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仲間になりたそうに見ないで下さい  作者: ヒコしろう


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第52話 すぐに来いと言われたが

伝令兵の〈モルドレット〉さんとウッスラ雪の積もった街道を西に向かい走っている。


馬に騎乗しているモルドレットさんはスピードを上げたそうだが、クマ五郎は悪路には強いがスピードは馬には劣る。


そして、夜間はタマゴが気になるだろうから、馬車を残して送喚している。


早馬の伝令で二週間ぐらいで拠点まで来たのに、帰りはノーマルスピードで、ヤキモキしているモルドレットさんに、


「先に帰ったらは?俺は、後からゆっくり向かうから…」


と、伝えると、


「宮殿までお連れするのが自分の任務なので…」


と答えるが…横でずっとソワソワされて…落ち着かない…

そもそも「すぐ来い!」で行ける距離ではないし…タンバを召喚して背中にでも乗れば馬よりも早いが、鞍もないムカデの背中に、振り落とされない様にしがみついて、何日も…

冗談じゃない抱きついた俺の腕の上下でうごめく赤い足…想像しただけで、痒くなる。


タンバはイイ奴だから傷つけたくないし…どうしようもないよ…

アゼルとメリザはワイバーンで飛ぶと死ぬほど寒いからこの時期は遠出はしたくないと、早々とダンジョンアタックに向かった。


低クラスの冬越しクランのいる階層はガン無視して、お肉ダンジョンの中層以下の難易度の高いエリアを目指すらしい。


冒険者しているな…

冒険で思い出したが、シェラは最近は、冒険者稼業はしていない。


蜘蛛がトラウマになってないか心配していたら、たまに装備を身につけて、ピョンちゃんに鞍を着けて、ブーちゃんと、アースワームというデカいミミズの魔物を狩りに山に行っている。


山を駆け上がるのは馬の従魔のパカポコ君よりもピョンちゃんが適しているようで、野山を走り回り、ブーちゃんが見つけたアースワームを掘り返し、シェラが仕留める…

卵鳥達の食い付きや卵の質が良くなるらしく定期的にミミズ狩りには出掛けているそうだ。


トラウマで冒険者を辞めたプリンチームみたいに武器が握れなくなったかと心配したが、タフな妹で良かった。


しかし、毎日横でソワソワされるのにも飽きてきた俺は、クマ五郎と会議をした結果、クマ五郎が、


『後半月程でタマゴが孵るんだなぁ、生まれる瞬間は立ち合いたいから、それまでならば、寝る間を惜しんで走るんだなぁ!』


とやる気になったクマ五郎は見事に孵化前に帝都まで走りきってくれた。


『もう、当分走りたくないんだなぁ』


との言葉を残してクマ五郎も育休に入ってしまった。


我がファミリー商会は雇用形態こそ数千を越える非正規労働従魔に支えられているブラック気味な商会ではあるが、せめて、福利厚生ぐらいはキッチリしたい…

住居の提供や各種の休暇に、たまに現物支給の食事など…企業として頑張っている方だと…思いたい。



さて、宮殿に到着したのだが、例によって、「風呂で旅の汚れを落として下さい」と風呂場に通された。


宮殿の豪華な風呂に入っているが…全く落ち着かない…

何故なら、前回と違い、お風呂当番が、うら若いメイドさんばかりなのだ!


『何の嫌がらせだよ皇帝陛下!?』


スッポンポンの俺に、複数の女性が取り囲み頭から体から丸洗い…


「そちらの頭は自分で洗います!」


と前だけは何とか自分で洗ったが、背中のついでに尻はイかれた…頬では無く、溝を…


アキバなどの養殖のメイドではなく、天然物のメイド…しかも宮殿で働く極上天然メイドが複数…

もう、された事への衝撃よりも、

皇帝陛下は何を俺に仕掛けてきたのか?との不信感しかない。


心とナニかが鎮まるまで湯船に浸かり、俺の平常心スキルが頑張ってようやく風呂から出られた。


しかし、脱衣室でもメイドさんに体を拭かれて、体のサイズのを計られた…

違うよ、肩幅とか足の長さとかだよ!

