第45話 商会の新商品
ポプラさんの勢いに押され、商業ギルドに出向き、プリンの登録と、クレストの街で店を購入する事になる。
ここでようやく効果を発揮するのが、Bランク冒険者の肩書きである。
そう、金だけ有っても街で家は買えない…
誰か偉い人からの紹介状か、その本人の実績が無いと駄目なのだ。
店舗付きの中古物件を手に入れ、プリンのレシピ登録を済ませたのだが、またローンを組む事になってしまった。
『これは、春には出稼ぎに行かないと…』
と、焦る俺を他所にドンドンと話はまとまり書類へサインしていく…
プリンのレシピは当面は非公開として、弟子のみに伝承していく方式をとる事になった。
つまり、教えて欲しい人は我が家の元冒険者、マイト君、ジム君、シシリーちゃんに習う事としたのだ。
レシピを公開すれば少しお金は入るが、食べ物で入る特許使用料よりも、我が商会はやる気のある職人さんと知り合いになる事の方が大切と判断したのだ。
それにはレシピを公開してしまうと人脈は広がらない…色んな街に知っているお菓子職人がいた方が良いからね…
続いて、陶芸工房に行って、プリン用の陶器を注文する。
ポプラさんに、
「あの~、先程、ローンを組んだばかりですが、お金はありますでしょうか?」
と心配になり聞く俺に、彼女は、
「何言ってるの、ローンを返す為にプリンを作りまくるのよ!」
と…ポプラさんのこの情熱はどこかやって来るのでしょう?
陶器工房で器を選ぶポプラさん…
この間のパーティーでのプリンは、一般的な軟膏などの入れ物の小さい壺を購入して試作していたが、見た目が軟膏に見えて、ポプラさんは嫌だったらしく。
「あんなに美味しのに、一瞬、傷軟膏を食べてるみたい…と思って台無しです。」
と言って、ウチ蜂蜜販売用の陶器のポットの小さいサイズを注文していた。
俺としては、軟膏壺と蜂蜜壺の違いはあまり無いように思えるが、繊細な女性からは洗面器とバケツ程の差があるのだそうだ…
手のひらに収まる湯飲み程度の壺形で、簡単な蜂のマークと、ファミリー商会という文字が刻印されている、可愛らしい陶器のプリン用ポットを特注する事になり、一つ大銅貨2枚だが、ポプラさんは
「2000個お願いします。」
と言っていた。
一瞬『そんなにいる?』と思ったが、ポプラさんは、
「このプリンポットは可愛いから欲しがる人もいるはずです。
数が減る事も予想しないと…
プリンの価格にポットの代金を上乗せして、純粋にプリンが食べたい人は、プリンポットを返却すれば、大銅貨1枚を払い戻す方式にすれば、壊して返金して貰えなくなったら嫌だから、
皆プリンポットを大事に扱って、壊さない様にします。」
と説明してくれたが、もう、ポプラさんに任せようと、考える事を止めていた俺だったが、
「プリンの代金に大銅貨2枚上乗せするから、返却したら大銅貨2枚のお返しじゃないの?」
と、素朴な質問をすると、ポプラさんは、
「お金を返したけど、少し欠けてたり、見えにくいヒビが有ったりしたら次回は使えないし、
洗って、再度使えるか確認する人件費ですよ大銅貨1枚は…
それに器も込みで販売してしまうと、プリン好きの家に器が山になってしまいます!
それに、返却しに来たお客様がまたプリンを買って帰るかもしれないじゃないですか!!」
と、力説した…
本当に商会の経理をポプラさんに任せて正解だったよ…俺は、そこまでプリンに向き合えなかったから…と考えながらもさらに熱を帯びるポプラさんは、少し見映えの良いカップを50個ほど、その場で購入してから陶芸工房をあとにした。
俺が、
「最後に買ったあのカップはなに?」
と聞くと、ポプラさんはニヤリと笑い、
「フフっ…宣伝の為のプリン用です。」
と言っていた。
『宣伝用…何の事だろう?
