第61話 思いもよらない知らせ
御披露目パーティーで、あの後スイーツをごっそり並べたら、皇帝陛下の奥様方に滅茶苦茶叱られた…
「こんなに食べた後で、そんなの出して来るのは反則です!
食べたいのに食べられないじゃないの!!」
と…
『知らんがな…』
と、思わなくもないが、奥様方の仰ることを聞かない訳にもいかないので、結局、我が家主宰、街の完成御披露目パーティーは、二日目に突入し、朝から女性陣主体のスイーツバイキング状態で、一種類ずつキャッキャと談笑しながら召し上がっている。
我が家はアイテムボックス持ちが多いので、何時でもフレッシュな状態で提供出来るとはいえ、昨夜に続き朝からケーキに、クレープ、ドーナッツと…見ているだけで胃がキュンキュンする。
男性陣は居酒屋みたいな状態で朝から飲んでいる…
キンキンに冷えたエールを片手に、焼いたロウから買って来た焼き鳥や、揚げたロウのコロッケやメンチカツで朝からご機嫌だ。
皇帝陛下が、
「ところで、ヨルド子爵殿?」
という…改まっていうので、もう、裏があるとしか思わない俺は、
「何ですか陛下…気持ち悪い…ポルタで良いですよ。」
と少し警戒しながら答えると、皇帝陛下が、
「では、ポルタよ…余は驚いておるのだ…旨い料理も知らない酒よりも…そなたのあの事を知っているが、そんな事と関係なく、そなたが関わると全てが良い方向に向かう気がする…娘の事もそうだが、魔族との関係が、ここ数年で一変した…
三百年前の遺恨や三百年間の苦悩が全く無くなった訳では無いが、そんな事など、気にならない程の衝撃と、だれかれ構わずに等しく笑顔にする話題性が、そなたにはある…
まぁ、時には酷い目に合うが…
しかし、余は、そなたにも幸せになって欲しいと考えておるのだ…」
とベロベロに酔っぱらった皇帝陛下がいう。
『なんだよ、酔っぱらいの戯言かよ。』
と安心する俺だったが、隣のカーベイル国王様まで、
「アルフよ、その通りだ!
お主はポルタに迷惑ばかりかけておる!
せめて、ポルタとシシリー嬢の為に、ひと肌脱ぐべきだ!」
と、よく分からない事を言い出している。
あぁ~あ、これだから酔っぱらいは…と、呆れながら俺が、
「はいはい、皇帝陛下も国王陛下も、飲み過ぎですよ…
シシリーさんとは魔王城が完成したらお隣同士になりますから、ゆっくりとデートでもして仲良くなりますからお構い無く…」
とはぐらかすと、カーベイル様に、
「ポルタよ、帝国と魔王国の平和の為にも全力で魔王城の建設を手伝うのだ!
予算も付けるし…頼む!!」
と懇願され、皇帝陛下には、
「魔王城の完成に尽力し、魔王国との友好のために働いた功績をもって、伯爵にしても良い!
魔王陛下との格が気になるのなら、自由の利く辺境伯に陞爵させても良いと思っておる…
魔王陛下は良い娘だ…幸せに成って欲しいのだ!
そもそも、そなたはもうすぐ19だろう?
余は19の歳には、妃をベッドに並べて…」
と、酔っぱらいがトンデモない話しを始めたので、
俺は、
「陛下!皇帝陛下!
お酒が過ぎてますので、ねっ、
一旦お水でも飲みますか?」
というと、皇帝陛下が、
「えぇーい!ポルタよ、余は酔っぱらってなどおらん!!」
と騒いでいる。
困り果てた俺が耳元で、
「皇帝陛下、カサカサします?」
と囁くと、
陛下は、真っ青な顔でガタッと立ち上がり、
「いささか飲み過ぎたかもしれん…
余は、トイレに行くぞ!
イルも…ソコの騎士団もついて参れ!」
と、お供をゾロゾロ連れてトイレへ向かった…
あれは、顔でも洗って酔いを覚ます気だな。
と、思いながら俺は皇帝陛下達の後ろ姿を見送った。
酔っぱらいの相手も疲れたので、スイーツバイキング会場へと移動すると、お腹の膨れたご婦人方が、恋バナに花を咲かせていて、結局奥方様達にもシシリーさんの件を「何とかするのです」と、言われた。
当のシシリーさんは何故かメイド姿のルルと仲良しになっており、俺の話題で盛り上がっている…
うーん、嫁取り問題かぁ~…
前世から考えてもトンと女性とは縁の無い生活を続けて居たからなぁ…
魔王城建設現場にアリス一家をフル投入してお引っ越しを早める様にするかな…?
