第54話 北の魔王国へ
帝都で、皇帝陛下からの差し入れ用の資金で、魔族領への食糧を買い込み、お手紙やら何やら色々と託された。
俺が、魔族と逢ってみて、魔の森の領地を魔族に返すも返さないも自由との決定権もくれた。
皇帝陛下が仕事が出来る様になり、帝都で動き易くなったし…
(やって良かった!カサカサ祭り)だね…
帝国をあげて、魔の森との国境線の防御力の強化を始めるために各地の王様は自分国へと帰っていく…
俺も、アルトワ国王陛下に誘われて、一緒にクレストの町まで馬車に乗せてもらった。
ウチのクマチームが育休中なので有難い。
帰りの馬車で、以前、ガイナッツからの詫び金を丸々、ロックウェル伯爵経由で賜った件について礼を述べた。
おかげで、育ての親の切断された足を治す為のエクストラポーションを競り落とした事を話すと、
「ポルタ君、そんな刺激的な事には是非ワシも混ぜて欲しいのぉ」
と寂しそうに見つめてくる…王様の隣で王子様が、
「来年からは隠居生活だろ父上…
楽しみは後に残しておいて、今は魔王軍の件を頑張ってくれよ。」
と、やれやれと言った感じで注意する。
アルトワ王は、
「とっとと、お前が王位を継いでくれていれば、今ごろは諸国漫遊の旅が出来たものを…」
と残念そうだ。
アルトワ国王が、思い出したように、
「それはそうと…、ポルタ君の所属先はどう成ったのじゃ?
皇帝陛下もあの後、戦地帰りの戦士の様な顔つきになってしまい、あまりの気迫に聞けずじまいじゃったからのぅ」
というので、先日陛下が迷い込んだ異界の祭りの話をすると、アルトワ国王は、益々残念そうに
「ポルタ君、頼むからワシも仲間に混ぜてくれ!
楽しい事に飢えてるのよワシ…」
と話している。
王子様は、
「いやいや、なかなかえげつないお仕置きを…」
と、少し青ざめている。
そんなこんなが有りがらも、アルトワ王国に戻り、
国王陛下達に乗せて頂いた礼を述べてから拠点へ戻った…
俺は今から、商会の全体会議を開き、少し長旅に出る事を話さなければならない…
問題は、馬車を引いてくれるクマ五郎達が育休中な事だ…本当にどうしよう…?
色々考えながら、従魔用の厩舎に入ると、またらなく可愛い小熊がキュー、キューと鳴いて、デレデレのクマ五郎とクマ美とセミ千代が居た…
こんなのを見たら、無理やりにでも、魔族領に行こうなどとは言えないなぁ…と、小熊をモフりながらクマ五郎馬車は諦めた。
そして、商会全体会議の結果、久しぶりのアゼルとメリザが合流し、新しく整備され、納品や営業用の馬を増やす為の商会の馬牧場で購入されたばかりの馬から2頭ずつ、アゼルとメリザに従魔契約をしてもらった。
2交代制にすれば、休憩無しで一日中走っても、一日交代でずっと走り継けられる。
商会の蜂蜜やクッキーそれにプリンもゴソッと用意し、アイテムボックスに放り込み、翌日には魔族領へと向かった。
2頭引きのキャンピング馬車、しかもアゼルとメリザが交代で御者をしてくれるので楽チンだ。
キャンピング馬車の中で、
「悪いねぇ、楽させてもらって…」
と、俺がポツリと言うと、メリザが、
「気にする事を無いよ、今までは、ポルタ兄ぃが1人で御者をしてくれたんだから…
それより、ポルタ兄ぃは、どうするの?」
と、漠然とした質問を聞いてくる。
俺が、
「ん?何をどうするんだ?」
と聞き返すと、
メリザは当たり前かの様に、
「え、奥さんに決まってるじゃん!」
と言ってくる…
何で急に?と思っていると、メリザが、
「ポルタ兄ぃも、成人したんだし、お金もあるし、ちゃんと冒険者もしてるし、国のお仕事もこなす、
有料物件が、婚約者も居ないのは変だよ!」
という、俺が、少し拗ねながら、
「変じゃないよ…
忙しくて、彼女を作る暇が無かっただけだから…多分…」
と、自信無く答えると、メリザは、
「安定した生活、バリバリこなす仕事、居ない婚約者…
あぁ、キツい性癖でも有るのかな?って思われるよ。」
と、厳しい現実を突きつけてくる…
俺は、ガッカリしながら、
「そうかぁ…
でも、彼女も居ないのに、婚約者なんて見つかる訳ないなぁ…」
と言うと、メリザは、
「何言ってるのポルタ兄ぃ、あんなにモテモテなのに!」
と笑いながら言う。
…ん?と、首を傾げる俺に、メリザは、
「ルルちゃんは親公認のポルタ兄ぃ狙いだし、」
何ですと!?
