第36話 オークションという戦いの末
俺は、アゼルとメリザと共にダンジョン中心の生活を繰り返して、春がきた。
そして、この季節は冬越しクランが冬場の成果をすべて売り払い、珍しい物はオークションに回される事になる。
俺たちは主に金、銀、宝石類を売り払い、鉄と魔水晶とミスリルは残してアゼルとメリザの装備用にする予定だ。
俺の幸運のペンダントは採掘の運も上がるようで、20階層のボス部屋前に拠点を置いて19階層で採掘したわりには、確率の低いミスリルや宝石類が結構まじり、有難いことに金鉱石がかなりの量手に入った。
10階層の転移部屋を拠点にして、11階層でレベル上げを少し頑張った後に、アゼルとメリザも裏口から10階層のボスに挑み、無事に討伐も出来たし、その後ユックリと日にちをかけて、拠点を15階層と16階層の間のセーフティーエリアに移し、最終的には俺とクマ五郎で20階層のボスであるゴーレム二体セットを討伐して転移陣で帰ってきた。
ボス戦では一瞬、二体のゴーレム共に二段階ゴーレムだったら!?と焦ったが、ただのゴーレムでロム兄さんもレイナも出て来ない仕様のノーマルゴーレム君でホッとした。
多分、次回はアゼルとメリザに何かしらの固い魔物対策を追加すれば、二人でも20階層のボスであるゴーレム君二体セットでも倒せるだろう。
しかし、レベルアップと、鉱石類には恵まれたが、残念ながらお目当てのエクストラポーションは手に入らなかった…まぁ、解っていた事ではあるが、少し期待していただけにガッカリではある。
その代わりダンジョン産の装備が結構手に入り、スキルスクロールも2つ手に入った。
一つは〈回避〉のスキルで、既に持っているスキルなので、アゼルに渡した。
もう一つは、〈ライフヒール〉の魔法が20階層のボス討伐のご褒美で出たが、
『メリザが、アゼルがスキルを貰い、羨ましそうにこちらを見ています…スキルスクロールをあげますか?』
と、脳内にプープルプルっというドラクエの会話音とともにテキストが現れたので、
『うーん回復魔法かぁ~、
俺自身、欲しいっちゃ欲しいが…メリザが見てるなぁ~…
仕方ないお兄ちゃんだもの!』
と、悩んだ末に、
『イエス!!』という選択を決断してメリザにスキルスクロールを渡すと、
「ポルタ兄ぃ、大好き!!」
と抱きついてきた。
『あのぅ~、僕もヤらないとダメでしょうか?』
と伺う様に見つめるアゼルに、もうヤケクソで、俺は『おいで…』とばかりに、片手を広げてやると、
「うわあ、ポルタにぃ、ありがとー」
と感情の無い声と表情のアゼルが抱きついてきた。
そして、抱きつきながら
「これ、毎回やります?」
と小声で聞いてくるアゼルに、「要らない」とだけ答えると、ようやく、違った意味ではあったが、アゼルの心からの「ポルタ兄ぃ、ありがとう…」を頂いた…まぁ、お兄ちゃんに抱きつくなんて、多感なお年頃の少年にはキツイイベントだったようだな。
さて、そんなこんなしていると、オークションの日がやって来た。
予算は特許使用料とダンジョンで稼いだ金額を合わせて大金貨70枚ほど…これで何とか足りて欲しい…
そして、このオークションは、貴族か大商会の会長など選ばれた会員しか参加出来ない…
オークションの見学ならばチケットを買えば可能なのだが、それでも俺達にはオークションに参加する手段がないのだ。
そこで、ニールさんが動いてくれて、以前紹介状を書いてくれた伯爵婦人の、ローゼッタ・ツー・ロックウェルさんが、
「是非、力に成りたい!」
と、俺達の為にオークションに参加をしてくれたのだ。
旦那さんのロックウェル伯爵様もとても温厚そうな紳士で、
「妻から話は聞いているよ、前回はひどい目に合わしてしまった穴埋めに、君の育ての母上の為のエクストラポーションは必ず競り落とす。
まぁ、任せてくれ。」
と自分の胸をトンと叩いて、奥様をエスコートしながらオークション会場に向かって行った。
『なんとも仲の良い夫婦だな…』
と、思いながら見送り、観客席にアゼルとメリザと一緒に座りオークションを観覧したのだが、オークションが始まれば、まだエクストラポーションが出品されていないのに、アゼルもメリザもずっと祈りながらステージを眺めている。
Aランク冒険者が狩ってきたドラゴンの素材や、黄色熊の毛皮など、強さで勝ち取った獲物や運良く手に入った獲物など、様々な商品が競り落とされるなか、ようやく、ダンジョンショップの買い取り商品の番が回ってきた。
いくら顔が利くダンジョンショップと言えど、激レアな商品は買い取りではなくて、一時預かりとなりオークションでの価格決定の後に持ち込みした冒険者に手数料を引いた代金を渡す仕組みは変えられない…
緊張しながら見つめるステージに小瓶が運び込まれ、ついに、たった一本のエクストラポーションの競売が始まった。
司会進行役の
「では、最低落札価格の大金貨20枚からのスタートです。」
との声が響き、購入希望者の
「30!」
の声を合図に、ドンドン価格が上がり、諦めて手を下げていく者が増える中、ロックウェル伯爵様が手を上げながら、
「63!」と叫び、最後に残った競売相手を射殺す様に睨む!
