第37話 あの時のお礼
ノーラさんが、パーフェクトノーラさんになり、家事に、育児に頑張ってくれている。
これで、心配事が一つ減って、遠征にも出れるようになったが、困った事がもう一つある…
それは俺が、遠征に出ると長期間馬車が無くなる事だ。
田舎で買い出しに出られ無いのはツラい。
お隣さんに言えば貸してくれているかも知れないが、あちらも果物の出荷などに使うので、ちょくちょく借りる訳にもいかない。
最悪、クマ五郎は送喚でこまめに返せば良いが、馬車自体はどうともならない…
『馬車だけはもう一台作ろうかな?』
となり、クレストの街の商業ギルドに馬車の相談の為にクマ五郎と馬車で向った。
エクストラポーション購入の後なので、予算は大丈夫かと思われるだろうが、フッフッフ…実は大丈夫なのです。
なぜなら、紹介状を持った俺を投獄した件で、正式にアルトワ王へ謝罪としてガイナッツ王国から色々あった中に大金貨30枚もあり、アルトワ王から、
「その少年の為に使ってやれ。」
と、ロックウェル伯爵様が、預かっていたらしい。
しかし、伯爵夫妻は冒険者だった俺の居場所も解らず、困っていたところダンジョンショップから、俺が、現れたとの報告があり、エクストラポーションのオークション依頼が舞い込んできたそうで、
「これだ!」
とばかりに意気込んでいたらしい。
「本当なら、大金貨30枚迄で決着を着けて、預かった70枚に手を付けずに返したかったが…スマン」
と、残った分をローゼッタ様が、「バカな甥がゴメンね…」と、少し色を着けて渡してくれたからである。
最高に粋だ…もう、あの皇帝一家と取り替えてこの夫婦に国を統治して欲しい…
とまぁ、そんな訳で30枚以上の大金貨が現在手元にあり、馬車を新たにお願いしても十分余るといった訳なのである。
商業ギルドからの連絡で、鍛冶師の親方と、木工ギルド経由で木工職人の親方に来てもらい、ゴング式・衝撃吸収システム付きのキャンピングカーみたいなの客室つきの馬車を注文した。
鍛冶師の親方は商業ギルドの外にある実際の俺のサスペンションつきの幌馬車を参考にして、馬車の車体を作るらしく、親方達は、馬のでは無くて、クマが馬車を引っ張っているのに少し驚きながらも、
「ギルドに有る説明書が難し過ぎて解らなかったが、なるほど…これなら他の奴に説明出来る…」
と、鍛冶師の親方は各部品のサイズを計っていき、続いて木工職人の親方に、馬車の客室について色々注文を着けていると、
「ほうほう、…で、この椅子と椅子の間に背もたれを外してはめ込むと…ベッドになるのか?…斬新だな…」
などと、親方もノリノリになり、商業ギルドの職員さんも一緒に『キャンピングカーとしての特許を取ろう!』となった。
「アイテムボックス持ちの冒険者ならば、焚き火調理する必要もテントを張る必要も無いからこの馬車があれば、家すら要らなくなりそうですね。」
と商業ギルドの職員さんもノリノリで様々な手続きをはじめていた。
しかし、馬車の完成に1ヶ月以上かかり、旅はもう少し先になるので、もう一度か二度バラスダンジョンで採掘できそうだ。
鍛冶屋の親方に鉄と魔水晶もゴソッと渡そうかな?…ゴング爺さんに小隊分の鎧を作るつもりか!!と言われた数倍の量がアイテムボックスにあるし…素材を半分量ほど渡しても下の二人の防具を作るのには十分だからと、鉄などを渡すと、
「おっ、こんなに渡されたら、かなり余るぞ…
じゃあ、残った分は買い取らせてもらうから、その分の代金も材料費と合わせて引いておくぜ。」
と鍛冶師の親方が、材料費分を安くしてくれたので、かなり出費をおさえられた。
さて、残ったお金は当面の生活費としてノーラさんに一部は渡すとして、
どうするかな…双子に水魔法でも買ってバラスダンジョンでもう少しミスリルを採掘するかな?…等と考えながら、ギルド通りを入り口へと向かいクマ五郎馬車を走らせていると、
「えっ!ポルタ君!!」
と、名前を呼ばれた。
『クマ五郎止まって。』
と、心の中で指示を出してから、馬車を降りて、声の主をキョロキョロしながら探していると、露店商の女性が俺に近づいてきた。
「お久しぶりです。その節は助けて頂きありがと御座いました。」
と…頭に?を出しながら首を傾げる俺に、女性は、
「今日はガタ郎ちゃんは?」
と聞いてきた途端に思い出し思わず「あっ!」っと声を出した。
彼女はゴブリンの巣からガタ郎が助けだしたライラさんだ!!