そしたら、シシリーさんも、お隣になるからデートも誘いやすいし…
正直、俺がシシリーさんに緊張しなくなる為にも回数が必要だ…
うん、自分なりに頑張りますので、奥様方…グイグイ話しを進めようとしないで下さい…頼みますので…と、心の中で祈りつつ、ソッと女性陣の話の輪から抜け出すのに隠密スキルをフル動員させる俺だった。
そして、予定より長く成ったヨルドの街完成披露パーティーも無事に終わり、皆さんが領地にお戻りになられた。
最後まで残ったシシリーさんとルキフグスさんに、
「城蟻のアリスの一家を全員、魔王城の築城と住民の住宅の建設に魔王国に、お貸しします。」
と告げると宰相さまは
「有難い、来年の冬には魔王国民全員、魔の森で過ごせる様になりそうですな…」
と喜び、シシリーさんは、
「ようやくポルタのもとに行けるのだな…嬉しい!!」
と抱きついてきた。
ルキフグス宰相様は、
「元々シシリー様は普通の少女…魔王の力に目覚めた為に魔王に即位されたが、我々の長年の夢を叶える偉業を成し遂げたあかつきには、好きな男性のもとに嫁ぎ、幸せに成って頂きたい…
それがポルタ様なら、これ以上ない話しなのですが…
いやはや、私も飲み過ぎたようですな…魔王陛下、魔王国に戻るのは明日以降にして、一旦魔の森の屋敷に帰って休みましょう。」
と笑いながら帰っていった。
シシリーさんは帰ると言われて、泣きながら渋々だったのが、涙を流す彼女を見て少し心がチクリとした…
そんなパーティーも終わり、街の皆に労いの言葉をかけて回る。
宿屋チームや店屋チームに食堂チーム…
最後に冒険者ギルドに行くと、ギルド酒場で、『あれ…クレストの街かな?』みたいな光景が広がる…
夢の狩人に鋼の肉体それに暁の魔導書のメンバー達が酒盛りをしていたのだ。
そして、俺を見つけるなり、
「ポルタぁ、遊びに来たのに皇帝陛下が来てるっていうから外にも怖くて出られないから、飲むしか無くなったぞ!」
と夢の狩人のメンバーに絡まれた。
いつも通りの感じに少し嬉しくなるよ…と思うと同時に、『いや、陛下が居なくてもこの時期はいつも飲んで過ごしてるでしょうに…』と思う俺がいた。
鋼の肉体のリーダーにも、
「おめぇたちは、そんなの関係無しに酒場から一歩も出ないだろ?!」
と、言われると、
「ちげぇねぇ!」とガハハと笑う冒険者の先輩達に、俺は、
「先輩方に不自由な思いをさせた分、一杯奢らせて下さい。」
と言って、一緒に回ってる文官さんに頼み、先輩方に、
(ヨルド無しでは生きられないセット)として、ウチの酒の飲み比べセットと、揚げ物や焼き鳥などにチーズ類を並べたオードブルセットを提供した。
冒険者の先輩方は、
「よっ、ポルタ!