それからは着せ替え人形の様に服を着せられ、偽物貴族の出来上がりである。


着てきた装備をアイテムボックスにしまって、今から謁見らしいが…既に俺のメンタルのゲージは赤色だ。


流石だよ陛下…素直に誉めておくよ…精神的優位に立つ為に手段を選ばないとは…

帝国の虎はウサギを狩る為にも軍隊を投入するようだ。


メイド軍団にもみくちゃにされてクタクタのまま長い廊下を案内される。


影の中のガタ郎が、


『前回と同じおもてなしなら、そろそろ刺客に襲われるでやんすね。』


と不吉な事を言う。


ふざけないで欲しい…かぼちゃパンツのアホっぽい王子様スタイルで投獄されるなど、人生で一回も要らない!

しかし、内心少しビクビクしながら廊下を更に進み、メンタルゲージがチリチリと削られる音を聞きながら、俺はやっとたどり着いた部屋で俺のメンタルゲージはゼロになった…


案内されたのは会議室の様な部屋に、皇帝陛下、ガイナッツ国王にフェルド国王…知らない顔が並ぶが一番端にワルド国王もいる…

多分、着ているお召し物から、


『あぁ~、全員どこぞの王様だ…』


と解る人達の前に立たされ、皇帝陛下に、


「先の戦争の英雄は、長風呂なので既に全員揃っておる。

長旅のすぐ後で、ご苦労だが、

帝国の未来を決める会議だ宜しく頼む虫の勇者殿…」


と言われた…

まずは、この状況…普通じゃないからなぁ!!説明プリーズ…と、しっかりパニック状態の俺を他所に、現在、帝国の全ての国の国王が一同に集まる会議に出席し…いや、させられている。


今は社交のシーズンで、帝都の屋敷に王様や有力貴族が滞在している期間のために、一声かければこの様な会議が開かれるらしい。


このメンツを待たせてるとなれば、モルドレットさんがヤキモキするのも今ならば理解できる。


フェルド国王のカーベイル様が詳しく皆さんや俺に説明してくれなければ、皇帝陛下の、


「虫の勇者と名高いポルタだ。

こちらは、各国の国王達だ。

それでは議題に移る。」


の紹介のみで会議が始まりそうになった。


『アイツ…マジで…!』


とりあえず、ノーヒントで会議が始まるのだけは、カーベイル様のおかげで避けれたが…

未だに何の会議か解らない。


皇帝陛下が、


「では、改めて、魔王軍の事だが…」


と、きりだした…


『ぐ、軍務会議か!?』


尚更、俺が、呼ばれた理由が解らん…


そして、糞長い会議を簡単にまとめると、


新たな魔王が誕生した。

魔王国は、300年前の前魔王の政策で世界に牙を向けて暴れた結果、連合軍と勇者により極北の地に追いやられて討伐されて今に至るが、残された魔族は実りも少なく、大変な生活をしているらしい…

近隣の国が、魔王誕生を感知して、

魔王が力をつける前に潰そうと攻め込んだが、返り討ちにあったらしいが、しかし、今回の魔王軍は近隣の国を滅ぼさずに、南に進軍する為の領地の割譲のみを敗戦国に要求しているようで、最近遂にワルド王国に、魔王よりの書簡が届いたので、この会議が開かれているとの事である。


魔王様のお手紙には、


『先の魔王の政策により北の地で300年罰を受ました。

どうか私達魔族が故郷ともいえる魔の森へ戻る事を許して欲しい…

愚かな王の巻き添えで、新たに生まれた世代がひもじい思いをするのは不憫でならない

どうか、どうか、ご理解下さい。』


と書いてあったそうだ。


なるほど、魔の森がらみだから俺が召集されたのか…と、理由は解ったが、何をそんなに難しい顔をしているのか解らない…

やれ、「魔王軍の罠だ」とか、

やれ、「魔族の話など聞く耳を持てるか!」とか、

やれ、「先に攻め込むべきだ!!」とかと…

ピーチクパーチクさえずっているが、こいつら丸ごとアホなのかしら…


相手と向き合って話してもないのに、前科があるからと魔族がとか魔王軍がと…聞いていてだんだんイライラしてきた。


かなり我慢して黙っていたが、皇帝陛下の、


「魔の森の実質的な領主は、如何に考える?」


と聞かれた時にはイライラがマックスになっていた。


俺は、


「如何も何も、お手紙一枚でする会議ですか?