「シェラも、ポルタ兄ぃの奥さんになるって言ってるし、」
えっ?
「ノーラさんも、ライラさんも、ポルタ君になら嫁にいきたいって言ってる…」
なんと、育ての親と没1女性まで…と驚く俺だったが、少し考えて、
「って、身内ばかりじゃねぇか…
あれだろ!
ウチの子、良い子なのに…私ならあんな良い子、放っておかないのに…的な、
身内贔屓の、褒め言葉だろ…」
ガッカリしていると、メリザは、
「皆、結構本気かも…
私もポルタ兄ぃなら、いっぱい稼ぐし、嫁に行ってやっても良いよ。
どう?」
と、少し頬を染めながら茶化すので、俺が、
「ありがとう、メリザも身内だから嬉しいさ半減だけど、妹といえど1人の女性に、嫁に行っても良いと言われるくらいはまともな男に成長したと自信を持つことにするよ。」
と寂しげに俺が礼を言うと、何故かメリザは真っ赤な顔だった…
そして一切喋らなくなってしまった。
次の日は、メリザが御者をして、アゼルとキャンピング馬車の中で話していると、アゼルが、
「メリザが、昨日から機嫌が悪いんだけど?
ポルタ兄ぃ何か言った?」
と聞いてきた。
明確な心当たりが無い俺は、
「う~ん?解らないなぁ…」
と答えるしか無かった…しかし、アゼルに、昨日の会話をだいたい説明すると、
『あぁ~』みたいな顔をしたアゼルは、
「メリザ、ちょっとマジだったんだなよ…
でも、照れ隠しで稼ぐからみたいなこと言ってしまって…機嫌が悪いんだな…
ポルタ兄ぃ、もう、メリザをもらってやってよ。
ポルタ兄ぃは選り取り見取りだけど、ありゃ、ポルタ兄ぃに引き取って貰わないと、行く宛がないよ…
気が強いし、厄介だし…」
とお願いされたが…素直に喜べないし、今後の接し方に困ってしまう…
俺は、
「う~ん、とりあえず今は魔王様の件に集中だな…
デートもしてない女性と婚約も何もないだろ。」
と、全てを保留とし、聞かなかった事にした。
今からまだまだ旅は続く…気まずい話題と、繊細な話は避けたい!
血が繋がってないから問題は無いメンバーだが、全員俺の中では身内枠なのよね…と、悩んでいると、
影の中からガタ郎が、
『オスなら、片っ端から交尾でやんす』
と…どこの、群れのボスの話をしてるの?と、俺が呆れながら心の中でツッコむと、
『旦那様は、十分強い群れのボスでやんすよ。
アッシなら、秒でイクでやんす!秒で!!』
と、ゲスい返事をしてきた…
俺は、
もしかしてガタ郎…とガタ郎の下半身事情を心配すると、ガタ郎は自慢気に、
『拠点の森にはアッシの子供が沢山居るでやんすよ。
今年の夏にはアッシの血を引く色々な交雑種の子供達が元気に飛び回る予定でやんすっ!』
と…
どうやらウチの〈やんす〉は、案外〈ゲス〉な事を知り、
少しビックリしながらも、馬車は北に向かい走り続けた…
メリザとは、修学旅行初日で告白されてその後の旅行が気まずくなるみたいな旅行あるあるは回避できて、その後は何事も無く順調に進み、ヨルドからワルド王国まで丸一日ほどかかるアリスのトンネルを抜けて、ワルド王国に入ると、確かに耕作に不向きな、砂利が多い大地が広がっていた。
現在はアリス達の城蟻軍団が復興支援として、耕作地を耕し、魔の森の栄養豊富な土を丸めて運び、耕作に適した広大な畑をワルドの国にプレゼントしたので、夏には何かしらの実りは収穫出来るだろう。
そして、そこから10日ほど更に北に向かい、魔族領の中に入ったのだが、こちらはワルド王国以上に、とてもまともに耕作出来そうな大地ではない…
手前に木々はあるが針葉樹ばかりで、その先には木々の生えない大地が広がっている。
タイガとかツンドラとかと言われる極寒の大地なのだろう…現在は春終盤で比較的寒さも我慢出来るが、馬車の御者を三交代、馬車も1頭引きに変えて、速度より、疲れたら交代を心がけ、馬達の疲労回復を重視してローテーションしていく。
俺は、比較的寒さは大丈夫だったので、御者の時間も長く出来たので、よくよく考えてみると、耐寒のスキルを取得していたのを思い出した。
その事を知ったアゼルとメリザからは散々
「ポルタ兄ぃだけズルい!」
と、言われたが、
夏前なのにこんなに寒いとも、知らなかったし、耐寒のスキルもすっかり忘れていたので仕方ない…
そして、魔族領に入り、初めての第一村魔族?を発見した…というか、発見されて馬車の前に立ちはだかれた。
それは、馬に乗った弓兵士…ではなく、下半身が馬の兵士さん達だった。
「そこなる馬車、止まりませい!
