
非正規従魔の芋虫さん達の努力の結晶であるヨルドシルクでドレスを作り、パーティー用のお肉はアイテムボックスに装備用に狩ったドラゴンのお肉が入っているし、あとは、挨拶回りぐらいになった。
あぁ、俺も結婚か…と、しみじみと思う。
そして俺の周辺でも色々な変化があった…まず、ドテが進化して喋れる様になった。
多分シシリーさんの魔王スキルに眷属認定されたら自動に発動する魔族や魔物の中の異世界からの遺伝子を活性化するバフみたいなヤツであろう。
見た目も優しい青年風になっていて、
ある日の朝、いきなり見たこと無い青年に、
「兄貴、おはよう!」
と、食堂で言われた時には驚いたのだ。
『誰?』と驚く俺に青年は、
「いつもの朝の挨拶しただけなのに、おかしな兄貴だな。」
と笑って去って行ったが…
『兄貴?』って俺を呼ぶ人物は…と首を捻って記憶をたどりながら、暫く考えた俺は、『えっ、ドテチン?!』となり、改めて腰を抜かした。
…まさか、毎朝俺に会いに来て、
「うがう!」
と、言ってから生き物の世話に向かうのが、『兄貴、おはよう』だとは思わなかった…
そして、一旦落ち着く為に、俺が朝のお茶を飲んでいると、バタバタとドテが食堂に帰ってきて、
「兄貴、オイラしゃべってる?!」
と、今頃気がついたようだ…
彼は、職場のワイバーン牧場に行って、「おはよう」と挨拶をしたら、同僚に、
「ドテか?」
と質問されて、
「そうだけど?」
と答えてから暫く会話をしてはじめて、
『里のオーガ以外と喋ってる!』
と気付いて慌てて確認の為に戻ってきたらしい…
かなりの天然だったらしい…
「何か朝から、服がブカブカするから、痩せちまったかな?って思ってたけど…」
と言っているが、(痩せた)ぐらいの変わり様では無い…今のドテは以前のドテチンとは別人だ…
そして、ミヤ子の見た目がステンドグラスの様な七色の羽根の妖精風の姿にかわり、話せる様になっていたのだ…
俺は驚きながらも心配になり、俺の従魔を一通り呼び出したが、大きな変化はミヤ子だけだった…
しかし、全員が、何かしらの小さな変化を感じており、
ガタ郎も、
『顎の威力が前よりも上がったでやんす。』
と言っていた…
詳しい事はあえて触れないが、これも深い絆で俺と繋がったシリーさん…いや、シシリーの魔王スキルの恩恵が俺の配下にまで伝わったからであろう。
ミヤ子のみ大きな変化が有ったのは、単騎でドラゴンを狩った事が有るのがミヤ子だけだ…
多分従魔の中でも一番高レベルだと思うので、レベルの問題で、進化ではなくて、超進化したみたいだ。
高レベルだと、スキル等も最大レベルまで育ったりするので、色々な変化が出るのだろうと納得したのだが、
そういえば、俺のレベルってどのくらいだ?と思い、結婚式の打ち合わせで教会を訪れた際に、ついでにスキル鑑定もしてもらうと、俺のレベルは112に上がって、
インセクトテイマーとアイテムボックスはスキルレベルマックスに成っていた。
アイテムボックスの無限収納は嬉しいのだが、正直、Aランク冒険者並みのレベルに到達したが、もう、冒険者として働く事はなく…冒険者のランクもお飾りとなってしまったのが悲しい…
Aランク冒険者はドラゴンテイマーや達人級の武芸者もいて、上級ダンジョンの下層目指し、アタックをしては、何年もかかりエリクサーや聖剣等を持ちかえっているそうだ…
あちらの方々は領主になってみたいかも知れないが、俺は、一度で良いから、Aランク冒険者を目指して、上級ダンジョンに潜っておけば良かったと少し…ほんの少し悔やんでいる。
無い物ねだりだとは理解している…
しかし、子供が出来て、俺の全て譲ったあとの楽しみにとっておくのも良いかも知れないが、
前世の知識からも、チャレンジは後になればなる程、手元の安心や幸せを守る為に欲がでて踏み出せなくなるものだ…とも理解している…
「もう、冒険者には戻れないのかな?…」
と、呟きながら、幸せな期間なのに、少し寂しく…って、あら、いやだ…マリッジブルーってヤツ?
本当に有るんだ…都市伝説だと思ってた…
などと、新しい発見に驚く毎日だが、もっと驚く知らせが舞い込む事となる…
それは、ある日、帝都から転移を使い、伝令職員さんがヨルドに訪れ、
「大至急シシリー魔王陛下同伴で宮殿に来られたし!」
との連絡を受けたのだ。
もう、この時点で悪い予感しかしない…
シシリーさんとアベル騎士団長とサントス文官長を連れて転移した帝都は、少し物々しい雰囲気で、宮殿内もピリピリしていた。
そして、皇帝陛下に謁見するのだが、部屋に入るとすぐに皇帝陛下が深々と頭を下げ、
「すまぬ…余の失態だ…宝物庫に賊が侵入し…魔王国より預かっていた至宝の数々を奪われてしまった…本当にすまない…」
と詫びる皇帝陛下だが、魔王国の物ばかりを盗むとは…何ともキナ臭く感じる。
皇帝陛下は、
「余の影達を放って行方を探させている…暫くすれば何か手がかりを掴むやも知れないが…
とりあえず奪われた至宝のリストだ。」
と差し出された資料には、効果は分からないが、
〈魔神の斧〉だの
〈幻惑の鎧〉だの
〈サタンサーベル〉だの
と、呪われそうな装備の名前が並ぶ…
ん、だよ!?サタンサーベルって…盗賊はあれか?
黒いバッタのバイク乗りのライバルの、シャドウなムーンさんか?と資料を見ながら心の中でツッコんでみたが、
…何だろう、凄く嫌な流れだ…
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