第51話 カサカサ祭り開催
それは、俺が村長の家を訪ねる少し前…
村から離れた森の中で、目の前に並ぶ闇の一族達…
『陛下、お呼びにより参上いたしました。』
と、頭を下げる黒や茶色の多種類のGの集団…
最悪な気分だが、お願いするのはこちらの方であるので礼は尽くさねばならないとは理解しているが、しかし、既にブレイブハートを漏らしまくって、今回に至っては俺は、何かしらの液体も漏らしそうだ…
俺は、アイテムボックスから遠征用の食糧を出して、各種族の前に、うず高く積み上げながら、
「え~皆様には、今回、正義の使者として働いて頂きたい。
悪い事をして反省しないヤツが、この村にいます。
顔と家はこちらのガタ郎君から聞いて下さい。
そして、任務ですが、そいつらが寝静まったあとで家に忍び込み、手足を押さえて動けなくした上で、泣きわめこうが何をしようが部屋から体の上から構わず走り回って頂きます。
時間をずらして3日連続でカサカサ祭りを開催した後は数日空けて安心したところで、再度祭りを開催して下さい。
相手が心から詫びた場合は祭りはその時点で終了とし、もしも反省しない場合は定期的な祭りを月をまたごうが、年をまたごうが開催を依頼します。
なお、祭りの開催時間等については各種族のリーダーを〈祭り実行委員会〉に任命し任せます。」
と俺がいうと、
『王よ、お任せ下さいませ、
我々、森コックローチの一族の名にかけまして。』
とデカいゴキブリが答え、
『我々、油チャバネ一族も同じく、』
と頭をさげる茶色い、Gのセリフと被せ気味に
『我ら黒コックローチも、やってやります!』
と声があがり、
『いや我々、ワモンコックローチにご期待ください!我ら全員の命、陛下の為に!!』
などなど気合いの入った名乗りが続く…
『何種類いるんだよぉぉぉぉぉ?!もう助けて…』
と俺の心が悲鳴をあげている…
数居る一族ごとに丁寧に挨拶をされて、もう、やけくそで俺が、
「では、皆様、ご安全にっ!!」
と、叫ぶと、
『ご安全に!』
と全員が返してくれて、祭り決起集会が終了したのだった。
アルバイト代の食糧を持ち帰る闇の一族達を見送り、村長の家を訪れて、オーガ族の鬼娘に善からぬ感情を抱き、それが叶わないと知れば、嘘の依頼を冒険者ギルドに出させた若者の家を割り出したので、あとはガタ郎に祭り実行委員との連絡をお願いしてからクレストの街に戻る事にした。
依頼達成報告を冒険者ギルドで済ませてから、ライフポーションと麻痺消しや毒消しなど回復アイテムや、オーガさん達が生産出来ないモノや、苦手な回復属性魔法の代わりの品を中心に買い求め、あとはオーガさん達は少しきわどい衣裳な方も居るので、布などもたっぷり購入してから拠点に戻りゴルグさん率いるオーガさん御一行を待った。
そして一週間後に荷物を担いだゴルグさん達が到着し、拠点の皆と挨拶を済ませる事となる。
既に俺から聞いて居たのもあるが、拠点の皆は驚くこともなく、喜んで彼らを迎えてくれた。
長旅を労い、一緒に温泉につかり、蜂蜜酒で乾杯をしようと宴を開いたのだが、子供はレモン漬けのハチミツジュースだけど…ドテチンはどっちだ?と考えてながら、一応蜂蜜酒とハチミツジュース両方差し出して、
「はい、ドテ君、大人はお酒で、子供はジュースね。」
と言ったら、ジュースを手に取るドテチンに、
『子供だったんだ…』
と、驚く俺だった。
それから数日で、彼らの手で手際良く裏山の見晴らしの良い場所にに建てられるテントの数々…
とりあえず彼らには、マリー達の居住地区以外、裏山の奥側ならば、木々の伐採も狩りも自由とした。
シェラがテイムしていた跳ね鹿のピョンちゃんやアタックボアのブーちゃんをドテチンが美味しそうな目で見つめていた為に、ドテチンのみシェラに距離を置かれたが、鬼娘のルルさんをはじめ、三メートル近い族長より大きなオーガさんも拠点のみんなと仲良くなり、話が出来る上位種のオーガ族のオバサンなどはノーラさんやウチの子供組とも打ち解けて、昔からいる近所のおばちゃんみたいに馴染んでいる。
『大丈夫そうだね…』
と、いうことで、俺は祭りの結果を聞きに、まずクレストの冒険者ギルドに行くと、窓口の職員さんに、手紙と、指名依頼が有ると言われた。
手紙は例の村の村長からで、
『土地神さまの罰を受けた三人が、スライムの素材を集めて鍋で煮込み、家の隙間という隙間を塞ぎ、家から出て来なくなりました。
少し落ち着いたと思った昨日、夜中に発狂しだし、泣きながら詫びております。
土地神様の怒りを静める方法を探していただけないでしょうか?』
という依頼内容であった。
窓口のギルド職員のお兄さんが、
「変な依頼内容ですね。