試食とかの実演販売にしてはカップが大きいし…』
等と考えながら、最後は、ダンジョンショップで、時間停止付きのマジックバッグを2つと、生活魔法のクールを数本買って帰る。
クールは、洗面器程度の水を一撃で薄氷がはるほどキンキンに冷やす魔法で、魔力の量にもよるが、連発すれば氷も作れるという、風邪の看病などにもってこいな生活魔法であり、夏場はタライに水を張りクールで冷して足を浸けるという貴族のお嬢様や、食材の管理に料理人が買い求める便利だけどあまり冒険者向きではないスキルである。
ダンジョンショップのニールさんも、
「料理人ぐらいしか買わない不人気スキルを…そんなに?」
と聞くので、俺は、
「料理も始めたんですよ。」
と答えておいた。
拠点に帰り母屋で、プリン担当の三人にクールのスキルスクロールとマジックバッグを2つ渡して、俺は、
「プリンを冷やす生活魔法です。
冬場なので小川の水で冷してましたが、クールの魔法はさらに冷たいので、プリンを冷す時間も短縮できます。
マジックバッグは、新たに出来る店の在庫用と、運搬用で、拠点で作って、店まで移動して、店のマジックバッグに移しかえて運用します。
これで、いつでも出来たて新鮮、冷え冷えのプリンが提供できます。
店は春にオープンを目指として、プリンポットの納入も来月だから…今は…」
と、スキルなどの説明の後で、これから店のオープンまで、三人の仕事は何を頼もうか悩んでいると、ポプラさんが、
「会長、三人を暫くお借りして構いませんか?」
と聞いてくるので、俺が、
「当面は、やること無いから大丈夫だけど…」
と、答えると、何故かノーラさんが、
「やった。
ありがとうポルタ君、これで、ロックウェル伯爵様に恩返しが出来る!」
と喜んでいる。
なんじゃらほい?…と、首を傾げる俺に、ノーラさんは教えてくれた。
何でも、冬から春まで、お貴族様は社交のシーズンらしく。
パーティーに明け暮れるみたいだ。
どこの貴族も、パーティーのメニューに頭を悩ませているらしい…
そういえば、確かに、秋から冬に高難易度の食材の依頼が冒険者ギルドに出されていた。
エクストラポーション以来、
ロックウェル伯爵様にお茶に誘われたり、贈り物にロイヤルハニーの蜂蜜を届けたりと、ノーラさんは何かと伯爵様達と交流が有ったらしい。
本当は俺も呼びたかったらしいが、不在がちなので仕方なくポプラさんと一緒に、お茶しに行った時に、パーティーのメニューに困っている…と相談されたらしい…
そこで、プリンの出番と成った訳か!なるほど、陶芸工房で購入したカップ50個はその為か…と納得した俺も、
「では、ロックウェル伯爵様ご夫妻には良くして貰ったから全力で恩を返すか!」
となり、前世の記憶を頼りに、クレストの街で買える食材で幾つかの料理を作ってみることにした。
まずは、お肉ダンジョンの恩恵で肉は各種豊富だったので、この世界であまり見たことが無いトンカツと鳥の唐揚げを試作してみた。
正確には豚ではなくて、猪系の魔物肉だけど…実物と、レシピをロックウェル伯爵邸の料理人さんに渡せば何とかなるだろう。
レシピは門外不出、ロックウェル伯爵のお家の味にすれば、パーティーメニューの悩みが一つ減るし、揚げ物で稼ぎたくなったら、ロックウェル伯爵様に一枚噛んで貰って仲間になって貰う手もある…と、色々とやるなかで少し楽しくなってしまった自分がいた。
数日後、プリンを届けに行くノーラさん達にトンカツと唐揚げを渡して送りだした。
ロックウェル様ご夫妻に喜んで貰えるといいな…と考えながら、俺は、ローンの返済の為の算段に入る。
社交のシーズンが終わり、春も終盤、マイト達、プリンチームの店〈蜜壺屋〉は、春先のオープンから大盛況で、オープンして昼には店じまいになってしまう。
ロックウェル伯爵のパーティーで振る舞われた客寄せプリンの効果は絶大で、パーティーに参加した貴族は勿論、その貴族が他のパーティーで食べた衝撃を自慢したりと…現在の我が家のでの食材の自給率やプリン職人等の状況から、1日300個の限定商品で、1つ大銅貨7枚とかなり強気な設定だが、毎日どこかしらのお貴族様の家の方々が買いにきている。
本当は一般の方々のにも食べて欲しいのだが…とポプラさんに相談したところ、既に色々考えていたようで、蜜壺屋の隣の紅茶専門店もウチのファミリー商会の傘下に入りたいとの相談が有ったらしく。