俺は、驚きながら、
「ライラさん!!お元気でしたか?!
ビックリしましたよ、あまり女性から呼び止められた事なんかないから…それに髪型とか変わってるし…ガタ郎は今日は自宅待機という名前の樹液を舐めて昼寝する休みの日です。」
と答えた。
ライラさんは、
「フフフッ、そうですね、ポルタさんに初めて会った時は髪も長かったし、裸でしたもんね。」
と笑いながら話す。
『裸』というパワーワードを町中で放ち、集まる周囲の視線に、
「ちょ、ちょっとライラさん、大通りで…」
と、慌てる俺を見て、
「あちゃー、いけない。」
と、おどけるライラさん…
あんなひどい目に遭ったのに、明るいな…立ち直ってくれたのなら何よりだが…と感じながら、俺は、
「で?ライラさんは今は何を?」
と聞くと、ライラさんは、
「夫の残してくれた商品を売ったりして、細々露店商をしております。
夫ならば、こんな状態からでも上手に商売して、稼ぐのでしょうが…駄目ですね…上手くいきません。
夫と二人の夢、ミルキーカウのミルク等を扱う牧場を開くのは無理そうです…
夫と二人でもう少しの所まで来てたのですが…人生って難しいですね。」
と寂しそうにする。
あんなひどい目に遭って、旦那も無くして、夢まで諦めて…露店商でギリギリの暮らし…
この世界の神様はイタズラが過ぎる!
俺はあまりの事に『何とかしたい。』と感じて、暫く考えた後に、彼女に、
「ライラさん、ちょっとお伺いしますが?」
というと、ライラさんは不思議そうにしながらも、
「なんでしょう?」
と答え、俺が、
「ライラさんは、牧場…やってみたいですか?」
と質問すると、ライラさんは、
「えっ?えぇ…私の授かったスキルはテイマーですので、露店商よりはやりたいですけど…」
と、質問の意味も解らないまま答えてくれたのだが、俺としては、
『ナイス!俺の上位互換スキルじゃないか!!』
と、驚く俺は、これは運命だと決意して、
「ライラさん、ウチの家族になりませんか?」
と提案すると、ライラさんは、真っ赤になり、
「えっ、あの、夫と死別したばかりで、でも、えっ、どうしましょう…」
とキョドりだすライラさんに、指笛を鳴らす観客、隣の露店商のおばちゃんは拍手しながら、
「決めちゃいなよライラちゃん!」
と背中を押す。その間も集まる露店商仲間のババァ達を見て俺は、ハッ!となり、
「違う、違うからライラさん、
俺、家を建てたんだけど…それも、牧場風の…
ガタ郎や今、馬車を引っ張っているクマ五郎の為に厩舎も建てたけど、でも、まだ厩舎も母屋の部屋も余ってるから、
やらない?牧場…
俺の孤児院の家族が引っ越してきたばっかりで、人手も欲しいし、弟たちにミルクをガンガン飲ませて骨の強い子供になって欲しいんだよ。」
とやや焦り気味に話すと、ババァ達は「なぁ~んだ…」と、興味を無くしたように何時もの生活に戻った…
しかし、ライラさんは先ほどとは違った意味で真っ赤っかになっていた。
『なんか…ごめんなさい…』
と、まぁ、恥ずかしい勘違いはあったが、結果として無事にライラさんが、我が家の一員となた。
設計当初は召喚されていない間は厩舎で寝起きする予定だったガタ郎達は、思いの外大きく成った母屋で過ごしたりして居る為に、大きな厩舎と放牧地がほぼ未使用だったのだ。
勿体ないと思ってた所に、牧場を買って酪農をするのが夢なライラさんとの再会という、まさしくナイスタイミングな出会いに、ライラさんに拠点の牧場エリアをおまかせすることにした。
牧場には、ミルキーカウという品種改良で大人しくなり、群れで子育てをする牛魔物を近くの農村からオス一頭とメス三頭を購入し、ライラさんにテイムしてもらい、我が家の牧場スペースで飼育してもらっている。
普通の牛ならば、仔牛が生まれるまでミルクは出ないだろうが、彼らは魔物…特殊な性質がある。
群れの誰がが出産したりして子供を見た瞬間に母性が溢れだして、群れの出産可能なメスはもれなくミルクをだして『誰かの』ではなく『皆の』子供として仔牛を育てる。
ひどい時には他の種族の子供や人間の子供を見ても、その性質が発動する場合があるらしい。
