第47話 ヨルドの街の防衛準備
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パーティーの翌日、フェルド王国の王都フェルドナから北に向かう俺の馬車の前後にぞろぞろと馬車や騎馬隊の列が出来ている。
これは、今から向かうヨルドの町を守る侯爵様も討ち死にし、現在、防衛する筈の兵士達も壊滅状態で、かろうじて無抵抗を貫いた村人が住んでいるらしく、そこをまたワルド王国が攻めて来るとの情報が先日入ったので、臨時の領主として宰相のドノバン様と、王都にいる王国騎士団の1/3を引き連れた騎士団長のザックさんが国境の町を守る為に大移動している旅の列と一緒にヨルドの町に向かっているからである。
ヨルドの町は王都フェルドナから5日、地図的にはフェルド王国の王都に一番近い国境線の町だ。
本来ならばヨルド先には巨大な木々が生い茂る魔の森という魔物がうろつく空白地が天然の防波堤の役割を果たしてくれ、それを挟んで、ワルド王国の領地になる…
次回攻めて来るのが約2ヶ月後の予定でそれまでに、防衛ラインを構築し、町を可能な限り復興させるのが目的らしい。
戦争が始まる前に逃げれるかな?…俺…
そんなこんなで、馬車で移動する事5日、俺だけならばもっと早く着いたかも知れないが、これは、騎士団の皆さんや宰相様と来て正解だったと心底俺は感じてしまう…それ程までにヨルドの町は見るも無残な状態だった。
一部の区画以外の建物は魔法か何かで打ち壊され、残った建物で肩を寄せ合い暮らしている住民達…
畑は荒らされ、家畜は敵国占領下で食糧として奪われ、食糧も乏しい状態だった。
住民を守る為の高い壁も崩れ落ち、今年は少ないと云えど、魔の森からの魔物に怯える毎日である。
そんなボロボロの町を生き残った数十人の兵士が何とか守っている極限状態だった。
昨年の秋に停戦して、フェルド王国の建て直しをしたのちにヨルドの復興をする予定だったらしいが、夏前の現在の状況を見て素人目にも、
『復興どころかこの町は、夏の終わり迄もたないかもしれない…』
と思えた。
俺の持ってきた食糧は、フェルド王国が買い取り、炊き出しに使われている。
俺はヨルド迄の運搬役なので、もう帰ってもいいのだが、目の前には、親を失くし何とか必死に生きる子供達、子を失くし、悲しみを噛み殺しながら懸命に生きる親達…
店を、畑を、家畜を失い、途方に暮れる住人達と、2ヶ月後に再び地獄を味わうなど可哀想過ぎる…
『何とか助けたい!』
という気持ちになっている。
フェルド王国は、どこの町も戦争で疲弊しており、彼らの受け入れを断り、行き先もない状態…ある意味、町ごと(孤児)みたいなもので、孤児というなら俺の身内だ。
よし!やってやる!!と、決めてはみたものの、拠点ならば築城蟻のアンリ達に壁の補修や、畑を耕し、ジャガイモでも植えるのを頼めるが、従魔召喚で呼べるのは、アンリのみで、一族は呼び出せない…
どうしよう?と悩んでいると、影の中から、
『旦那様、こっちで集めれば良いんじゃないんでやんすか?
壁を直せるヤツ集合~って呼ぶんでやんすよ。』
と、ガタ郎が提案してくれた。
『よし、やってみるか!?』
となり、流石にいきなり虫魔物を寄せ集める訳にも行かず宰相のドノバン様と、騎士団長のザックさんに話を通してから助っ人の募集をかける事にした。
「虫魔物を呼び寄せて使役する。」と俺から聞いて、半信半疑の二人と、住人や騎士達が見守る中で、俺はスーっと息を吸ってから、
「壁の補修が出来る者で、我々に協力する者!