近々、紅茶を楽しめる甘味処としてリニューアルする予定らしい。
俺は、
「紅茶の味を邪魔しない甘さひかえめのプリンを出した方が良いし、一回り小さくして安く出来るね。
それならば、壺で無くても、型で蒸しても良いし…クマの顔のシルエットみたいに凹ませた器でプリンをつくって一人用の小さな蜂蜜壺からお好みで甘さを調節出来るプリンでもいいな…もう、いっそ、蜂蜜クッキーやパンケーキも…」
と、妄想を膨らませブツブツ言っていたらポプラさんにドナドナされて、レシピと構想を説明することになった…実際にパンケーキやクッキーを作らされ味見をしながら…
プリンを食べてからポプラさんは甘味系の新事業に熱心で、かなりのやり手だである。
マスオさん状態からやっと脱却したパーシーさんだが、ファミリー商会の副会長と言うよりポプラさんの旦那的なポジションに戻りつつあり影が薄くなってしまった。
パーシーさんより弟のヘンリーさんの方が営業などで訪れる他国の貴族にも顔が利くし、ポプラさんに限っては、ロックウェル伯爵婦人のローゼッタ様とプリンを食べたい貴族のお茶会に呼ばれる度に客寄せプリンをローゼッタ様への手土産としてポプラさんが納品に向かい、ローゼッタ様から相手の貴族に紹介されるので、アルトワ王国内においては国王一家にまで顔が利く、
益々影が薄くなるパーシーさんに、俺が、
「愚痴なら聞きますよ、俺が成人したら、一緒に酒でも飲みましょう。」
と誘うと、パーシーさんは、
「会長?
ポルタ会長はもう15歳で成人でしょ?」
と言われた…
忘れてた…コッチは15歳で成人だ…
ならばとパーシーさんとその夜、酒を酌み交わす事になり、久しぶりの酒を飲んだのだが…
酒より、胸焼けがするほどパーシーさんの切ない苦悩を聞かされた。
しかし、そこで閃いた…
と云うか、パーシーさんの話から逃げ出したくて、現実逃避してたら思いだした。
蜂蜜酒を…
蜂蜜1に水3を混ぜて、暖かい所に置いて置けば出来るヤツだ。
蜂蜜は売るほどあるし、水も豊富、暖かい場所は温泉を使えば年中作れる!
翌日、酒の抜けたパーシーさんと相談したら、パーシーさんは
「蜂蜜酒王に俺はなる!」
と、どこぞの海賊みたいなセリフで、やる気になっていた。
しかし、事業拡大に伴い、商会の懐事情が心配になる…アゼルとメリザを誘って冒険者稼業に戻ろうとしたのだが、ワイバーンのサーラとノリスが飛べる様になったが、まだ、長距離は飛べないからと二人には遠征を断られた。
二人は近場で狩り生活をして、従魔召喚を手に入れるのが目標らしいが、多分直ぐだろうな…目標まで…
と言うことで、俺一人で出稼ぎに行くことになったのだが、冒険者ギルドでエイムズさんに暫く出稼ぎに出ると言ったら、エイムズさんは、
「前に言っていた、戦争してる北の王国だが、戦争は終わったらしいが、兵士の数も減って魔物が倒せないし、食糧も少ないらしいから、ポルタのアイテムボックスに穀物を詰めて運んで、ついでに危険度の高い魔物を倒して来たらどうだ?」
と言われたので、今回の遠征は帝国の北の国〈フェルド王国〉にした。
久しぶりのソロ遠征だが、従魔も沢山居るから大丈夫だろう…と俺は、クレストの街で、大量の食糧を買い込み北に向かい旅に出た。
思えば、北のフェルド王国の帝国に所属しない隣国との戦争に向かう奴隷兵士達を乗せた奴隷商人の馬車を、ゴブリンキングの一団が襲って以来の因縁がある国ではあるが、一度も行った事がない。
普通ならば一ヶ月近くかかるらしいが、昼間はクマ美、夜間はクマ五郎と交代で、見張りもガタ郎とミヤ子の交代制にして走り続けて半月もせずに、フェルド王国南の入り口の町サテラに着いた。
比較的戦争のダメージも無く、普通な雰囲気だが、冒険者ギルドで情報を聞くと、フェルド王国の王都までは、まだ大丈夫だが国境に近い北の町ほど被害が深刻で、いきなり隣国に攻め込まれ、フェルド王国軍が押し返して領土を守った形だが、行きも帰りも戦場になった町や村は大変な状態らしい。
今回の旅の目的地はフェルド王国の北、食糧も乏しいと聞く国境の町を目指す事にした。
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