第56話 なってしまった…
無事に食糧支援物資も渡せて、魔族の市民の皆さんにも渡る様に配られたのだが、いつまでも支援物資に頼る訳にはいかない…
早く自分たちで食糧を確保出来なければダメなのだが…
しかし、何故か魔族の皆さんは会議の席で揉めている。
遥か昔、魔の森の中心に有った召喚士の国家が魔族の起源で、異界の者を召喚して、知恵や力を借りて豊な生活をしていたらしい。
そして、上位の異界の者と召喚士が恋に落ち、産まれた方々の末裔が魔族の貴族的な方々で、一般的な異界の者達の末裔が、魔族の民の方々らしい。
ウチのマリーを例に出すと、異世界から召喚された異界の蜂魔物とマリーのご先祖様の蜂魔物誰かが恋に落ちたらしく、その異界の遺伝子が、レベルアップや活性化すると、〈魔族種〉となる、
そして、魔王様は指定した魔族やその配下の魔族まで、異界からの遺伝子を活性化させる眷属化というスキルを持っている為に魔王になり、スキルさえあれば誰でも魔王に即位する事になるらしい。
そして、そんな魔族達の会議場では、活性化して強く成った魔族の一団が、
「我らが恨みを晴らす時!南へと進軍し武力にて魔の森周辺を統一し、魔族の復興を!!」
と唱える。
また、他の一団は、
「やはり、人を心から信用するには、我々は長年迫害されてきた為に怖い…
5聖獣の守る地とはいえ、復興には時間が掛かるので、守ることが出来る壁や城が出来るまでは魔王国に留まり、復興と他国からの戦争の可能性を考えてバランスを取る為に国の機能を分けましょう。」
と軍事分野や国の中枢は残しつつ開拓者を送り込む事を推奨する。
そして、魔王様の派閥は、
「こんな寒いところポイして皆で魔の森へ帰りましょう!
300年前の魔王は人間を下に見て愚かな判断をしたけど、それ以前は、仲良くしていたはずだから、ごめんなさいして、皆で一から頑張ろう!」
と訴える。
しかし、意見は平行線のようだ。
今までは、腹の内は違えども、「魔の森を目指す!」という、一点でのみ団結していた魔王国に、魔の森は、帝国と仲良くするなら手に入るという権利が降って湧くと、
魔王の恩恵で強く成った者は、人と仲良くなど出来るか!
となり、
人を恐れる魔族は、すぐに信用は出来ないので、保険を担保したくたる。
魔王さまの、
「ゼロから頑張ろう!皆で人間達との未来を作ろう!」
みたいな思考には踏み切るには、極寒の地で300年…人を臆病にさせるには十分な時間だ…
そして、何故俺は、この魔族会議に出席させられて居るのだろう…?
アゼルとメリザは…と言うかメリザがかなりイライラしていて、落ち着ける為にアゼルが連れ出して周辺で狩りをしている。
あぁ、俺も行きたいよ…外に…と現実逃避がしたくても、出来ない訳がこの会議場にはあるのだ…
えぇっと、シシリー様…いくら隣に座っているとはいえ、事ある毎に俺の腕に絡み付き、ニコニコと見つめないで下さい…
それと、軍関係の方々…(殺す)って聞こえてきそうな目て見ないでください…
あと、宰相さんとその周辺の方々…生暖かい目で見てないで、シシリー様に注意してください…
…肩身が狭い…
と、まぁ、連日の会議でもらちが開かない…ので、一旦結論を保留し折衷案で仮の決定となった。
一番の目的は
(食糧の供給の為の暖かい土地の確保)
なので、魔の森を開拓するのは決定で、
武力行使は他国が攻め込んで来た場合のみとして、魔王国の機関は当面は極寒の地のままとする。
魔の森の開拓チームのリーダーは宰相閣下として、先ずは秋の収穫を目指す。
という事に成った。
魔の森の整備が完了した後に改めて会議を開く事になるらしいが、直ぐではないだろう。
そして、開拓部隊と一緒に帰れる目処がたったのだが、シシリー様が、
「私も、ポルタと一緒に行く!」
と騒いでいたが、俺に敵意剥き出しの青白い顔のオッサンに止められていた。
今後は開拓部隊を率いる宰相様のチームと当面一緒に行動するのだが、開拓は城蟻達にお願いすれば、あっという間に畑や壁など着工出来るだろう。
会議中、外野の俺の意見からすると、
とっとと畑を耕した方が良いのに…と何度思ったことか…
やっと魔王国から帝国方面へと向かう列が南に向かい出発した。
長旅の末に到着した魔の森には既に魔王国に召喚したアリスに仮設住宅を依頼してあるので、一旦ヨルドの町の周辺に殆どの魔族の開拓チームの人員を残し、
俺は、ルキフグス宰相様と帝国側の窓口となるフェルド王国の王都フェルドナに向かう予定である。
アリストンネルを抜けて、ヨルドの町に入ると、『帰って来た!』と思える。
既にタンバを魔王国に召喚して伝言を頼み、カーベイル国王様への伝令を出しておいたので、
フェルド王国の王都フェルドナには魔の森の国境整備の為に集まっている帝国側の要人も集まっており、
魔王国と帝国との歴史的な会議が行われる段取りになっているのだ。
『あぁ、やっと終わった…』
と安堵する俺だった。
それから数日…ようやく、俺の帝国側の特使としての大役を無事に終える事が出来たので、あとは、国同士で頑張って仲良くして欲しい…
もう、拠点に帰ってしばらくユックリしたいと思いながらも、馬車に乗る俺には、
「お帰りなさい!」
「待ってましたよ~」
と、ヨルドの住民の方々から手を振られる。
そして、俺も馬車から手を振り硬い笑顔で応える…
先に言っておきます。
拠点には戻れませんでした…
その理由は、何故か、俺がヨルドの町の領主にされてしまったからだ。
しかも子爵という、お貴族様階層のよく分からない平民には強いのかどうなのか解らない爵位まで賜ってしまった…
数日に及ぶフェルドナでの会議の後で、
「やれやれ帰れる」と安堵したのだが、帝国の要人の方から、
「皇帝陛下からのお言葉である!