『温厚そうな紳士だったのに…怖い…』
と俺が伯爵様の気迫にビビっていると、どうしても競り落としたい相手も伯爵様を睨み返しながら、
「64っ!」
とコールし、高々と手を上げる。
それからはテニスのラリーでも見るかの様に、左右で上がる手を交互に目で追いかけながら、刻みはじめた金額のコールのラリーは数回続いた。
そして、意地の張り合いとも言えるコール合戦の末に俺達の出せる最高額の大金貨70枚が近づいている…
苦虫を噛み潰したような顔で、ロックウェル伯爵様は、
「69!!」
とコールし、隣のローゼッタ様まで『死ねぇぇぇ!』と聞こえてきそうな目で競売相手を睨みはじめる。
『夫婦共に、こえ~よ…』
と、少し引く俺だったが、そこまで真剣に俺達の為に頑張ってくれている事に感謝の気持ちがこみ上げてくる。
競売相手も『ぐぬぬぬぅ~』となりながらも、ついに、
「70!」
とコールしてしまった。
ハンマーを握った司会進行役が興奮しながら、
「過去最高額と並んだぁぁぁ!」
と叫んでいる。
『もう、駄目だ。
予算オーバーだ…ごめんよノーラ母さん…』
と沈む俺たちは、次の瞬間、
「75ぉぉぉ!!」
というロックウェル伯爵様の気迫の籠ったコールを聞いた。
競売相手は遂に諦めたらしく、ゆっくりと手を下ろすと、会場を静寂が包み、
「大金貨75枚、過去最高額で落札ぅぅぅ!」
と進行役のハンマーの音が響き、
会場を「うおぉぉぉぉ…」というどよめきが包みこむ。
うん、予算オーバーだけどね…どうしよう?
そして、オークションから数日後、銅貨一枚でも稼ぎたいからと、あまり家にも帰らずに頑張っていたが、
「エクストラポーションの落札祝いをやりましょう。」
と、ローゼッタ様の提案で、ロックウェル伯爵様のお屋敷に家族皆で招かれる事に成った。
家族を誘いに久々に家にもどると、パーシー邸が完成間近で、事務所や蜂蜜工房は既に完成していた。
そして…ノーラさんは…俺の知っているノーラ母さんではなくなっていたのだった。
なんと、疾風アゲハの〈マサヒロ〉を背中に着けて、パタパタと羽ばたきながら洗濯物を干している…
そして、俺を見つけると、
「ポルタ君お帰りぃ~!」
とジェットスクランダーを手に入れた、どこぞの鉄の城の様にビューンと飛んで来たのだ。
アゼルとメリザは純粋に、
「ノーラさん凄い!」
と騒いでいるが…俺は、少し引いてしまった。
だって、母ちゃんが空を飛んでるんだぜ…
などという、サプライズパーティーに誘いに来たのに、俺達は正にとんだサプライズをくらう羽目になった。
聞けば、マリーがノーラさんと子供が沢山繋がりで意気投合して、色々話すうちに、丘の上の傾斜のある地面では松葉杖で移動するのが、平地より大変だったらしいく、それをノーラさんがマリーに相談した結果、
『ミヤ子の子分のマサヒロで空を飛べば?』
となったらしい。
「そうか…気付かなくてゴメンよノーラ母さん…坂道は杖じゃキツイなんて前から解ってたのに…」
と反省する俺だったが、そんな事はノーラ母さんは気にしていない様子で、練習の末、今では見事にノーラ母さんウイングバージョンとして、洗濯干しや家庭菜園や花壇の水やりに重宝しているらしく、最近では、
「お買い物も行こうかしら?」
と言い出したフライングノーラさんを必死に子供組のリーダーのシェラが止めてくれたらしい。
『シェラ、グッジョブ!』
そして、ノーラ母さんはマリーを通してウチの周辺に住む非正規の虫魔物にも、草引き等の簡単な業務を頼んでいるのだ。
『何故だろう、俺より上手に正規も非正規も扱っている…』