我こそは魔王国の南の守り、ケンタウルス隊を率いる〈タリウス〉である。
貴殿の所属と名前を申せ!!」
と叫んでいる。
俺は、
「マルス帝国の特使ポルタと申します。
マルス帝国、皇帝、アルフリード・エルド・マルスと、帝国内の各王国の王達から、魔王陛下への書簡と、皆様への食糧支援を持って参りました。」
と答える。
するとタリウスと名乗ったオッサンが馬車に近寄りぐるりと一周、確認して回り、
「食糧は?」
と聞いてくる。
俺は、アイテムボックスから人参を一本取り出して、ポイっとタリウスのオッサンに投げて渡す。
「アイテムボックス持ちか…」
と納得する馬のオッサン。
すると、次にタリウスのオッサンは人参を見回した後に、カリっと一口噛り、
「むほっ」っと言った後ガリボリと人参を頬張る…
「うまい、旨い!」
と言って噛っていると、部下のケンタウルスが集まって来て、
「隊長だけズルい!」
「俺達にも下さいよぉ…」
と、口々に不満を漏らしているので、アイテムボックスから部下の分も出して渡すと、
「ポルタの兄貴、ありがとう」
「イジワル隊長よりポルタさんの配下に成りたい。」
などとお世辞を言ってくる…
それを影の中から聞いていたガタ郎が、
『名付けをして従魔にするでやんすか?』
と聞いてくる…
虫じゃないのになんで?と俺が聞くと、ガタ郎は、
『だって、手足が6本でやんすっ!』
と力説する。
確かに6本ではあるが、彼らは虫ではない…俺が、
『虫ではないでしょ?』
と心の中で答えると、
ガタ郎が、
『心をへし折って、(私は卑しい虫で御座います。)とか言わせれば、ワンチャン配下にしてテイム出来るんじゃないんでやんすか?』
と提案するが、そんなセリフを言った時点でテイムとか関係無しで配下…というより、下僕なのよ…
などと、アホな会話をしていたら、人参を食べきったケンタウルス達に
「こちらです。」
と案内されて魔王城へと向かうこととなる。
道中、ケンタウルスさん達に魔王国の説明を受けながら進むのだが、この地に落ち延びて300年…寿命が長めの魔族さんと言えど、現在の魔王国生まれが殆どで、新鮮な野菜や、果物、豊富な穀物をお腹いっぱい食べれる事など一度もない生活らしい。
魔王国の比較的南の土地で細々と作られる野菜と、個人的に信頼関係を結んだ魔族が近隣の国の村と貿易をした商品が流通するくらいで、あとは、海の幸や春から秋まで生えている草を食べる草食系魔物などや、その魔物を狙う肉食魔物を狩り、肉中心の生活をしているらしい。
特に冬場は、海から取れる塩で塩漬けした保存食ばかりで、生野菜に飢えていたらしく、
「人参、旨かったなぁ」
と、いまだに仲間内で語っている程である。
なんだか、体に悪そうな食生活だな…と思いながらも、
でも、ケンタウルスさんはどうなんだろう?胃は人間側なのかな?下半身にも馬の胃が有るのかな…?
肉とか一度人間側で消化したヤツを草食側で消化したとしても消化に悪そうだな…などと、どうでもいい事を考えてながら、ログハウスの様建物が並ぶ町を抜けて石作りの城に到着した。
さぁ、いよいよ〈魔王陛下〉とご対面だな
読んでいただき有り難うございます。
頑張って投稿しますので応援ヨロシクお願いします。
よろしけれはブックマークして頂けると幸いです。
〈評価〉や〈感想〉もお待ちしております。
皆様の応援がエネルギーに成りますので、
よろしければ是非お願い致します。