しゅうごぉぉぉぉぉ!!」
と、叫ぶ。
シーンという静寂が訪れ、住民達からの『可哀想に…』という視線が痛い…
しかし、ほどなく遠くからカサカサ、ザワザワと移動してくる音が聞こえる。
数千の魔物の群れが大行進して近づいてくるのだ。
半分崩れた壁の上から見張りをしていた兵士の
「魔物多数!」
との報告に腰を抜かす住人と、武器を構える騎士団の方々…
凄い迫力の虫の大群に、勿論、俺もしっかりブレイブハートを漏らしていた。
数えるのも嫌になる蟻の軍勢に、色々な虫達も集まっている。
壁の際まで集まった虫達は、ビシッと並び俺に頭をさげ、先頭の蟻が、
「我が王よ、ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます。
我らは築城蟻の一族、2000余り、お呼びにより馳せ参じましてございます。」
と話した。
後ろで、騎士団長のザックさんが、警戒しつつポソッと
「喋るってことは女王個体か…初めて見た…」
と呟いてる。
俺が、女王蟻に、
「君達、俺の配下に成ってこの町の修復を手伝ってくれない?」
と頼むと、女王蟻は、
「御意のままに…」
と再度頭を下げる、
俺は女王蟻に手をかざし、
「アリス!!」
と命名した。
するとアリスの一族が全員光出して、一回り大きく、そして真珠のような白い色に変わる。
腰を抜かす宰相様を横目に、
アリス達がビシッっと並び、
「陛下のお力により、築城蟻から城蟻に進化致しましたこの女王アリス、一族をあげて陛下の為に働きます。」
と忠誠を誓ってくれた。
そうか、採用前から築城蟻だったもんな…正規採用したら強くなるよね…でもシロアリって、食べて潰す方では?…と思いつつ、俺は、
「よろしく、アリス。
アリスの一族も、よろしく!」
と挨拶をすると、アリスの後ろに控える蟻達もギチギチと顎を鳴らしながら『はっ!』と気合いの入った返事をしてくれた。
それから俺は、蟻とは別の集団に移る。
先頭の集団には角が三本の金色の、マイクロバス程もある、外国のカブトムシっぽいのと、馬ぐらいあるカマキリに、どこかで見たことのある馬鹿デカい百足だ…
カブトムシが、
「陛下、私はこの森を守るヌシの一匹です。
陛下にお願いがあり、こうして私の仲間達を連れてまいりました。
こちらに居るのは我が根城を守る兵士長と旅の強者で根城の防衛に手を貸してくれている者達です。」
と説明してくれた。
デカいカマキリは、
『陛下、防衛隊長をしております。斬首カマキリでございます。』
と頭をさげると、影の中から、ガタ郎が、
『首チョンパ仲間でやんす!』
と嬉しそうに飛び出した。
…いいのか?そんなカテゴライズで…と心配していると、
猿が運転するミニSLぐらいの大きさの百足が、
『殿!ガタ郎様、お久しぶりでございます。』
と、俺達に頭をさげた。
おぉ、やっぱりウチから武者修行にでた百足だ!と理解した俺が、
「修行は順調?」
と聞くと、百足はプルプル震えて、
『殿が、殿が我の事を覚えてくれておったぁぁぁぁ…』
と泣き出した。
斬首カマキリさんも
『良かったなぁ…』
と、もらい泣きしている。
うん、仲良しなんだね…とは思うが、しかし、ビジュアル的には二匹が抱き合って泣いている様は、昆虫の取っ組み合いに見える。
『これは感動的なワンシーンなんだ…キショいが、我慢!…頑張れ俺!!』
と、軽く痒くなる首元を気にしながら、まだ抱き合う二匹に、
『あの~、そろそろ話を進めたいんだけどなぁ~…』
と、思いつつ何か気配をかんじて後ろを見ると、何故か住人達が俺を拝んでいる…カオスだ…
そして暫く俺達人間と、虫チームで会議をしている…
魔の森にいる5匹のヌシの一匹である蟲のヌシの喋るアトラスっぽいオオカブトの話では、
「最近、住み処にしている大樹の近くで、人間が嫌な匂いや、我慢出来ない音が出る道具を設置して住み処から我々を追い出そうとしております。
どうか、お力をおかし下さい。」
と…騎士団長のザックさんは其を聞くと、
「魔の森を進軍する為の魔物避けの魔道具だな。」
と答えてくれた。
前回の戦争から、その魔道具が使われていたらしく、オオカブトさん達は二年近く自宅の隣にゴミ屋敷と騒音おばさんがご近所に住んでいるみたいなストレスを感じているらしい。
絶えず、嫌な音と嫌な匂いがするので、仲間と引っ越したいが、魔の森の決まりで、ヌシはよく解らないが決められた大木からの住み処は変えれないらしい。
住み分けが決まった森でヌシが引っ越せば、要らぬ軋轢を生んでしまう…のかな?
まぁ、そんな訳で困りに困って、俺を頼って来たらしい。
「う~ん。」と考えこむドノバン様は、
「森の中で引っ越せないなら、ヨルドの町引っ越して来たらどうです?