流石は、冒険者の心が解るご領主様は違うぜ!!」
と喜んでくれた。
そんな感じで、挨拶回りも済んで、ようやく一息ついたのは昼過ぎだった。
ホッとしたのと気疲れしたのとで、その日は休みにして部屋で寝て過ごした…
そして次の日、騎士団とアリス達を連れて魔王城建設現場に出向き、街の建物の着工などを見届け、ルキフグス宰相様に挨拶をしてからヨルドの街にもどる。
これで魔の森の街が1日でも早く完成すれば、当初の工事予定が全て終わる…と、長い期間かかった大工事の目処がたった事にホッと肩の荷が降りた感じがしたのだった。
それから数ヶ月が過ぎた夏の終わりに、魔の森の住民の受け入れ整備が完了し、魔王国の人々の意見を纏めるべく、ルキフグス宰相様が一旦北の大地を目指して旅立った…
このペースで行けば秋の終わりには引っ越しが完了し、新な魔王国での生活をスタート出来るであろう…
そして、それから2ヶ月程経ち、引っ越してくる魔族の長い列が新生魔王国に到着し始める。
必要な手荷物のみで長旅を終えた人々が、割り振られた我が家に入り、護衛の魔族達は再び魔王城に戻り、最後まで残る事を決めたシシリーさんとメイド達の引っ越しや城の大切な宝物等の輸送の為に、再び北に向かい出発した…
魔族の皆さんが、新しい生活に慣れ始めた年の瀬…
予定では、もう到着している予定のシシリー魔王陛下が待てど暮らせど到着しない…
はじめの内は、ルキフグス宰相様も、
「今年は冬が早かった様なので、時間がかかっているのでしょう。」
と、言っていたが、
半月経ち、一月経ち…年を越した時にようやく、
「これはおかしい?!」
となり、定期的に旧魔王国に野菜を運んでいた定期便と共に宰相様と数名の魔族が魔の森から北を目指して旅立つ事になり
「雪に閉ざされて身動きがとれないのでしょう…
な~に、春には皆で帰ってきます。
戻ったらシシリー様の婚礼の準備をしなけれはなりませんな…
ポルタ殿とまた旨い酒が飲める様に急いで戻りますゆえ、しばしお待ちくだされ。」
と笑いながら手を振る宰相様を俺達は見送った。
少し嫌な予感がするが、仲良しと言えど他国…
俺が勝手に介入する訳にはいかない…
しかし、ヤキモキしながら待っていた冬の終わりに事態は動く…それは傷だらけで痩せこけたケンタウルスのタリウスさんが魔の森に到着し、
「クーデターあり…」
とだけ告げて気を失ったらしい…
俺のもとにも一報が入り、翌日、魔の森へと向かい、
目覚めた傷だらけのタリウスさんから詳しい話しを聞くと、北の街から他の派閥を追い出した魔王軍の者達は、
『魔王の力で強化され、魔の森からの食糧の供給もあり、今こそ、武力での統一を!!』
と、メイド等を人質にシシリーさんを幽閉し、あの青白い顔のオッサンが中心となり、武力蜂起して、魔王城を占拠してしまったそうだ。
そして、
シシリーさんとの婚約を宣言して、
「我こそは新たなる魔王だ!」
と、頭のお気の毒な事を言っているらしい…
『それはおかしい!』
と異議を唱え詰め寄ったルキフグス宰相様は斬り殺され、
『助けを呼んで何とかしよう!』と魔王城から南に向かったケンタウルス騎士団の一団は、追手をかけられ傷つき、倒れ、残ったのはタリウスさんだけだったとのこと…
シシリーさんの幽閉に、ルキフグスさんを殺害…許せない…と怒る俺にタリウスさんは、傷口が痛むのも構わず、肩で息をしながら、
「勝手なお願いですが、ポルタ様…いや、我らが真の王よ…どうかシシリー様を…どうか…」
と涙を流し懇願する。
俺は、タリウスさんの肩に手を置いて、
「任せて下さい…タリウスさん」
と、言った途端に…タリウスさんの体が光りだした。
「えっ?」
と驚く俺の影の中から、
『ほら、だから六本足は虫仲間でやんす!』
と言っている。
理屈は解らないが、光りがおさまったタリウスさんは、
虫の息だったのが嘘の様に、傷も癒えて、生き生きとした顔で、
「我が王よ、新たなる力を授けて頂き感謝致します。
サジタリウスのタリウス…この命、王の為にっ!」
と立ち上がり頭をさげる。
『…六本足で、虫の息だったからか?…』
って…それは、流石にルールが緩すぎないか?…と思わなくもないが、今は、シシリーさんの救出と、魔王軍のヤツらをキャン!と言わせるのが先だ!!
と、ヨルド騎士団に旅支度の命令を出して、俺は、転移で、帝都に魔王軍蜂起の一報を入れる。
皇帝陛下は、
「軍を出すので、しばし待て。」
と言ったが、俺の怒りを感じたのか、皇帝陛下は、
「よし解った…全て任せる!
ただ、援軍を明日にでも出すから、先発するもよし、一緒に乗り込むもよし…
ただし、死ぬことは負かりならん!
死んだら死罪にする…だから死ぬなよ…シシリー魔王陛下をたのんだ!」
と俺を送りだしてくれた。
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