と、驚いている俺の前で、草引きを終えたバッタ魔物達に、
「ありがとうね。」
とリンゴを切り分けて配っている…羽の生えた虫の女王の様なノーラさんに、
『もう、俺の知るノーラ母さんではない…インセクトクイーン・ノーラ様だ…』
と、感心してしまう。
続いてノーラさんは、
「セミ千代ちゃん、子供達に集合の合図お願い。」
と言うと、セミ千代は、洗濯干場の近くの木にとまり、
「みーん、みん、みん、みぃぃぃぃ!」
と大声で鳴き始める、すると、子供組がバタバタと集まってくる…
『避難訓練か?…これ…』
と驚く俺だったが、ノーラ母さんの伸び伸びブリに、呆れるやら感心するやら…まぁ、本人がとても楽しそうで何よりだけど…
とまぁ、そんな事があったが、ノーラさんにはエクストラポーションの事は伏せたまま、
「お世話になってる伯爵様からお食事に誘われてるから皆で出かけましょう。」
と言って、皆でよそ行きを着て伯爵邸を目指して移動した。
到着した伯爵邸は、きらびやかな部屋に豪華な料理…
家族の皆はパーティーなど初めてでガチガチだったが、ロックウェル伯爵様は、
「作法など気にすると美味しくなくなる。美味しものは気楽に食べるのが一番。」
と笑いながら骨付き肉を手に持って食べてみせる。
子供組はそれを見て、パァっと明るい顔になり、何時もの様に食べ始めて、ポロやダミアの保育組に、あーんとさせて食べさせたりしていた。
ノーラさんは、料理人の人に質問をして、何とか我が家でもこの味が出せないかと頑張っているが、しかし、ノーラさん本人はまだ、このパーティーの主役とは知らない。
そして、デザートが運ばれると同時に、例の小瓶がノーラさんの前に運ばれるてくる。
ノーラさんは、
「ん、これは?」
と不思議そうに伯爵夫妻を見つめるが、伯爵様は、
「それは、ノーラさん、貴方の為にポルタ君達が頑張って手に入れたエクストラポーションです。
どうぞ、お飲みになってください。」
と説明する。
ノーラさんは、まだ状況を理解していない様子で、
「これを飲めばいいの?」
と俺達、冒険者組に聞いてくる。
俺達三人が頷くのを見て、ノーラさんは
「ヨシ!」
と気合いを入れてゴクリと飲み干す。
座ったままのノーラさんはまだ、テーブルの下で何が起こったか解らない様子で、エクストラポーションの後味に微妙な顔をしている。
しかし次の瞬間、
「冷たっ!」
と驚いたノーラさんは足元を見ると、そこには靴をはいた左足の隣に素足の右足がスカートの裾から覗いていたのだ。
春先の冷え込む夕方の床の冷たさを感じた右足をノーラさんは見つめながら、
「えっ?えっ!?」
と困惑している。
すると、ローゼッタ様が、メイドさんに「例の物を」というと、靴下と靴が運びこまれ、ローゼッタ様は、
「ノーラさん、裸足では寒いですわよ。どうぞ、私からのプレゼントです。
女のお洒落は足元からですわよ。」
とノーラさんにウィンクを飛ばした。
やはり、この夫婦は今まではのお貴族様のなかで一番粋な方々だ…と思いながらノーラさんの反応を眺めていると、ノーラさんはやっと状況を理解し始めたらしく、急に泣きながら、
「ありがとございます。
皆もありがとう…私、幸せです。
天にも昇る気持ちです…」
と言っていた。
まぁ、実際にウイングノーラさんが天に昇っていたから信憑性がある表現なのかな?とは思ったが、ツッコまないでおいた…
良かったね…ノーラ母さん…
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