帝国と魔王国の友好の為に、私有地を差し出した冒険者ポルタに褒美を与える。
詳しくは、フェルド王国、カーベイル国王より発表がある。」
と告げられたのだが、議会場でキョトンとしているのは俺だけだった。
各国の要人は勿論、魔族のルキフグスの禿げまでもニコニコ笑顔で、拍手をしている…
『全員グルだな!』
と理解した俺は、悲しくなった…
そして、告げられた褒美が、
帝国の子爵の位と、魔族に明け渡す魔の森の代わりにヨルドの町と周辺の領地を与えるというものである。
俺は、会議場で各国の要人が居るのもお構い無しで、
「いゃぁ~、自分冒険者なので…」とか、
「商会が有るので…」とか、
「家族が、心配で…」などと、ゴネにゴネまくってみたが、カーベイル様にまで、
「観念いたせ、その点は既に皇帝陛下も予測済みで、そなたに帝国が管理して一般には出回らない転移のスキルを預かっておる。
我が友アルフリードからの伝言だ、ゴネ場合は、
(お主の様な危険人物に他国に出ていかれると面倒だ、やりたい放題していいから帝国に居ろ)
と伝えるようにと…
アイツもプライドがあるからな…こんなものは遠回しに(お願いします。帝国に力を貸して下さい。)と言っている様なものだからのぅ。
汲んでくれ…」
と微笑みながら言われた…
一度拠点に帰り、帝都にて面倒な式典を済ませて、
俺は、
〈ポルタ・ドゥ・ラ・ヨルド〉
という長い名前を付けられた。
フェルドの子爵では無くて、マルス帝国の子爵がフェルドに出向する形となるので、何か有れば帝都に行かなければならないのが面倒だが、
転位スキルで登録した五ヶ所に瞬間移動出来るので、便利になったのか?やらなければならない事が増えて不便になったのか…?
と、まぁ、なんやかんやあっての現在、フェルド王国での正式な手続きの後に、宰相様と一緒にフェルド王国の高そうな馬車でヨルドの街をパレードしている…
ヨルドには拠点から数名の人と、多数の虫が移住してくれる事に成った。
拠点の警備に〈カブ太〉を残して、
今は空き部屋になっているヨルドの地下の蟲のヌシの出城に拠点の森から非正規従魔達が半数ほどが来るらしい。
こちらではタンバの指揮下に入るとのことだ。
そして、マリーとハニーの蜂蜜組も拠点に残って蜂蜜づくりを頑張ってくれる事になり、
家族も環境が良いから残ると言った…
困ったのは正規の従魔達だ…
『召喚して頂いて、休日は拠点で過ごしたいでやんす』
と…ガタ郎の意見に皆頷いたのだ…
確かに、家族の中に従魔達が溶け込んでいるので仕方ないが…なんか寂しい…
結局、ヨルドに来てくれたのは、ファミリー商会ヨルド支店の店長になるヘンリーさんと、親父のゴルグさんに、
「死んでも側を離れるな!」
と気合いを入れられて送り出された鬼娘のルルさんと、何故か馬番として名乗りをあげたドテ君こと、通称ドテチンと、ドテ君の事が心配で雑用係りとして来てくれたドテチンパパのドドさんである。
ドドさんは喋れるタイプの上位種のオーガで、ルルさん達の武芸の師匠でもある。
ドテチンは喋れないけど、パパチンは見た目も厳ついオッサンのデコに角がある程度の見た目だ…
本当に親子か?と疑いたくなるが、ドドさんは、
「ドテは、見た目も天真爛漫な性格も死んだ妻に瓜二つですので…」
と言っていた。
という事は、奥さまはかなりワイルドな方鬼寄りな方だったらしい…
という訳で、拠点から引っ越しして来てくれたのは、この四名だけだった。
アゼルとメリザは、
「ポルタ兄ぃと一緒にいたらクエストも出来ないから当分二人で頑張る。」
と、言っていたし、シェラはだいぶグズったが、
「下の子達が大きく成ってタマゴ農家を継いでくれたらポルタ兄ぃのところに行く!」
と決意して、皆の生活の為にタマゴ農家を頑張るらしい…
そして、シェラはノーラ母さんに、
「シェラちゃん、ポルタ君は貴族様になったからお嫁さんの枠が増えたわよ、頑張ろうね。」
と言われていた…
何故かルルさんまでガッツポーズをしていたのはツッコまないでおいた。
そして、ビックリしたのが、ガイナッツ王国の爺さん達、
鍛冶師のゴング爺さんに、
家具職人のマット爺さんと、
細工職人のベルト爺さんのプロレス…もとい、職人爺さん達が噂を聞き付けて、工房を息子に譲り、数名の弟子と共にヨルドの町に引っ越してきてくれたのだ。
もう、ヤケクソだ!欲しい物を作りたい放題のやりたい放題してやる…もう怒ったかんな!!
ヨルドを将来、近代都市国家にしてやる!!
旨いもの作っても帝都には絶対輸出してやらないんだからね!
と俺は、涙目のまま市中引き回し…いや、領主の着任パレードは続くのであった…
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