何かの呪いなら教会に頼めば良いのにね…」
と心配してくれたので、
「俺、クリアも使えますから。」
と答えると、職員さんは、
「なら、大丈夫ですね。
でも、何かヤバい呪いならば、無理せず戻って来て下さいね。教会の方々と協力する必要があるかも知れませんので…」
と、心配されながら、俺は再び村に向かった。
到着した村では村長に案内されて、村の集会所で寝泊まりしている例の三人に逢うと、
うわ言の様に、「カサカサが…」とか「黒いのが…」と言いながら部屋の隅で震えている。
『もう、祭り会場と化した自宅自体が怖いようだな…』
と俺が集会場の隅で小さくなる三人を眺めていると、影の中からガタ郎が、
『自業自得とは言え、哀れでやんす。』
と哀れみの言葉を放つのだが、根っからのイタズラっ子のガタ郎が、影からチャポンと出て来て、わざと目立つ様に三人の前をカサカサカサっと走る。
すると三人は、
「いゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と女子高生みたいな悲鳴を上げる…
影に戻ったガタ郎が、
『末期症状でやんすね。』
と呆れているが、声は何故か満足そうだ。
村長も、うんざりしながら三人を見つめて、
「お前らが、鬼娘を卑怯な手口でもてあそぼうとしたからオーガ達とイザコザになって、呆れて他の地に出て行ったのだ、それを詫びもしないお前らに、土地神様がお怒りになっておるのじゃよ!」
と叱る。
三人は、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
と壊れた様に繰り返し、村長は、
「大変身勝手な願いだが、何とか土地神様の怒りを静める方法を探してくださらぬか…
この様な馬鹿者だが、村には貴重な若者だ…
このままでは不憫でならない…」
と、頭をさげた。
俺は、旧オーガの里に向かい、城蟻のアリスを召喚し、再会に喜ぶアリスに、
「ここに石碑って作れる?」
と聞くと、
「私一人でも石碑ぐらい作れますわ。
娘達が居れば巨大な陛下の石像でも作れますわよ。」
と言って、近くの石を運び〈接着〉のスキルでモニュメントを作り始める。
お手伝としてクマ五郎呼んで、俺は、ガタ郎に祭り実行委員会へ、
「年に一度捧げ物が並ぶから分けてね。祭りは終了でお願いします。」
との伝言を頼んだ。
アリスの指示の元で、俺もアイテムボックスを使いクマ五郎と岩を集めたのだが、現場に戻ると、アリスは何故かハート型のモニュメントを作っていた…しかも硬化スキルまで使い頑丈なのを…
『まぁ、良いか…』
と、アリスの作品の完成を待って彼女を送喚してから、村から村長を連れてきて、
「オーガ達が祀ってくれていた土地神様の石碑(嘘)です。
年に一度、秋の実りをお供えして下さい。
それと、あの三人には、真面目に頑張り、お供えをしている限りは土地神様の使いは遊びに来ないが、また悪さをしたり、土地神様の使いを苛めたら…」
と脅かしておいて下さい…と伝えておいた。
すると村長はモニュメントに手を合わせ、
「今回は残り少ない保存食でお許し下さい。
明日にでもあの馬鹿者達に運ばせて謝らせます。」
と祈ると、いつの間にやら村長を取り囲む闇の一族のリーダー達…
俺にとっても心臓に悪い演出だ…
すると闇の一族は、
『お疲れ様でしたぁ。』
と方々に帰っていき、第1回お仕置きカサカサ祭りは閉会した。
その後、闇の一族を神の使いとして崇める村が誕生したのだが…別に良いよね…
そして、それからは平和な日々が過ぎ、冬本番の雪がチラチラと降る昼下がり、母屋では、ノーラ母さんと、オーガのおばちゃんのトマリさんと、マリーが種族を越えた、育児トークを楽しみながら縫い物をしている。
いくら、体が頑丈なオーガと云えど、真冬にパンイチとかは見てるこちらが寒いと、沢山買ってきた布を使い、フード付きマントをはじめ、シャツやズボンを作ってもらっているのだ。
鬼娘のルルさんは、けしからん革のヘソだしタンクトップから、農家風の動けるズボンとシャツスタイルでライラさんやシェラの牧場や鳥小屋の手伝いをして、バイト代として、卵やミルクをもらって里に届けている。
誰の趣味かは知らないが、ザ・赤鬼のドテは、素肌に短パン吊りズボンの何とも言えないスタイルで牧場の手伝いをしている…
何故かドテチンは馬魔物に大人気で、ライラさんと、シェラのテイムしているトラベルホースの世話を頑張って、お駄賃にコルトさんの焼き菓子工房のクッキーの訳ありのヤツを貰って帰っている。
オーガの里長のゴルグさんは、仲間数人と裏山奥のパトロールと狩りをしていて、新たな温泉を見つけたらしく、「大型の仲間も入れる温泉を作りたい」と相談されて、大工のネルソンさんとアンリ達とミノムシ魔物の土木チームと山の裏側に大きな露天温泉を作りに行っている。