相手の情報も無いまま、昔は、あぁだからとか、魔族は、こうだからと…誰か、食糧がなくて「ひもじい」って言ってるのに、食糧でも持って外交に赴かないのか?」


と言うと、各国の王様は、目を背ける者や、俺を睨む者、うん、うんと頷く者とまちまちだ。


どこぞの脳ミソ少なそうな王様が、


「お主の様な小僧に、魔族の怖さは解らないだろう!

如何に残忍な行いをしたか!!」


と怒鳴るが、俺は、怒りを堪えながら、


「どこの王様か存じあげませんが、300年前でしょ?戦争したの…代替わりもして、直接ナニかされた訳でも無いのに、言い伝えや過去の資料で、悪と決めつけるのがおかしいと言っている!

そんな事いったら、ここに並ぶワルド国王はどう説明する?!


実際に、ついこの間、戦争を仕掛けてきた張本人だろ?」


と聞くと、ミニマム脳ミソ王が、


「それは、魔王軍の進行と、食糧不足から、やむにやまれぬ事情から仕方なく…

それに、今は敗戦国として、フェルドの属国となったので…」


と言い返そうとするが、結局、口ごもっている。


そして、皇帝陛下は発言もせずに傍観を決め込んでいる…


『てめぇが、ちゃんと考えて仕切れや!!』


と俺は、もうキレはじめていた。


「同じかも知れないだろ、誰か魔族の現状を見に行ったのか?

戦争を吹っ掛けて来てない魔王軍を魔族だからと…

ワルド国王様!即刻帝国から離脱した方が良い!!

このままでは、リード王子の代に、「以前攻めて来たから」と迫害を受けますよ!」


と、怒る俺に、ミニマム脳ミソ王が、


「そんな事はない!ワルド王国は人の国…話せば解るし、共に歩めるが、魔族は…」


と言いかけたので、俺は、


「違わない!!

魔族といえど話し合えるし、人間だからとて、誰かさんみたいに信用出来ない奴は信用出来ない!!

ねぇ、皇帝陛下!!」


と怒鳴ると、


『えっ、余!?』みたいな反応してるが、オメェしか居ねぇよ!!と、怒りがこみ上げる。


続けて俺は、


「俺は、喋る魔物も配下にしています。

それに拠点の土地では現在、里を追われたオーガ達と仲良く暮らしています。

喋るオーガは魔族種らしいですよ。

皆さんがビビり散らかしてるのなら!

俺が、手土産持って魔王様にご挨拶してますよ!!

それで、信用出来る様なら俺は、魔王側に付いて魔の森を開拓して食糧を生産出来る様にしますがいいですね!?」


と言って…しまった…『やっちまった…』と、内心反省する俺だが、もう引くに引けない。


皇帝陛下は、


「アルトワ王よ、ポルタの言うオーガと一緒とは本当か?」


と、隣のお爺ちゃん王に聞いている。


『はじめまして、アルトワ王様…国内でかなり自由にさせてもらってます…』


とお爺ちゃん王様に心の中だけで挨拶をしたが、アルトワ王は、


「いや… 調査員からの秋の報告では無かったが…」


と焦っている。


しかし、騎士団の一人がモルドレットさんからの報告を聞いていたのか、皇帝陛下に耳打ちをすると、皇帝陛下は呆れかえり、


「ポルタよ、お主、本当にオーガと暮らして居るのだな…」


と呟くと、辺りの王様達が静まりかえる…

すると、フェルド国王が、


「皇帝陛下、以前の報告でも申しましたが、

この度のワルド王国との戦では、ポルタ殿の従魔の方々に力を貸して頂きました。

そして、我が国の宰相が、ポルタ殿の喋る従魔を鑑定した結果、〈魔物鑑定〉ではなく〈人物鑑定〉でのみ鑑定できる従魔がおり魔族との鑑定結果が出ていたと…報告書に書きましたが…

つまり、既に我々は魔族と手を取り合えるという事実を目の当たりにしている。

私も、彼の意見に賛成だ。」


と言ってくれた。


何故か皇帝陛下は『えっ、マジ?』みたいな顔をしていたが…

アイツ、報告書を読んでないかも…


あと、アリスって魔族さんなんだな…知らなんだ…でも従魔召喚で…あれかな従魔(物)も(族)でも従魔のあつかいなのかな?…

解らん。


読んでいただき有り難うございます。

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[一言] もしかしてこの世界の王様ってみんな皇帝陛下みたいなヤベェ奴だった!?
2023/12/10 22:12 退会済み
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