ならば、ウチの可愛い子供組を見れば一撃だと思って、子供達をおっきいのから、ちっさいのまでミルキーカウ達に紹介したが、不発に終わってしまった…
ライラさんと、
「最初の仔牛が出来るまではミルクはお預けですね…」
と諦めてガッカリしていたら、クマ五郎がセミ千代を抱えて、
『どうしたんだなぁ?』
と、落ち込んでしまっている俺を心配して、散歩ついでにトテトテと歩いてきた。
四本腕の熊に抱き抱えられた熊っぽいセミを見た途端、メスのミルキーカウ達の乳飲み子センサーがセミ千代をロックオンして、メス達からミルクが溢れだす。
よく解らんが、母性スイッチが入ったんだから仕方ない…「でかしたセミ千代!」と、セミ千代を誉めちぎるという、嬉しい誤算のおかげで、無事に牧場エリアが始動する事が出来たのだった。
当面、新しい時間停止のマジックバッグが手に入るまでは、母屋の食糧保管用のマジックバッグに絞ったミルクを入れて、週に一回程度街に売りに行って、替わりに食糧を買い込んでくる定期便を出す事にしたのだが、先の事も考えて、街に出た時にライラさんに馬車用の馬魔物も購入しテイムしてもらった。
新たなライラさんの従魔はトラベルホースという種類で、タフで1日走っても大丈夫な体を持つ、飼いやすい大人しい性格の馬らしい。
ちなみにライラさんもテイマーのレベルは2で、従魔の枠は10頭、仔牛が生まれる事を想定して枠に余裕を持って、牛4と馬1でのスタートにした。
子供組もお手伝いするし、我が家の収入源が〈蜂蜜〉・〈ミルク〉・〈特許〉・〈冒険〉とだいぶ安定してきた…
蜂蜜とミルク…あと卵と小麦でも生産できれば、お菓子工房もイケるかもしれない…
帝都で見たのだが、お貴族様のお茶会のお菓子…あそこにはまだ稼げる余地があるはずだ。
まぁ、先の話だが…
しかし、最初の目的で残すは裏山の購入だけとなった。
かなり大きな裏山を丸ごと買うにはほぼ未開の土地とはいえ、鉱物資源や狩場などの事もあり大金貨三百枚近く必要となる。
買わなくても良いっちゃ良いのだが、最近牧場周辺の森の虫魔物の密度が濃くなった気がするので、内心ヤバイと焦っているのだ…
マリーや、ハニー達も張り切ってコロニーを増やしているし…
まぁ、あちらは蜂蜜の生産量が上がるから良いのだけれど…
しかし、その他の虫魔物が集まり、裏の森は虫過密エリア…俺にとっては魔境になりつつあるので、もう、ひたすら頑張って、広大な土地に散らすしかないのだ…
あと、商業ギルドの職員さんの話では、なんと裏山には温泉が有るらしいので、天然の温泉に浸かりたいので是非とも欲しいのだ。
コッソリ浸かりに行っても良いが、どうせならば購入して、キッチリ整備して、誰に文句を言われることなく温泉を楽しみたい!
となれば、金を稼ぐなら、Bランク冒険者になれば、やっと一端の冒険者で、割りの良い指名依頼などで副業が無くても大金貨百枚なんてすぐ稼げる様になるらしい。
まぁ、夢の狩人の皆さんからの話だが…
確かにあの人達は、秋の終わりから春先まで働かずに酒盛りしかしていないが、普通以上の生活をしているし…妙な説得力がある。
副業が好調な俺はがBランク冒険者になればほぼ無敵なはず…生まれて初めて尊敬できる母さんに楽をさせてあげたいのだ。
とりあえず、馬とマジックバッグがあれば、街まで買い出しとミルク販売は可能だからアゼルとメリザを連れてバラスダンジョンに潜ろう。
ミスリルが大量に手に入れば、二人の装備を新調出来るし、俺の防具をミスリルにランクアップ出来るかも知れない…
二人のCランク昇格は装備が整ってからでいいから、まずは、旅用のキャンピング馬車の完成まではダンジョンアタックの繰り返しなのだが…その前に、ダンジョンショップで水魔法をって買えるよね?…案外、牧場関係で使っちゃったから残金が少し不安ではある。
最悪、メリザに強めの水魔法があれば、二人でゴーレム二体も倒せるだろう。
と思いつつ、家の事をノーラ母さんに任せて、アゼルとメリザの二人を連れてクレストの街に向かいクマ五郎馬車で出発したのだった。
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