アンリ達の接着スキルは土や石だけではなく、木と木であっても同じ素材をくっつける効果なので、大工仕事に持ってこいだし、ゴルグさんには、俺の魔鉱鉄の斧を貸してあげており、
草木特効の大木斬が付与師のペアさんにより付与されているので、魔力を流すのみで発動する。
これにより伐採と製材が楽に出来るので、ネルソンさんの提案で、
「もう、テントをやめて家を建てたら?」
となり、温泉が出来たら近くの山頂の池付近をアンリ達が整地してオーガ村を新たに作る計画になった。
ゴルグさんがサクサク切れる木材に楽しくなっちゃって、アンリ達が引っこ抜いて乾かしていた木材を次々に板材にしてくれているので、新たに購入した草原地帯の牧場の柵も築城蟻達が穴を掘り丸太を刺して接着スキルで板材を貼り付けて作っている。
そして、予想外だったのが、裏山に鉄鉱石が取れるポイントがあり、オーガの鍛冶師のジャングさんと言うかなりガタイの良い胸毛がたくましいおじちゃんが鉄を石釜戸で精錬して、絵に書いて説明すれば大概の物は作ってくれる。
ジャングさんは、
「金棒や矢じりなどの武器しか作ったことがないが、建物の部品は複雑だが面白い!」
と、言って拠点の鍛冶師として頑張ってくれている。
なんとも良い人材が越して来てくれたものだ…
俺としては異種族という事で、少し心配していたが、オーガの皆は各自興味の有る部門で力を発揮してくれて、拠点の人材が厚くなった。
蜂蜜酒工房の力仕事や農業に興味のある者もいて、農具をジャングさんにおねだりして山で畑を始める者もいる。
長のゴルグさんに、
「商会に入って働いてくれたらお金を払うよ。」
と提案したら、土地を借りているし、食材や、知識をくれるので使いどころの無い金より、このままが良いとのことだったので、お言葉に甘えて、製材業の対価として、ゴルグさんに蜂蜜酒を渡すと、
「オレは、コレの方が嬉しい!」
と喜んでいた。
オーガさんのお賃金は現物支給と決まったが、いくら冬とは言え、いつまでも皆とキャッキャと暮らしていてはダメだ…
ある意味、正しい冒険者の姿かもしれないが、夢の狩人パイセン路線は、俺としては老後の楽しみとしてとっておきたい。
ということで、外は寒いが明日からまた冒険者に戻るか!…と従魔厩舎に皆の様子を見にいくと、ミヤ子やマサヒロは少し寒そうにしているが、ガタ郎やコブンはこの寒さでも案外大丈夫そうだし、クマ五郎とクマ美とセミ千代は、寒さ対策か一ヶ所に固まって卵を温めている…
えっ?!!卵!!?
「クマ五郎、クマ五郎!卵、タマゴ!!」
と、騒ぎながらバスケットボールサイズの卵を指差す俺に、
クマ五郎は、ノソっと顔だけ起き上がり、
『クマ美ちゃんとぼくのタマゴなんだなぁ』
と説明してくれたが…
えっ、クマ…タマゴ?
クマ五郎とクマ美が大人の階段を…どこの預かり屋に預けられた?!などと取り乱したが、よくよく考えれば、二人ともパートナーを探していたから…当然…なのか?…それにしてもタマゴ…何故…
そして、セミ千代までタマゴにしがみついて、
『お姉ちゃんになるんだ~。』
と楽しみにしている?!と謎は尽きないが、どう考えても、
『これは暫くクマ美達はお休みだな…』
との結論を出す俺だった。
しかし、虫とクマの融合体のクマ五郎とクマ美はタマゴで増えるんだね…と、タマゴを眺めていると、ノーラ母さんが、
「ポルタく~ん、お客様よ~!」
と呼んでいる…まだまだ、この状況をしっかり飲み込めていないが、とりあえず頭を冷す為にも
「はぁ~い!」
と返事をして母屋の玄関に向かった。
するとそこには、馬で走って来たのか、白い息をモウモウと吐き出し、フウーフウーと息を切らしている馬と、肩口に雪を乗せた騎士が立っていた。
騎士のお兄さんは鞄から巻き紙を出して俺に広げて見せながら、
「皇帝陛下からのお言葉であります。
(ポルタよ、すぐ来い!!)
以上です。」
と…良くまぁ、ここの場所が分かったな…と、感心するやら、驚くやら…
しかし、急なお呼びとは…カーベイル様のお灸が効いて、俺に愚痴の1つも言いたくなったのだろうか?…それならば良い…
クックック、ヨシ、それならば、行ってやろうじゃないか…
俺が、年上好みとか姫にフラれたとか、在らぬ噂をばらまいたツケを払って貰う時が来たのかもしれないな…皇帝陛下よ!
教えてやる…俺は、法と常識の範囲ならば、上も下も真ん中もストライクだ!!と…
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