我々を襲わない、我々も虫魔物を害さない盟約を結んで、ワルド王国さえ徹底的にやっつければ、魔道具も高価な物だ、持って帰るだろう。
虫のヌシさんの根城はそのままにして、ヨルドの街に外城を作ればいい。」
と、提案してくれた。
すると、アリスが、
「我々城蟻は穴堀りと接着のスキル以外に〈硬化〉というスキルも御座います。
地下に虫のヌシとその仲間の城を築き、そこで出た土や石を使い、地上に壁のや町を作れます。
土で作った壁でも、接着と硬化のスキルで普通の岩にも負けない壁が出来ますわ。」
と、意見をだしてくれた。
では、作戦開始となり、アリスはチームを3つに分けて、地下帝国班と、築城班に、農業班で作業を始めた。
蟲のヌシグループのお仕事は、森からの敵や魔物の警戒と警備。
ドノバン様はアリス達と協力して村人と食糧の生産を開始してもらい、
ザックさんは壊れた建物の片付けと、使えるものや、使える素材を分別する作業をしてもらう。
そして、約一ヶ月…
ようやく町が息を吹き替えしてきた。
壁は以前よりも厚く、硬く、高くなり、
要塞まで、作られていて、下手な砦より堅牢だ。
町は、無骨な土の建物が建ち並び、以前よりも快適な避難所が完成した。
住人からは、
「このままで構わないから、もっと建てて欲しい。
この建物は夏なのに涼しい!」
と好評だ。
そして、地上の建築材料は全て、地下から出た物で、その分町の地下には大空間が生まれた。
地下の出入り口は町周りの空堀の奥で、マイクロバスも停めれる大駐車場の様な大空間に虫達の楽園が完成していた。
アトラスっぽいオオカブトを中心に、壁際に丸太が並び、キノコが栽培されている。
そして、地下にはアリスの新しい王国も併設された。
下手をすればヨルドの地下には、地上の町よりもデカい虫の世界が広がっているのだ。
地上では、アリスの一族が耕した畑に、ジャガイモを目一杯植えて、もしもの籠城戦にそなえている。
そして、思いの外早く壁が完成したアリスとドノバン様とザックさんは何やら悪巧みを開始して、そして、新たに俺の従魔になった将軍ムカデのタンバもこの三人に合流して、
「街にヌシの出城を作っていただいたので、どうでしょう森にこの町の出城をつくりませんか?」
とアリスが提案して、この町の最高責任者であるドノバン様もノリノリで、
「では、城からバリスタを運ばせておるのでその出城に設置しよう。」
と楽しそうだ。
騎士団長のザックさんは、ザックさんで、
「アリス殿、出城の空堀を二枚底にして、梯子をかけて乗り越えようとした奴らごと落とす罠とか出来ますかな?」
と聞いて、アリスも楽しそうに、
「出来ますわよ。」
と答えて、タンバは、
「では、出城の防衛と、罠への追い込みは我ら蟲衆におまかせ下さい。」
などと言っている…
ちなみに、将軍ムカデのタンバ君は、〈統率〉というスキルと、〈号令〉というスキルがある甲冑の様な質感の体に真っ赤な足のデカいムカデだ、大きさはお猿のSLのままだが、スピードは三倍ほど早く成った。
統率のスキルは配下に〈身体強化〉と〈連携率上昇〉を与え、号令は配下に念話で指示をだせるスキルだ。
あと、タンバの名前は、昔やったゲームの、平家の侍が、魔界の源氏を討魔するヤツの丹波のマップのボスを思い出したからだが二次元のムカデもかなり怖かったのに、実際の彼は人柄だけが命綱でビジュアル的には漏れーブハートの対象である。
そして、現在、タンバは蟲のヌシの兵士300を配下として借り受けている。
普段は300人将だが、有事の際は、アリスの一族も一時的に配下にして、2000を超える大軍勢の将軍となる。
城攻めは三倍の兵士がいるらしいが…この要塞の様な町を落とすには、兵士が一万居ても怪しいかもしれない。
罠だらけの出城に、統率された強化昆虫兵士…それと手を組むフェルド王国騎士団…
まぁ、最悪ミヤ子に敵の本陣に粉を撒いてもらったら敵国に大ダメージは与えれる。
四人の悪巧みの様な作戦会議と、罠の増築は繰り返されて、開戦までに、迷路の罠や竹槍の仕込まれた落とし穴など…
いきなり攻めてくるワルド王国が悪いのだが、少し気の毒に成ってきたよ…
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